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胸の痛み。
しおりを挟むあれから数日。
部で例の彼女と安達が話してるところをよく見るようになった。
その子と話してる安達は、雰囲気がどこか柔らかい。表情は相変わらず無いけど。
それを見てなのか、安達が彼女に謝ったことが部に広まったのかは分からないが、部員のみんなも安達を避ける、なんてことはなくなった。
そうなると、俺と安達の接点なんてなくなるのかなぁ、と少し寂しく思ってたら、そんなことはなかった。
通常の稽古が終わると、安達はこっちに駆け寄ってきて、自主練に付き合ってほしい、と言いに来るようになった。その姿を見ると、胸のモヤモヤがすっと晴れていくのだから不思議だ。
「…おい…おい!桐越!!」
「っ!はいっ!」
「今のところちゃんと聞いてたか!?」
「いや…その…あはは。」
「はぁ、何をぼんやりしてるんだお前は。もう一回言うからちゃんと聞いとけよ。」
「ははは…はい。すいません。」
かっと頬が熱くなるのが分かって、前を向いていられず、視線が下がる。
カツカツと鳴っているチョークの音を聞き流しながら、考えるのはあいつのこと。
そのせいで授業がなんにも入ってこない。あー最近こんなのばっかだなぁ…。
はぁ、と漏れたため息もあいつのせい。俺の幸せが逃げたらどうしてくれるんだ。
「じゃあ、今日はここまで。宿題ちゃんとやるように。」
チョークの音が止まって、先生はそんな言葉を残して出ていく。
途端にがやがやと騒がしくなる教室を横目に、机に突っ伏す。今日も結局、何も頭に入ってこなかった。
あー、くそ、このままじゃ成績落ちる。そんなことをぼんやり考えていると、隣の席の子に声をかけられた。
どうやら、誰かが廊下で俺を呼んでいるらしい。
なんだなんだ、と教室を出ると、そこにはあの「例の彼女」がいた。
「あ、こんにちは桐越先輩!」
「こんにちは、どうした?なんかあった?」
「いや、その、一緒に部活行きませんか…ちょっと話したいことがあって…。」
予想外の申し出に、言葉を失う。なんで、どうして、そんな言葉ばかりが頭をめぐる。
まぁ、でも、試合も近いしそのことかもしれない。
「…分かった。ちょっと待ってて。今準備してくる。」
・・・・・
遠くで吹奏楽部の音が聞こえるような、放課後の独特な空気の中、俺は今、あの子と並んで歩いている。
普段はきっと、ここに立つのは俺じゃなくてあいつなんだろうな。
楽しそうにこの子と笑い合うあいつを想像して、なぜか胸がずきずきと痛む。
「で、話したい事って何?」
そんな雑念を振り払って彼女に話を振る。とりあえず今は、彼女の話とやらを聞かなければ。
彼女は口をもごもごさせながら言葉を紡ぐ。
「あの、ええと…安達君、最近すごく…その変わったなって思って。あ!その、いい意味で。…それって先輩のおかげなんじゃないかなって。」
「は…え、俺?いや、俺はそんな大したことしてないと思うけど。」
「いや…先輩のおかげだと思います。今までの安達君だったら、その…私に謝ってくれるなんてことなかったと思うし…今部活で楽しく過ごせてるのも、桐越先輩のおかげだって…安達君言ってました。」
「…そう、なんだ。」
「…はい。だから、私からも…ありがとうございました。」
そう言う彼女の声はどこか暖かく感じて。
「いや、…俺は、別に。」
思わず言葉が詰まった俺に、彼女は微笑む。それはいつもあいつの側で見せる、穏やかな笑顔だった。
「では…私はこれで。」
そう言って女子更衣室の前で立ち止まった彼女に、ぎこちなく微笑む。
「…うん、じゃあ、また。」
手を振った俺に、ペコリと会釈して、彼女は扉の向こうへ消えた。
はぁ…と大きなため息をついて立ちすくむ。
あいつ、ちゃんと、「ここ」で居場所が出来たんだな…と安心すると同時に少し寂しいような、胸が痛むようなそんな不思議な心地がする。
彼女の微笑みを思い出し、また胸が痛みだす。その痛みに、思わず胸を押さえた。
良かったじゃないか、あいつの居場所を作れたんだから。…そのために頑張ってたんだろ。
なのにどうして。
―どうしてこんなに苦しいんだろう。
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