108 / 1,289
第6話
(21)
しおりを挟む
秦の口調はあまりに穏やかで、しかも笑みすら浮かべているため、和彦は心のどこかで、冗談ですよ、という秦の一言を期待していた。だが、その期待は簡単に裏切られる。
和彦は、鏡の中で自分の顔色が、蒼白から、羞恥の赤へと染まっていく様を呆然と見つめていた。秦の手によってパンツと下着を引き下ろされ、膝で引っかかる。
「この世界で、特殊な立場にいるなら、もう少し用心深くなったほうがいい。そうでないと、誰に狙われるかわかりませんよ、先生」
剥き出しになった腰を撫でながらの秦の言葉に、和彦は必死に羞恥を押し殺し、鏡に映る秦を睨みつける。しかし、すぐに強い眩暈に襲われ、きつく目を閉じていた。
「……それを、身をもって教えてくれるために、こんなことを……?」
「単なる親切で、ここまでできませんよ」
秦の手に両足の間をまさぐられ、和彦のものがひんやりとしたてのひらに包み込まれる。ここ最近味わっている誰の手とも違う感触に、鳥肌が立っていた。
「この先しっかり警戒して、こんな不埒なまねを許すのは、わたしだけにしてください。そうすることで、わたしたちの秘密は旨みを増す」
「自分勝手な、理屈だ……」
「先生がそれを言いますか。ヤクザなんて、自分勝手な奴ばかりでしょう。そして先生は、そのヤクザに囲われて、大事に大事にされている」
話しながらも秦の手は、和彦のものをゆっくりと扱いていた。なんとか体を起こそうとするが、両手に力が入らない。だったらいっそのこと、体の感覚も麻痺すればいいのに、秦の手から送り込まれる刺激だけは鮮明だ。
「うっ……」
急に秦の手の動きが速まり、無視できない快感から這い上がってくる。和彦が唇を噛み締めると、背に覆い被さってきた秦の唇が耳に押し当てられ、思わず身震いしてしまう。背に、ゾクリとするような疼きが駆け抜けていた。
「長嶺組長にたっぷり愛されているんでしょうね。わたし相手にも愛想がいい体だ」
秦の指に、欲望の形をなぞられる。こんな状況でも、和彦のものは男の愛撫に対して従順だった。しっかりと反応していたのだ。
「もう、やめ、ろ――」
「まだですよ。もっとしっかり、先生の秘密を知りたいんです。たとえば、こことか……」
和彦が鏡を凝視していると、秦が思わせぶりに指を舐める。その指がどこに向かうか察したとき、必死に洗面台の上で上体を捩ろうとしたが、弛緩している和彦の体を容易に押さえつけて、秦の指が内奥の入り口をこじ開け始める。
「あぁっ」
ビクビクと腰を震わせて、和彦は秦の指を呑み込まされる。内奥の造りを探るように慎重に指が蠢かされ、感じやすい襞と粘膜を擦り上げられていた。
異物感に呻いていた和彦だが、秦の指が、ある意図をもって浅い部分を執拗に擦り始めたとき、鼻にかかった声を洩らしていた。すでに両足から完全に力が抜け、洗面台に上体を預けきってしまうと、秦にすべてを支配されているも同然だった。
「……しずくが垂れてますよ、先生」
笑いを含んだ声でそう言った秦が、ハンカチで和彦のものを包み、軽く扱いてくる。意識しないまま内奥に挿入された指を締め付けると、巧みに蠢かされていた。
強烈な眠気と快感に、和彦の意識は朦朧とする。理性は見事にねじ伏せられ、秦に何をされているのかすら、認識が怪しくなっていた。
「安定剤ですよ。効き目が強いんで少ししか混ぜなかったんですが、さすがにあれだけの量の水を飲むと、効果は抜群ですね」
秦の言葉に、ひどく納得していた。ここまで体の自由を奪われ、意識が飛びかけているのは、アルコールのせいではなく、水に混ぜられた安定剤のせいだったのだ。この店にきて、大きなグラスで水を飲んだが、水割りにもその水は使われていたのかもしれない。
「まだ寝ないでくださいね。もう少し、先生に楽しんでもらいたいので」
内奥を指で掻き回されて解される。この頃には和彦の息遣いは乱れ、熱を帯びていた。
「はあっ……、はあ、はっ――……」
「ここにいつも、長嶺組長の熱いものを受け入れて、擦り上げてもらっているんですよね? 物欲しげに、よく締まってますよ。たまらないでしょうね。先生のここに受け入れてもらって、愛してもらったら」
付け根まで挿入された指に、焦らすように小刻みに内奥を擦られる。和彦が知る男たちなら、熱く逞しいものを含ませてくれる頃だ。ただし、秦は違った。
「もう、指じゃ物足りないですよね。いいものを用意してあるんですよ。先生を傷つけないよう、気持ちよくなってもらうために」
顔を伏せた和彦には、秦がなんのために身じろいだのか確かめようがなかった。ただ、すっかり慎みを失った内奥の入り口に、硬く滑らかな感触が擦りつけられて、ビクリと腰を震わせる。
和彦は、鏡の中で自分の顔色が、蒼白から、羞恥の赤へと染まっていく様を呆然と見つめていた。秦の手によってパンツと下着を引き下ろされ、膝で引っかかる。
「この世界で、特殊な立場にいるなら、もう少し用心深くなったほうがいい。そうでないと、誰に狙われるかわかりませんよ、先生」
剥き出しになった腰を撫でながらの秦の言葉に、和彦は必死に羞恥を押し殺し、鏡に映る秦を睨みつける。しかし、すぐに強い眩暈に襲われ、きつく目を閉じていた。
「……それを、身をもって教えてくれるために、こんなことを……?」
「単なる親切で、ここまでできませんよ」
秦の手に両足の間をまさぐられ、和彦のものがひんやりとしたてのひらに包み込まれる。ここ最近味わっている誰の手とも違う感触に、鳥肌が立っていた。
「この先しっかり警戒して、こんな不埒なまねを許すのは、わたしだけにしてください。そうすることで、わたしたちの秘密は旨みを増す」
「自分勝手な、理屈だ……」
「先生がそれを言いますか。ヤクザなんて、自分勝手な奴ばかりでしょう。そして先生は、そのヤクザに囲われて、大事に大事にされている」
話しながらも秦の手は、和彦のものをゆっくりと扱いていた。なんとか体を起こそうとするが、両手に力が入らない。だったらいっそのこと、体の感覚も麻痺すればいいのに、秦の手から送り込まれる刺激だけは鮮明だ。
「うっ……」
急に秦の手の動きが速まり、無視できない快感から這い上がってくる。和彦が唇を噛み締めると、背に覆い被さってきた秦の唇が耳に押し当てられ、思わず身震いしてしまう。背に、ゾクリとするような疼きが駆け抜けていた。
「長嶺組長にたっぷり愛されているんでしょうね。わたし相手にも愛想がいい体だ」
秦の指に、欲望の形をなぞられる。こんな状況でも、和彦のものは男の愛撫に対して従順だった。しっかりと反応していたのだ。
「もう、やめ、ろ――」
「まだですよ。もっとしっかり、先生の秘密を知りたいんです。たとえば、こことか……」
和彦が鏡を凝視していると、秦が思わせぶりに指を舐める。その指がどこに向かうか察したとき、必死に洗面台の上で上体を捩ろうとしたが、弛緩している和彦の体を容易に押さえつけて、秦の指が内奥の入り口をこじ開け始める。
「あぁっ」
ビクビクと腰を震わせて、和彦は秦の指を呑み込まされる。内奥の造りを探るように慎重に指が蠢かされ、感じやすい襞と粘膜を擦り上げられていた。
異物感に呻いていた和彦だが、秦の指が、ある意図をもって浅い部分を執拗に擦り始めたとき、鼻にかかった声を洩らしていた。すでに両足から完全に力が抜け、洗面台に上体を預けきってしまうと、秦にすべてを支配されているも同然だった。
「……しずくが垂れてますよ、先生」
笑いを含んだ声でそう言った秦が、ハンカチで和彦のものを包み、軽く扱いてくる。意識しないまま内奥に挿入された指を締め付けると、巧みに蠢かされていた。
強烈な眠気と快感に、和彦の意識は朦朧とする。理性は見事にねじ伏せられ、秦に何をされているのかすら、認識が怪しくなっていた。
「安定剤ですよ。効き目が強いんで少ししか混ぜなかったんですが、さすがにあれだけの量の水を飲むと、効果は抜群ですね」
秦の言葉に、ひどく納得していた。ここまで体の自由を奪われ、意識が飛びかけているのは、アルコールのせいではなく、水に混ぜられた安定剤のせいだったのだ。この店にきて、大きなグラスで水を飲んだが、水割りにもその水は使われていたのかもしれない。
「まだ寝ないでくださいね。もう少し、先生に楽しんでもらいたいので」
内奥を指で掻き回されて解される。この頃には和彦の息遣いは乱れ、熱を帯びていた。
「はあっ……、はあ、はっ――……」
「ここにいつも、長嶺組長の熱いものを受け入れて、擦り上げてもらっているんですよね? 物欲しげに、よく締まってますよ。たまらないでしょうね。先生のここに受け入れてもらって、愛してもらったら」
付け根まで挿入された指に、焦らすように小刻みに内奥を擦られる。和彦が知る男たちなら、熱く逞しいものを含ませてくれる頃だ。ただし、秦は違った。
「もう、指じゃ物足りないですよね。いいものを用意してあるんですよ。先生を傷つけないよう、気持ちよくなってもらうために」
顔を伏せた和彦には、秦がなんのために身じろいだのか確かめようがなかった。ただ、すっかり慎みを失った内奥の入り口に、硬く滑らかな感触が擦りつけられて、ビクリと腰を震わせる。
85
あなたにおすすめの小説
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
奇跡に祝福を
善奈美
BL
家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。
※不定期更新になります。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
オム・ファタールと無いものねだり
狗空堂
BL
この世の全てが手に入る者たちが、永遠に手に入れられないたった一つのものの話。
前野の血を引く人間は、人を良くも悪くもぐちゃぐちゃにする。その血の呪いのせいで、後田宗介の主人兼親友である前野篤志はトラブルに巻き込まれてばかり。
この度編入した金持ち全寮制の男子校では、学園を牽引する眉目秀麗で優秀な生徒ばかり惹きつけて学内風紀を乱す日々。どうやら篤志の一挙手一投足は『大衆に求められすぎる』天才たちの心に刺さって抜けないらしい。
天才たちは蟻の如く篤志に群がるし、それを快く思わない天才たちのファンからはやっかみを買うし、でも主人は毎日能天気だし。
そんな主人を全てのものから護る為、今日も宗介は全方向に噛み付きながら学生生活を奔走する。
これは、天才の影に隠れたとるに足らない凡人が、凡人なりに走り続けて少しずつ認められ愛されていく話。
2025.10.30 第13回BL大賞に参加しています。応援していただけると嬉しいです。
※王道学園の脇役受け。
※主人公は従者の方です。
※序盤は主人の方が大勢に好かれています。
※嫌われ(?)→愛されですが、全員が従者を愛すわけではありません。
※呪いとかが平然と存在しているので若干ファンタジーです。
※pixivでも掲載しています。
色々と初めてなので、至らぬ点がありましたらご指摘いただけますと幸いです。
いいねやコメントは頂けましたら嬉しくて踊ります。
帝は傾国の元帥を寵愛する
tii
BL
セレスティア帝国、帝国歴二九九年――建国三百年を翌年に控えた帝都は、祝祭と喧騒に包まれていた。
舞踏会と武道会、華やかな催しの主役として並び立つのは、冷徹なる公子ユリウスと、“傾国の美貌”と謳われる名誉元帥ヴァルター。
誰もが息を呑むその姿は、帝国の象徴そのものであった。
だが祝祭の熱狂の陰で、ユリウスには避けられぬ宿命――帝位と婚姻の話が迫っていた。
それは、五年前に己の采配で抜擢したヴァルターとの関係に、確実に影を落とすものでもある。
互いを見つめ合う二人の間には、忠誠と愛執が絡み合う。
誰よりも近く、しかし決して交わってはならぬ距離。
やがて帝国を揺るがす大きな波が訪れるとき、二人は“帝と元帥”としての立場を選ぶのか、それとも――。
華やかな祝祭に幕を下ろし、始まるのは試練の物語。
冷徹な帝と傾国の元帥、互いにすべてを欲する二人の運命は、帝国三百年の節目に大きく揺れ動いてゆく。
【第13回BL大賞にエントリー中】
投票いただけると嬉しいです((꜆꜄ ˙꒳˙)꜆꜄꜆ポチポチポチポチ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる