血と束縛と

北川とも

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第7話

(9)

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「秦との間に、何があったのか聞いていいか? もしかして、鷹津と手を組んでいるなんてことは――」
「多分、それはない。だけど、ぼくと秦が少し面倒なことになっているのは確かだ。……油断したぼくの責任だ」
「その先生を護衛するのが、俺たちの仕事だ」
 やっと顔を上げられた和彦は、生まじめに応じる三田村にそっと笑いかけてから、柔らかく唇を啄ばむ。三田村は鋭い眼差しのまま、優しい手つきで髪を撫でてくれた。
「困っているなら、正直に言ってくれ。そうなると、組長の耳にも入ることになると思うが、確実に厄介事は片付く。総和会の中嶋に話を通すだけで、済むかもしれないしな」
「……大事にはしたくない」
「先生は、うちの組の身内だ。たとえ髪の毛一本傷つけられても、それどころか、侮辱されただけでも、それはもう、先生だけじゃなく、組の面子に関わってくるんだ」
 和彦は、昭政組組長の難波のことを思い出す。難波に侮辱されたことを賢吾に報告すると、知らないうちに対処されていたのだ。賢吾が、面子を重んじているというのは、あの出来事だけでも十分にうかがえる。
 それが、自分のオンナが薬で弱らされた挙げ句、体に触れられたとなったら――。
 賢吾の報復がどんなものか想像して、和彦は身震いする。秦の身を案じてやる義理もないが、それでも、自分と関わった人間が賢吾によって手酷い目に遭うのは見たくない。
 決して、綺麗事からこう考えているわけではなく、自分の背負う罪が増えていくようで嫌なのだ。
 秦に言われた言葉を思い出し、また和彦は胸を抉られる。
 自分の手を汚したくないがために、自分のために手を汚してくれと他人に要求する人間を、傲慢と呼ぶべきだろう。
「先生?」
 よほど難しい顔をしていたのか、三田村の手が頬にかかる。壊れ物を扱うように撫でられて、我に返った和彦はそっと笑みを浮かべると、三田村のあごの傷跡を指先でなぞった。
「――あと一度だけだ。もう一度、秦がぼくに絡んできたら、あとの対処は長嶺組に任せる。もし、その前に円満に片付いたら、この件はこれで終わり。あんたも、すべて忘れる」
 考える素振りすら見せず、三田村は即答した。
「先生の望み通りに」
 そのまま二人はまた唇を重ね、足元が乱れた拍子に、和彦の体はドアに押しつけられた。このときには三田村の手がTシャツの下に入り込み、肌をまさぐられる。
 唇を吸い合いながらTシャツをたくし上げられ、三田村の手がさらに這い上がってくる。期待に凝っている胸の突起を、てのひらで捏ねるように刺激され、和彦は微かに声を洩らしていた。
「三田村……」
 小さな声で呼びかけると、和彦の求めがわかったように三田村が体を屈め、露わになった胸元に顔を埋める。舌先で胸の突起を弄られ、和彦は三田村の頭を抱き締めた。
 体の情欲は一気に高まったが、このまま部屋に入って求め合うことにためらいは覚える。三田村との関係は認められてはいるし、この部屋で体を重ねるなと言われているわけでもないが、やはりここは、賢吾の縄張りなのだ。そして和彦と三田村は、その賢吾に飼われている境遇だ。
 身を擦りつけるように抱き合い、口づけを交わした和彦と三田村の手は、わずかなためらいと羞恥、抑え切れない興奮を感じながら、互いの両足の中心へと伸びていた。
「すまない、先生。こんな時間に、こんな場所で……」
 律儀な三田村の言葉に、和彦は熱い吐息で応じる。
「お互い様だ。ぼくも――」
 三田村のスラックスのファスナーを下ろし、指を忍び込ませる。すでに熱く高ぶっている欲望を撫でると、三田村は小さく呻き声を洩らしてから、和彦のスウェットパンツと下着を下ろし、やはり高ぶっている欲望をてのひらに包み込んできた。
 和彦は、外に引き出した三田村のものに指を絡め、ゆっくりと扱いてやる。大きく息を吐き出した三田村と唇を数回触れ合わせてから、舌先で相手をまさぐる。そうしながら、互いの欲望をいとおしむように擦り上げて高めていく。
「あっ……、はあっ、はっ――」
 三田村の手の動きが速くなり、たまらず和彦は両腕でしがみつく。括れを指の輪できつく締め付けられて声を上げると、次の瞬間には、甘やかすように濡れた先端を撫でられる。おかげで和彦は、ますます強く三田村にしがみつく。体を離すと、その場に座り込んでしまいそうだった。
「ダメ、だ……。三田村、ぼくだけっ……」
「先生は何もしなくていい。俺に触れさせてくれるだけで、十分だ」
 先端を爪の先で弄られ、鋭い刺激に甲高い声を上げそうになる。ここにはいない賢吾の耳を気にして、咄嗟に三田村のワイシャツ越しの肩に噛み付いて声を押し殺した。それが、三田村の興奮を煽ったらしく、後ろ髪を掴まれて顔を上げせられ、噛み付く勢いで口づけを与えられる。
 優しいのに激しい男の愛撫に、和彦は夢中になっていた。今は何も考えたくないと、自らを追い込んでいるせいもある。
「んうっ」
 三田村の熱く濡れた舌に喉元を舐め上げられ、小さく悦びの声を洩らす。
 唇を吸い合いながら、三田村の性急な愛撫に導かれるまま、和彦は絶頂を迎える。三田村の手を、迸らせた精で濡らしていた。
「……手、汚した……」
「かまわない。汚れたとも思っていない」
 三田村の優しさに報いるため、片手で頭を引き寄せた和彦は、あごの傷跡を舌先でなぞるように舐め上げてから、体の位置を入れ替える。今度は三田村の体をドアに押し付けた。
「先生?」
「したいんだ……」
 柔らかく三田村のものを握り直し、愛撫を再開する。てのひらから伝わってくる三田村の欲望の、力強い脈動が愛しい。
 三田村は唇を引き結び、厳しい表情を浮かべる。一見すると、近寄りがたく怖い顔ではあるのだが、和彦の受け止め方は違う。三田村の余裕のなさを表しているのだと思うと、胸を疼かされる。
 この男の欲望を、自分が支配している――。
 濡れた先端を指の腹で丹念に撫で、三田村が熱い吐息をこぼした瞬間、和彦はそっと唇を吸い上げ、軽く噛み付く。そこで手の動きを速め、三田村が味わっているであろう快感をコントロールする。
 堪えきれなくなったように、三田村に激しく唇を貪られ、舌を絡め合う。その最中に和彦のてのひらは、三田村の熱い精で濡れていた。
「先生、手が――」
 唇を離してから、抑えた声で三田村が話しかけてこようとしたが、和彦は先を言わせなかった。
「汚れた、なんて言うなよ」
 間近から強い眼差しを向けると、そんな和彦の目を覗き込んでいた三田村が、ふっと微笑を浮かべる。
「……ああ」
 和彦もちらりと笑みを見せると、三田村の肩に額をすり寄せた。

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