血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
410 / 1,289
第19話

(23)

しおりを挟む
「こういうところに来て、いいと思えるのは、浴槽が広いことだな」
 和彦の言葉に、三田村が生まじめな顔で応じる。
「大胆な発言だ」
「――大胆っていうのは、こういうことを言うんだ、三田村」
 和彦は、三田村の両足の間に顔を伏せると、すでに熱くなっている欲望に唇を押し当てた。
「先生っ……」
 三田村が驚いたような声を上げ、遠慮がちに頭に手をかけてきたが、かまわず和彦は行為を続ける。
 片手で三田村のものを扱き上げながら、先端を優しく吸い、舌を這わせる。三田村はいつも、和彦がこの行為に及ぶとき、最初は遠慮がちで、申し訳なさそうな反応すら見せる。和彦は、そんな三田村を唇と舌で変化させていくのが好きだった。
 何度も大きく息を吐き出す三田村の反応をうかがいながら、逞しさを増していく欲望を丹念に舐め上げ、唇で締め付けるようにして扱き、口腔の粘膜でしっとりと包み込む。
 行為の間も湯は溜まり続け、伏せた顔が浸かるまでそう時間は残っていない。和彦の口淫が熱を帯びようとしたとき、思いがけない三田村の言葉が降ってきた。
「――先生、顔が見たい」
 三田村の掠れた囁きに、和彦は羞恥で全身を熱くしながら、小さく首を横に振る。すると、三田村の手があごにかかった。
「見たいんだ。俺を感じさせてくれている先生の顔が」
 そうせがまれ、三田村の欲望を口腔で愛撫しながら、顔をわずかに上向かせる。三田村が唇に笑みを湛えているのを見て、このまま消えたくすらなったが、狂おしいほどの欲望の前に羞恥心は呆気なく消えてしまう。
 和彦は、三田村を見上げながら、愛撫を続けていた。
 この男には、自分のあさましい部分を見る権利があると思った。和彦にとって、ただ一人の〈オトコ〉だからだ。
 三田村が苦しげな表情を浮かべた次の瞬間、口腔深くまで呑み込んだ欲望が爆ぜ、熱い精を迸らせる。和彦はすべて受け止めて、嚥下していた。
 顔が湯に浸かるギリギリの瞬間まで、まだ硬さを失わない欲望に愛撫を施し、三田村に引き起こされる。和彦の体はバスタブに押し付けられ、背後から三田村に挑まれた。
「三田、村っ……」
「つらいだろうが、我慢してくれ」
 和彦が口腔で育てた欲望が、内奥をこじ開け始める。バスタブの縁に必死にすがりつきながら、それでも和彦は三田村を受け入れる。解されないままの挿入はつらくはあるが、三田村の荒々しさを喜ぶ気持ちのほうが上回っていた。
「あっ、うあっ、ああっ」
 突き上げられるたびに、腰が揺れる。双丘を限界まで割り開かれ、繋がる部分を三田村に見つめられているのがわかった。その三田村の視線を受け、内奥の入り口がひくついていることすら。
「んうっ――」
 深くしっかりと繋がると、三田村の両手が体中に這わされる。和彦は小さく声を洩らして、内奥からじわじわと湧き起こる肉の悦びと、愛撫の心地よさに身を委ねる。
 バスタブに湯が溜まるにつれ、体にかかる負担が軽くなっていた。背後から緩やかに突き上げられるたびに、簡単に腰が揺れ、背をしならせる。前屈みとなった三田村が、背をじっくりと舐めてくれ、たまらず和彦は伸びやかな喘ぎ声を上げる。
「体、温まってきた」
 三田村が耳に唇を押し当て、囁いてくる。ささやかな感触にすら感じた和彦は、首をすくめて応じた。
「……中が、すごく熱いんだ……」
「ああ、俺も感じている。先生の中が熱い」
 バスタブの縁を掴む和彦の手に、三田村の手が重なってくる。もう片方の手が両足の間に差し込まれ、和彦のものは大きな手に包み込まれた。
 和彦は押し寄せてくる快感の波を予期して、震えを帯びた吐息を洩らした。


 三田村の腕に頭をのせ、背に回したてのひらで虎の刺青を撫でるというのは、和彦にとっては至福の時間だ。三田村は、そんな和彦の顔を見つめながら、目を細めている。
「なんだか、嬉しそうだな」
 三田村の表情に気づいて和彦がそう指摘すると、あっさりと頷かれた。
「先生が満足そうな顔をしているから、見ているこっちも嬉しくなる」
 和彦はちらりと笑みをこぼすと、目の前の三田村の唇に、自分の唇を重ねる。ベッドに移動して、たっぷりと時間をかけ、何度となく繋がって極め合ったあとだというのに、もう三田村が欲しくなっていた。ただ、気持ちはそうでも、体が欲望に追いつかない。
「気持ちよかったんだから、そういう顔にもなるだろ」
 小さな声で和彦が言うと、三田村が動揺したように視線をさまよわせた。和彦は声を洩らして笑ったあと、三田村のあごの傷跡を舌先でなぞる。
「――こういう時間が持ててよかった」
 吐息交じりに三田村が洩らし、まだ濡れている和彦の髪を指先で梳いてくれる。

しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

処理中です...