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第42話
(1)
しおりを挟むクリニックに運び込まれたクリスマスツリーは昨日無事に飾り付けが終わり、業務中、ライトがまばゆく点滅していた。
まだ気が早いのではないかと、内心思わなくもなかった和彦だが、余計なことを口にしなくてよかったようだ。
クリニックだけではなく、十二月に入ってから街の景色は慌ただしく様変わりをしている。クリスマスカラーがあちこちの建物を彩り始めているのだ。
本来なら心が浮き立つものがあるのだろうが、あいにくと和彦は、年末を憂いてため息をついている状況だ。それは、移動の車中から、土曜日の昼下がりの街を眺めていても変わらない。
クリスマスなどやってこなければいいと、八つ当たりにも似た心境で思ったりもするのだが、通りを行き交う仲睦ましげな家族や若い男女の姿を見てしまうと、罪悪感に駆られる。
今からこんな状態では、我ながら先が思いやられると眉をひそめた和彦だが、とにかく気分が晴れないのだから仕方ない。つい、重苦しいため息をついてしまい、助手席に座る組員から気遣うような視線を向けられる。
「……先生、気分が悪いようでしたら、引き返しましょうか?」
大丈夫だと、和彦は首を横に振る。
「なんでもないんだ。……組長に、余計な報告はしないでくれよ」
「承知しています」
どうだか、と心の中で呟きはしたものの、あえて念を押したりはしない。
今日の和彦は、昼までごろごろと本宅で過ごしていたのだが、せっかくだから外の空気でも吸ってこいと、賢吾によって追い出された。もちろん、和彦を邪険に扱ってのことではなく、塞ぎ込みがちなのを慮ってのことだとよくわかっている。
自分は同行しないくせに賢吾なりにどうやら計画を立てているようで、和彦は行き先も告げられないまま、ただ車に乗っている。組員が気にしているのは、和彦の体調よりも、機嫌のほうかもしれない。
別に怒ってもいないし、ヘソも曲げてはいないのだと、和彦は今度はそっと息を吐き出す。賢吾に言われるまま着込んできたダウンジャケットが、車内の暖房がよく効いているせいもあり、少し暑い。マフラーを巻いた首元は汗ばみつつある。
「ああ、あそこです」
組員に言われて前方に視線を向けた和彦は、到着したのが予想外な場所であったため、目を丸くする。
車は広大な駐車場へと入り、何かを探すように少しの間走り回っていたが、ようやくあるスペースに駐車する。他にいくらでも空いたスペースがあるというのに、大きなワゴン車と、シルバーの高級車の間に。
エンジンが切られると、それを待っていたかのように、シルバーの車の後部座席から人が降り立つ。その様子を何げなく見ていた和彦は次の瞬間、声を洩らした。
車から降りたばかりの人物が身を屈めるようにして、こちらの車内を覗き込んでくる。色素の薄い瞳と目が合い、ハッとした和彦は慌ててシートベルトを外し、車を降りる。
「――悪いね。せっかく仕事が休みなのに、呼び出して」
総和会第一遊撃隊隊長である御堂から穏やかな声で話しかけられ、反射的に首を横に振る。
「いえ、どうせ予定はなかったので……。えっ、ということは、これから御堂さんと……?」
「おや、その口ぶりだと、賢吾から何も聞かされてないようだね」
冬の陽光を受けて、灰色がかった髪が淡く輝く。その髪が彩るのは、息を呑むほど秀麗な容貌だ。
突如現れた御堂に、一体何事だろうかと身構えはしたものの、それもわずかな間だった。御堂の格好が、あまりに普段と違っているためだ。白のカットソーの上から、丈がやや長めのステンカラーコートを羽織っており、首元にはチェック柄のマフラーが巻かれている。この人でもカジュアルな格好をすることがあるのだと、和彦はそんなことを考えてしまう。
カジュアルという点では御堂と一致している自分の格好を見下ろしてから、和彦は口元を緩める。それに気づいた御堂も表情を綻ばせた。
歩きながら話そうと言われ、御堂と並んで歩き出す。当然、背後からは護衛の男たちもついてくる。和彦だけではなく、御堂にも第一遊撃隊の護衛がついているため、なかなか迫力のある一団だ。
彼らはいつもと変わらずダークグレーのスーツなのだなと、和彦はちらちらと背後を振り返る。このとき、あることに気づき、思わず御堂に尋ねていた。
「二神さんはいないんですか?」
「ここのところ忙しいから、今日は休めと言ったんだ。そして、口うるさい男がいない間に、わたしは趣味の買い物というわけだ」
御堂が指さした先には、ホームセンターの巨大な店舗がある。まさかと思っていたが、やはりここに用があるらしい。
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