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二人
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残された二人には何となく気まずい雰囲気が漂った。
「あの、驚いた?」
「まあ、な。王女様から一言も好きだと言われたことがなかったもんで」
「ごめんなさい」
サマラはファジュルに謝った。
「もし本当に好きな人ができたら私との婚約は解消してもいいからね」
サマラからすればこれは一種の政略結婚でもあった。
好きとか嫌いとかで決めたわけでもない。
自分の結婚をまさか自分で政略結婚にしてしまうとは思いもよらなかったが。
「いや、それはない。それに本当にそんなことになっても、長である親父殿は許してはくれないだろうし」
「そっか」
ファジュルも自分の結婚が好き嫌いで決められるものではないことをわかっているようだ。
「それより、どうしても聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「あの時何でお前を殺そうとしたのがファキーラの王妃だとわかったんだ?」
ずっとファジュルにはわからなかった謎をサマラ本人にようやく尋ねた。
「どうしてもティジャーラの王妃様が私を殺したいと思ってるとは思えなかったから、かな?」
「信じてたのか?」
「うん。だってあの方や異母姉上様が私を殺しても得することなんて何もないんですもの。確かに王位継承は確定させることはできるかもしれないけど、そのために危険を冒してまで私を殺しにくるというのが、どうも腑に落ちなかった。私の前では優しい仮面を被っていたのかもしれないけど、それでも刺客を放って私を殺すという事実が結びつかなかった」
「で、違うなと?」
「そう。それで前に異母姉上様に政務のお手伝いをさせられていた合間に見せられた王家の系譜を思い出したの。そこから王妃様や異母姉上様以外に、私を狙う可能性の高い御方はいないかなあと思って。しかも『王妃様』と呼ばれるお立場の方で」
「それでファキーラの王妃が浮上したのか?」
「ええ。あの方なら、そうかもしれないと。何より刺客が私の香の幻術に負けまいと、必死になって王妃様に命令されたのだと言った様子は嘘には見えなかった」
「なるほどな」
「本当は砦であなたのお母様に情報を頂いた時に確信が持てたのだけど」
ファジュルは冷えた茶杯をすすった。
全くいつの間にここまでの洞察力を身に着けていたのか。
それとも元々、本人が持っていた力を表しただけなのか。
「ファジュル、私、旅に出てからあなたにお世話になりっぱなしだったのに何も言ってなかったよね?」
「は? なんだ突然?」
「今までありがとう。そしてこれからもよろしくね」
「あ、ああ」
サマラに素直に頭を下げられてファジュルは少し横を向いた。
サマラは旅では見せたことのなかった笑顔を、この日初めてファジュルに見せたのであった。
「あの、驚いた?」
「まあ、な。王女様から一言も好きだと言われたことがなかったもんで」
「ごめんなさい」
サマラはファジュルに謝った。
「もし本当に好きな人ができたら私との婚約は解消してもいいからね」
サマラからすればこれは一種の政略結婚でもあった。
好きとか嫌いとかで決めたわけでもない。
自分の結婚をまさか自分で政略結婚にしてしまうとは思いもよらなかったが。
「いや、それはない。それに本当にそんなことになっても、長である親父殿は許してはくれないだろうし」
「そっか」
ファジュルも自分の結婚が好き嫌いで決められるものではないことをわかっているようだ。
「それより、どうしても聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「あの時何でお前を殺そうとしたのがファキーラの王妃だとわかったんだ?」
ずっとファジュルにはわからなかった謎をサマラ本人にようやく尋ねた。
「どうしてもティジャーラの王妃様が私を殺したいと思ってるとは思えなかったから、かな?」
「信じてたのか?」
「うん。だってあの方や異母姉上様が私を殺しても得することなんて何もないんですもの。確かに王位継承は確定させることはできるかもしれないけど、そのために危険を冒してまで私を殺しにくるというのが、どうも腑に落ちなかった。私の前では優しい仮面を被っていたのかもしれないけど、それでも刺客を放って私を殺すという事実が結びつかなかった」
「で、違うなと?」
「そう。それで前に異母姉上様に政務のお手伝いをさせられていた合間に見せられた王家の系譜を思い出したの。そこから王妃様や異母姉上様以外に、私を狙う可能性の高い御方はいないかなあと思って。しかも『王妃様』と呼ばれるお立場の方で」
「それでファキーラの王妃が浮上したのか?」
「ええ。あの方なら、そうかもしれないと。何より刺客が私の香の幻術に負けまいと、必死になって王妃様に命令されたのだと言った様子は嘘には見えなかった」
「なるほどな」
「本当は砦であなたのお母様に情報を頂いた時に確信が持てたのだけど」
ファジュルは冷えた茶杯をすすった。
全くいつの間にここまでの洞察力を身に着けていたのか。
それとも元々、本人が持っていた力を表しただけなのか。
「ファジュル、私、旅に出てからあなたにお世話になりっぱなしだったのに何も言ってなかったよね?」
「は? なんだ突然?」
「今までありがとう。そしてこれからもよろしくね」
「あ、ああ」
サマラに素直に頭を下げられてファジュルは少し横を向いた。
サマラは旅では見せたことのなかった笑顔を、この日初めてファジュルに見せたのであった。
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細やかな背景からいろな人の思い方や思惑でワクワクドキドキしながら読まさせていただきました。
読んでいる間、自分の周りにダマスクローズの香りがするものがなかったのに読んで間ずっと本物の薔薇の香りに包まれました!
小説を読んでシンクロするような体験は初めてでした!
素敵な作品でした、これからも頑張って下さい!
私もワクワクドキドキしてしまう感想をいただき、ありがとうございます!
実は、イランのダマスクローズのことをめちゃくちゃ調べながら書きました(*'▽')
素敵なシンクロ体験のシェアありがとうございます!
執筆の励みになってとても嬉しいです♪
これからもよろしくお願いいたします。