灰色彩度

黄永るり

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変わりゆく世界

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 最初は気のせいだと思っていた。
 だって視界から色が消えてなくなるってあり得ないと思っていたから。
 そんなおかしな現象、あるわけがない。

 ただ今年の夏の暑さに身体がまいってしまっているだけだろう、と。
 視界がぼやけてきたり、物がぶれて見えるようになる視力低下の話は聞いたことがある。

(だけど、これはどういうこと?)
 眼科の先生に話しても伝わるのだろうか。
 何て説明すれば良いのだろうか。
 その前に、母には何て言えばいいのだろう。
 紺乃はすっかり途方に暮れてしまった。

「私の世界はどうなってしまうの?」
 ぽつりと呟いてみても、変わりゆく紺乃の世界を止めることはできなかった。

 進行は、ひっそりゆるやかに少しずつ。
 でも元に戻ることはない。
 おかしいと完全に認識した時は、すでに紺乃の世界は完璧に変容していた。

 一切の彩度を失った灰色の世界へと。

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