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巫女調べの儀式②

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 大神が祀られている一番神聖な正殿では、すでに思い思いの姿で華やかな装いの巫女たちが集っていた。
 上座から並ぶ順番は決まっている。
 まずは年齢順だ。
 そして同年齢の中では、出身身分を問わず、開花した巫女としての能力が優秀なものから上座を埋めていく。
 当然アーシャは、年齢としては巫女になりたての最年少だし、巫女としての能力もさほど優れているわけでもないので今回は末席だ。
 同い年のマフルは、巫女としての能力がアーシャよりも高いので少し離れている。
 それがなぜだかアーシャは安堵した。
 アーシャの三人前までは、皆同じ巫女の正装を着ている。
 自前で衣装が仕立てられない庶民出身の巫女の証だ。
「皆、集まったな。ではこのたびの陛下をお呼びせよ」
 祭壇前に立った大巫女の声で、年配の巫女が祭壇脇の扉を開けた。
 そこから現れたのは、黄味がかった白色のカンドゥーラを着こなしている青年だった。
 深い褐色の肌に、漆黒の瞳に漆黒の髪は、アーシャと同じ砂漠の民特有の容姿だ。
 口ひげはあるものの、年齢は二十代後半に見える。
 本来なら腰の帯には、剣を帯びているはずなのだろうが、神殿の正殿に入る者は誰であろうと一切の武器や武具は持ち込めないことになっている。
 おそらく事前に、同性の神官たちによって身体検査が行われたはずだ。
 そして護衛の兵士を一人も帯同することも許されない。
「残念。もっと若い王さまかと思った」
「あなた年下を期待していたの?」
「まあね」
「でもでも、あれが例の大国ハジャルの王さまなのでしょう?」
「そうよ。御名はダミール様だとか。側室が一人もいらっしゃらなくて、王妃様が最近になってようやく懐妊されたとか」
「じゃあ側室の出番なんてないじゃない」
「そうでもないわよ。王妃様が王女様をお産みになられれば、私たちにもまだ希望はあるわ」
「確かに」
 早速、聞こえない程度の声で末席付近の巫女たちの間では王の品定めが始まった。
 アーシャは呆れた。
 王族やマフルのような貴族出身、もしくは大商人の娘ならばすぐにこの程度の情報は得られる。
 だが、そうでない身分出身の巫女たちは、出入りの商人たちから小金を握らせて情報を得るのだ。
 どれほどの小金が商人たちの懐に入ったのだろうか。
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