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産室

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 産気づいた王妃は、女官や侍女たちの手で直ちにお産のための仮部屋へ移動していた。
 お産のための仮部屋は、かなり前から建てられていたのでアーシャはその場所はすでに知っていた。
「ああ側妃さま。今から側妃さまをお呼びしに書庫まで伺わせて頂くところでございました」
 ちょうど部屋の入り口からファディーラ付きの侍女が出てきたところだった。
 この侍女はファディーラの乳母の娘で、幼い頃からファディーラに侍女として仕えていて、ファディーラが嫁ぐ時も共にこの国にやってきていたのだ。
 だからアーシャのことも良く知っていたので、ファディーラからアーシャへの言伝は、すべてこの侍女が担っていた。
「どうなさったのですか?」
「王妃さまが側妃さまをお呼びなのです。早くこちらに!」
 有無を言わさず侍女に腕を引っ張っていかれる。
「は、はい」
 アーシャは侍女に引っ張られるままに産室に入っていった。
「王妃さま、側妃さまをお連れいたしました」
 他の侍女や女官をかき分けて寝台脇にアーシャは連れてこられた。
「ううん。アーシャ……」
 陣痛の痛みと戦いながら、ファディーラはうっすらと目を開けた。
「王妃さま!」
 アーシャ思わずファディーラの手を握った。
「アーシャ、方法は見つかりましたか?」
 息を吐くのも苦しげな様子のファディーラに、アーシャは首を横に振った。
「そう、ですか。ならば、後のことはそなたに任せます」
「王妃さま!」
「お願いしましたよ」
「方法はまだわかりません。ですがお生まれになられる御子さまのことだけでもお助けできるように何とかやってみます」
 何をどうすれば良いのか、全くわからないが。
「私の巫女としての力と命をかけてでも何とかいたします!」
「アーシャ」
「ですから、しっかり元気な御子さまをお産み下さいませ!」
「そうね……」
 それ以上ファディーラは、寄せては返す波のような産みの苦しみのためにまともに話すことができなくなってしまった。
 アーシャは産室から追い出されると、自室には戻らずに、そのまま後宮の奥にある儀式用の祭壇がある大広間へと再び走り出した。
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