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第1章 才能皆無の悪役貴族

第7話 大罪人は啖呵を切る

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「わた――俺はこんな気分の悪くなる食事は取りたくない。それは義母上も同じであろう?」
「…………何が言いたい……?」

 そんな事を聞いてくる父親に俺は心底驚く。

 嘘だろ……今の雰囲気でそんなことも分からないのか?
 普通なら誰でも俺の言いたい事に気付くと思うぞ。
 
 俺の意図を掴みかねている脳味噌空っぽのレイン父にしょうが無いので1から全部説明してやる。

「はぁ……俺が言いたいのは、今度から夕食は1人で食べるから用意しなくていいし、家族の団らんを邪魔するなどと言う無粋なことは控えてやるから俺に関わらないでくれと言いたいんだ」
「お、お前……それ以上俺に指図するなら追い出すぞ……」

 はぁ……結局権力に物を言うのか……。
 
 レインが1番恐れていた相手が父親だったからどんな豪傑だと思ったら、別にそこまで強く無さそうだし頭弱いし権力に頼るだけとか、全然ダメダメじゃ無いか。
 レインはコイツの一体何処が怖かったのか分からんな。

「追い出したいなら追い出せ。チャンスも与えず追い出した酷い親と言うのが貴族間で定着するがな」
「なっ!? ど、どう言うことだ!?」
「いやそんなことも分からないのか? 後少しで決闘があるのに、それを待たずして追放したら噂好きの貴族はそう思うに決まっているだろうが」

 この人どうやってこの家を没落させずに維持して来たんだ?
 もしかして部下が物凄く有能なのか?

 まぁそれは決闘に勝ってから考えようと思い直し、家族の顔を見てみる。
 父親は怒りで顔を真っ赤にし、母親とアレスはそんな父親を見てオロオロしていた。

「はぁ……もう此処にはお前達がいる限り2度と来ない。お前達がいる限り……な」

 そんな奴らの姿を見て、これ以上此処に居たくないし返答を聞くのも時間の無駄の様なので、踵を返して部屋を後にした。






***






 レインのいなくなった部屋にて。 
 長い間沈黙が続いたかと思うと、父親が先程は全く見せなかった——と言うよりレインに威厳を見せられてビビっただけだが——当主らしい顔でアレスに話しかける。

「……アレス」
「は、はい! な、何でしょうか父上!」

 いきなり話しかけられた事にビクッと一瞬震えて慌てて返事をするアレス。
 そんなアレスの事など見向きもせず言い放つ。

「……アイツは確実に潰せ……その為の協力は惜しまん。欲しい物をなんでも言え」
「——へ? あ、ありがとうございます父上! 僕があんな無能など2度と歯向かえないようにボコボコにして見せます!」
「うむ、頑張ってくれよ我が息子よ」
「は、はい!」

 こんなやりとりがあった事などレインは知りもしない。
 しかし聞いていたとしてもこう言っただろう。

 ———その程度でこの俺が負けるわけないだろうが———と。






***






「レ、レイン様……あんな事言っても良かったのですか……?」
「あ?」

 運動場に再び戻った俺にエマが顔を青ざめて聞いてきた。
 正直修練中に邪魔をして欲しくは無いのだが、今回はエマにも迷惑を掛けたので、一旦修練を中断して返答する。

「エマは何が言いたいんだ?」
「い、いえ……ただこの家1番の権力者に決闘前なのにあんな事を言って良かったのかなぁと思っただけですっ」
「心配するな。どうせアイツらには俺に何も出来ん」
「へ? 如何してですか?」
「だからさっきも言ったが、決闘前に俺が死んだり寝込んだりしたら絶対に他の貴族に怪しまれるだろう?」
「……如何してですか?」

 うっ……エマも馬鹿なのか……?
 これだとこの家が存続出来たのが奇跡に感じて来たぞ……。

 俺は少し頭を痛くしながらも丁寧に教えてやる。

「もし決闘前に俺が寝込んだらどう思う?」
「え、えっと……熱を出した?」
「おかしいと思わないか? それまで元気だった者が突然熱なんか出すんだぞ? 何かしらの介入があったと狡猾な貴族なら思うだろうな」
「な、なるほど?」
「更に俺が死んだりでもしたら確信するだろう。次男を勝たせるために当主が何かをしたとな。それ程決闘は重要な行事なんだ」
「ほへぇ~~レイン様はそんな事まで考えていたんですね! 流石ですレイン様!」
「まぁ俺の装備が極端に弱くなったり、アレスの装備が強くなったりするだろうがな」
「それじゃダメじゃ無いですかっ!?」
「いやそれでいい。俺的には食事を共にしないだけで十分の成果だ。それに装備は魔法を使うからどうせ使わん」

 それと俺が夕食を同伴するのを断った理由も此処にある。
 もし倒れない程度に気分の悪くなる毒が食事に入っているかもしれないからな。
 もしそんな事になったら確実に俺が負けてしまう。
 魔法使いには状態異常が1番効くのは常識だしな。

 本当に面倒な時に転生したものだ。

 俺はため息を吐き、俺を凄い物を見る様な目で見ているエマを運動場の隅に追いやってから再び修練へと戻った。


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