20 / 78
本編
第十九話 第三楽章(2):解を求むオラトリオ※
しおりを挟む
ほくろの男が城へ出向いた翌朝。
帰ってこなかった男を気にかけつつも、教会の業務は平常運転。
職員用の部屋には、慎ましいデスクが向い合せでふたつ置かれている。席についた職員は、正面に人が居ない景色に一抹の寂しさを覚えた。
そこへ、施設で暮らす少年がやってきた。両手で抱えた箱を差し出して、
「門の前に荷物が置いてあったよ」
「女神様のお導きでしょうか。ありがたいですね」
少年は箱を手渡すと、ひまわりの笑顔で「そうだね! あとで何が入っていたか教えてね!」と元気に外へ駆けてゆく。
赤い包装紙で綺麗にラッピングされた箱は黄色いリボンで飾り付けられ、どの角度からみてもプレゼント。導かれて来たのは夢か希望か。
ラッピングを解くと、箱のなかにさらに箱。外箱とはうってかわって無機質な内箱の蓋には、カードが一枚挟み込まれていた。
カードといっても、手近にあった紙を手で切ったような雑なもの。丁寧な梱包とは不釣り合いで、急いで入れたか、またはこっそりと忍び込ませたような。カードよりもメモ書きと呼ぶのがふさわしい。
カードには走り書きで、『天使は堕ちた』からはじまる数行の短い散文が記されていた。
「なんだこれ?」
首をかしげ、職員は箱に手をかける。
ゆっくりと蓋を開けると、現れたのは黒い布に包まれた小さめのスイカほどの丸い物体。
厳重に、幾重に、巻きつけられた布は封印のよう。
一枚、一枚、守りを解いて。
”これ以上開けてはいけない”。
虫の知らせを無視したならば。
無表情に目を見開いたほくろの男とご対面。
首だけの姿となった彼は言う。
”ただいま”。
――目が合うともうダメだった。
朝、おいしくいただいたはずのトマトが、ベーコンが……まだ形状を維持したまま、職員の口から床へ飛び散って。これは血。これは肉。あわや意識も飛び散りそうだ。
受話器を取り、震える指で教会の組合ナンバーをプッシュ。ボタンは鋼のように重く固い。
プツリと呼び出し音が途切れたら。
「すぐに各地の代表者を集めてください!」
それだけをなんとか言い放ち、職員の意識もプツリと切れた。
その夜。
礼拝堂では、再び会議が開かれていた。
前回と違うところは、椅子がひとつ少なくなったこと。
「なんと酷い……一体誰がこのような!」
「城へ行ってこうなったのですから、城の関係者に違いありません」
「道中で賊に襲われたという可能性もあります」
「なぜ賊がわざわざ、く、首をき、切って……ああ、口にするのも恐ろしい。とにかく、なぜこのようなことをする必要があるのです」
「それは城にしても同じでしょう」
議題は言わずもがな。
ほくろの男が殺害され、その首がご丁寧に梱包された状態で贈られて来た件。
飛び交う推理は未だ形が曖昧なまま。
「挟まっていたメモはどういう意味だ? 詩のようなものが書いてあるが……。メモを書いたのは犯人か?」
「その詩は何かの比喩であると考えるのが自然でしょう」
「皆さん、一度落ち着いてください」
いつもまとめ役をかって出ていたほくろの男は今や口なし。あとを継いで立ち上がったのは細目の男。
「私にはどうもこれが、救いを求める懺悔の言葉に思えるのです。これを書いた人物は、後悔しているのでは?」
「このような酷いことを思いつく人間が後悔など……」
「メモを入れた人物は直接の犯人ではない可能性があります。不本意ながら犯人に協力せざるを得ない状況になり、助けを求めているだとか。そうでなければわざわざ筆跡が残るようなメモを残さないでしょう」
「何かに気づいてほしい、と?」
メモを囲んで神父達、そろって内容を読み上げる。
『天使は堕ちた。信じた指導者は地獄よりの使者。そして私もまた、闇に呑まれた。すまない』
「指導者とは、誰を指しているのでしょうか? 指導者と言えば……」
「王……」
その瞬間、全員の視線が交差した。
「まさか、王が? そんな、ありえない」
「だが、彼は城へ行ったのだ。しかも、減税の嘆願に」
「もしや王の怒りをかって殺されてしまったというのか? ここに送りつけられたのは見せしめというわけか!」
導火線に火が付いて、伝う炎は加速度的。
「なんということを。最近の王はどこかおかしいと思っていたが、まさかこれほどまでとは!」
「反乱です! 王の好きにさせたままではいけません。我々は脅しになど屈しない。反乱軍を結成するのです!」
帰ってこなかった男を気にかけつつも、教会の業務は平常運転。
職員用の部屋には、慎ましいデスクが向い合せでふたつ置かれている。席についた職員は、正面に人が居ない景色に一抹の寂しさを覚えた。
そこへ、施設で暮らす少年がやってきた。両手で抱えた箱を差し出して、
「門の前に荷物が置いてあったよ」
「女神様のお導きでしょうか。ありがたいですね」
少年は箱を手渡すと、ひまわりの笑顔で「そうだね! あとで何が入っていたか教えてね!」と元気に外へ駆けてゆく。
赤い包装紙で綺麗にラッピングされた箱は黄色いリボンで飾り付けられ、どの角度からみてもプレゼント。導かれて来たのは夢か希望か。
ラッピングを解くと、箱のなかにさらに箱。外箱とはうってかわって無機質な内箱の蓋には、カードが一枚挟み込まれていた。
カードといっても、手近にあった紙を手で切ったような雑なもの。丁寧な梱包とは不釣り合いで、急いで入れたか、またはこっそりと忍び込ませたような。カードよりもメモ書きと呼ぶのがふさわしい。
カードには走り書きで、『天使は堕ちた』からはじまる数行の短い散文が記されていた。
「なんだこれ?」
首をかしげ、職員は箱に手をかける。
ゆっくりと蓋を開けると、現れたのは黒い布に包まれた小さめのスイカほどの丸い物体。
厳重に、幾重に、巻きつけられた布は封印のよう。
一枚、一枚、守りを解いて。
”これ以上開けてはいけない”。
虫の知らせを無視したならば。
無表情に目を見開いたほくろの男とご対面。
首だけの姿となった彼は言う。
”ただいま”。
――目が合うともうダメだった。
朝、おいしくいただいたはずのトマトが、ベーコンが……まだ形状を維持したまま、職員の口から床へ飛び散って。これは血。これは肉。あわや意識も飛び散りそうだ。
受話器を取り、震える指で教会の組合ナンバーをプッシュ。ボタンは鋼のように重く固い。
プツリと呼び出し音が途切れたら。
「すぐに各地の代表者を集めてください!」
それだけをなんとか言い放ち、職員の意識もプツリと切れた。
その夜。
礼拝堂では、再び会議が開かれていた。
前回と違うところは、椅子がひとつ少なくなったこと。
「なんと酷い……一体誰がこのような!」
「城へ行ってこうなったのですから、城の関係者に違いありません」
「道中で賊に襲われたという可能性もあります」
「なぜ賊がわざわざ、く、首をき、切って……ああ、口にするのも恐ろしい。とにかく、なぜこのようなことをする必要があるのです」
「それは城にしても同じでしょう」
議題は言わずもがな。
ほくろの男が殺害され、その首がご丁寧に梱包された状態で贈られて来た件。
飛び交う推理は未だ形が曖昧なまま。
「挟まっていたメモはどういう意味だ? 詩のようなものが書いてあるが……。メモを書いたのは犯人か?」
「その詩は何かの比喩であると考えるのが自然でしょう」
「皆さん、一度落ち着いてください」
いつもまとめ役をかって出ていたほくろの男は今や口なし。あとを継いで立ち上がったのは細目の男。
「私にはどうもこれが、救いを求める懺悔の言葉に思えるのです。これを書いた人物は、後悔しているのでは?」
「このような酷いことを思いつく人間が後悔など……」
「メモを入れた人物は直接の犯人ではない可能性があります。不本意ながら犯人に協力せざるを得ない状況になり、助けを求めているだとか。そうでなければわざわざ筆跡が残るようなメモを残さないでしょう」
「何かに気づいてほしい、と?」
メモを囲んで神父達、そろって内容を読み上げる。
『天使は堕ちた。信じた指導者は地獄よりの使者。そして私もまた、闇に呑まれた。すまない』
「指導者とは、誰を指しているのでしょうか? 指導者と言えば……」
「王……」
その瞬間、全員の視線が交差した。
「まさか、王が? そんな、ありえない」
「だが、彼は城へ行ったのだ。しかも、減税の嘆願に」
「もしや王の怒りをかって殺されてしまったというのか? ここに送りつけられたのは見せしめというわけか!」
導火線に火が付いて、伝う炎は加速度的。
「なんということを。最近の王はどこかおかしいと思っていたが、まさかこれほどまでとは!」
「反乱です! 王の好きにさせたままではいけません。我々は脅しになど屈しない。反乱軍を結成するのです!」
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます
よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」
婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。
「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」
「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」
両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。
お姉様からは用が済んだからと捨てられます。
「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」
「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」
ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。
唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。
ここから私の人生が大きく変わっていきます。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
