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外伝(むしろメイン)
外伝八 今日も明日もその先も
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メイン:吾妻+スラム+ ジャンル:おたんじょうびかい
****************************************************
苺に林檎、少々オレンジ。甘くて酸っぱい香りがただよう吾妻邸のダイニングホールで。
「お誕生日ケーキが食べたいなぁ」
旬のくだものをふんだんに盛り付けたケーキを半分ほどお腹にしまって、カミィの心は別のケーキを宙に描いた。
「良いよ。食べさせてあげる。マリクくん、すぐ誕生日ケーキを用意して」
すかさず横からサインを出すのは屋敷の主人。その機敏さ、さしずめ条件反射。
「あぁ? ケーキ食いながらケーキの話すんのかよ。てか誕生日ケーキもそのケーキも一緒だろーが」
「違うよ。お誕生日ケーキはね、”お誕生日おめでとう”って書いたショコラがのってるんだよ。お誕生日の味がするんだよ」
「えっ!? お誕生日の味ってどんな味?」
ジュンイチの目が鈍く光を灯し、ずいとカミィに迫れば、
「甘い味だよ」
と、カミィはフォークをペロペロ。鼻にクリームをちょこんとつけて。
「そりゃお前、ただのチョコレートの味じゃねーのか。ケーキは用意できるけどよ。誰の誕生日ケーキにすんだよ」
奥様の誕生日は雪が舞う季節。主人の誕生日はカボチャが美味しい時期。あいにく今はどちらでもなし。ケーキを注文したって、書かれる文字が”お誕生日じゃない日おめでとう”になってしまう。
「マリクのお誕生日、いつなの?」
「さぁ。知らねー。そんなもん祝ったことねーし」
「じゃあ今日にしよう。お誕生日ケーキ食べようね」
「そうしよう。マリクくんの誕生日は今日だ」
「はぁ!?」
マリクが反論する暇もなく、多数決は二対一。権力数値は無限対ゼロ。
「わぁい。やったぁ。マリクお誕生日おめでとう! パーティしよう」
という一言をもって、マリクの誕生日が決定した。
「ハァイ。ダーリン。よく来てくれたね」
情熱的な色のドライフラワーが飾り付けられた看板のした、日に焼けたご婦人が快活に手を振る。
吾妻家御一行様から一歩前へ進み出て、ご婦人の愛を一身に受けとめるのはセバスチャン。
「突然の貸し切りのお願いでごめんよ。マイエンジェル」
「いいんだよ。アンタの店でもあるんだからね」
彼らがやってきたのは街なかにある一軒の大衆酒場。
ケーキを注文したお菓子屋も近いからとセバスチャンに提案され、パーティ用に急遽貸し切った。最近の彼は隙あらばこの店に訪れたい様子。理由は推して知るべし。
熱い視線を交わすふたりを置いて店内へ足を踏み入れたなら、パン! とクラッカーがお出迎え。舞う紙吹雪は小高く積もり、目にも鮮やかな山となる。
「ボスー! 今日誕生日なんスか!?」
「おめでとうございます」
「おう。今日ってことになっちまった」
「なったってどういうことなんスか!?」
「いろいろあって」
ふたりの元部下にかこまれるマリクの横を通り抜け、カミィは店のステージへまっしぐら。
「わぁー。お誕生日ケーキだぁ」
一段高いステージには、アップライトピアノとスタンドマイクに挟まれて、二段になったケーキがドン。
「あまぁい」
顔ごと突っ込みそうに近づいて匂いを嗅げば、大好きなプリンに似た、ほっぺがとろける香り。”お誕生日おめでとう”と書かれたお誕生日味のショコラプレートがケーキのまんなかでツヤりと胸をはる。
「火もつけたいなぁ。おたんじょうびの数だけつけるの。マリクって何歳かなぁ。わたしよりおにーさんだと思うけど……マリクー。マリク何歳なの?」
「あ? わから」
「おおよそ、このくらいだよ」
自分の年齢をはっきりと知らないマリクが首を横に振ろうとした瞬間、ジュンイチが割り込んだ。突きつける紙にはびっしりと何らかの数値やこの国では見慣れない文字。
ザッと眺めれば、いくつもの項目のなかに、年齢や血液型の記載が。これにいちばん驚いたのは、誰でもないマリク本人。
「なんだこれ。いつのまに調べた?」
「以前、マリクくんが寝てるあいだにちょっと」
「何やってんだよ!」
思わぬ理由で年齢が発覚したところで、さらにもうひとつ。
「ついでに言うと誕生日が今日ってのもあながちおかしくも無い。さすがに軽い検査だけで確定はできないけど、マリクくんの境遇から考えると気候が良い今時期に産まれたと考えるのがいちばん自然。正確な日付が知りたければ方法は幾通りも」
「ねぇそれよりはやく火つけて。フーしたいなぁ」
「そうだねそんなことより蝋燭だよね。はやく吹き消そうね」
「わぁい」
重大な気がしないでもない事実を中途半端に告げっぱなして、主人夫婦はもうケーキに夢中。
マリクがあっけにとられていると、ふわりと横から肩を叩かれた。
「やぁ。久しぶり」
その声の持ち主は、ケーキに負けず甘い香りを漂わせる、薄紫の髪が印象的な男。名はヘルトゥ。
「さて、じゃあ一曲歌おうか。ケーキの準備が出来たようだから」
ジュンイチが蝋燭を立て終わったのを確認し、ヘルトゥは店主に向かい、意味深に目配せ。すると、一斉に店の照明が落ち。
ステージに立ったヘルトゥは、朗らかに声高く。
「マリクくん、誕生日おめでとう!」
蝋燭に火が灯り、カミィがフー、フー、と全てを吹き消したらば、聴こえはじめる弦楽器。どこか異国の香りがするバースデーソングが奏でられ、店内は歌声で染めあがる。
ひたすらに楽しいその旋律は続き、人数分に切り分けられたケーキがそれぞれの手元に行き渡る頃、ちょうど歌が止んで、お待ちかね。
「マリク、プレゼントあるよぉ」
お誕生日の醍醐味、プレゼントのお披露目会がはじまった。
「オレ! まずオレから渡すッス! これ! めっちゃ自信作!」
意気揚々と起立してボコ、取り出したのは。
「釘バット作ってきたッス!」
「何に使えっつんだよ!」
「葉っぱにとまった悪い虫とかを殴って」
「植物ごとダメんなるわ!……いや、”悪い虫”か。使えるかもな」
木製バットに歪な釘の棘。プレゼントにしては少々物騒ではあるが、ものは使いよう。使う機会が来ないにこしたことは無いけれど……マリクは横目で屋敷の主人を盗み見た。
「次、俺から」
続いて立ちあがったのはデコ。適当な包装紙が無かったのだろう。差し出されたのはニュースペーパーで申し訳程度に包まれたプレゼント。
皆の注目のなか、薄くグレーがかった紙が開かれて。そこにあったのは息が詰まりそうな原色のジャングル。
真っ黄色の太陽と、真っ青な空、真っ赤な花に真っ緑の葉が螺旋状に描かれた目がまわるシャツ。
「げーっ! 相変わらずデコのシャツセンスやばい!」
「花を育てるなら花柄が良いと思いまして」
「ありがとな。庭いじるとき着るわ」
「着るんスかこれ!? 信じらんねー!」
スラムで生活していた頃によく展開されていたであろう、絶妙に息の合った会話のテンポ。
その横から、腕がいっぽん前に出て。
「マリクさん、私からはこれを」
「えっ、セバスチャンさんからもあるんすか」
頷いた視線の先には、落ち着いた赤の重厚な小箱。恐る恐る手を伸ばし、蓋を開いて、マリクは小さく息を吐いた。箱に収まっていたのは、上品に金属で縁取られた片眼鏡型の拡大鏡。
「ひとつあると、何かと便利ですよ」
「こんな高そうなもん……」
「どうか受け取ってください。そのかわり、私がもっとこの店の視察に出られるように、今後もよろしくお願いします」
「はい……いや、えっ!?」
「ほっほ」
「あんなボスはじめて見た。レアい」
スラムの王として君臨していた銀狼にも、噛み付けない存在があるらしい。もとから丸い目をさらに丸くするボコに、
「人生経験は貴重だという例だ」
と、デコは曇り無いサングラスの奥から見透かした事象を言葉にした。
「えっとねぇ、マリク。わたしとジュンイチくんは、ふたりでひとつプレゼントなの」
おかわりのケーキをツンツンと転がして、最後はカミィが声をたてた。
「おうちをあげるね」
「はっ!?」
住み込み用の部屋ですら、寝るくらいにしか使用していないのに。おうちなんぞもらっても、結局管理が大変なのではないか。場所によっては職場が遠のき、不便になることすらあり得る。
喜びよりも先に損得勘定が先に来て、素直に受け取るには葛藤が。眉間の皺が後頭部まで突き抜けそうになり、マリクの表情は複雑怪奇。
「家って、どこに、どんな規模の?」
「お花さんのおうちだよ。そしたらねぇ、毎日いちご食べたい。甘いのかけてねぇ」
「庭に植物用の温室を建てるんだよ」
声を揃える主人夫婦。
「そういうことか」
要は、プレゼントにかこつけた奥様のわがままなのだ。だが、それでいい。そちらのほうがよほど安心できるというもの。
高価すぎるプレゼントの対価として、いちごの品種改良に手を出すのも悪くはない。もちろん、とめどなく繁殖しつづける謎の肥料は無しで。
「おなかいっぱぁい。眠くなっちゃった」
三度目のおかわりもぺろりとたいらげたカミィは足のつかない椅子から満足気にぴょんと飛び降り、よいしょとジュンイチの膝のうえへ。
「お誕生日おいしいねぇ」
呟いたかと思うと、堅牢なゆりかごに包まれて、あっというまにスヤと夢のなか。
「ほんと思いつきで生きてんな。こいつ」
マリクの嘆息を聞いているのかいないのか、主人は不気味な笑みを浮かべて妻の頬を撫でた。
夜はこれから。宴は半ば。
突発の誕生日パーティはまだまだ続く。楽しい時間は、永遠に。
外伝八 END
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苺に林檎、少々オレンジ。甘くて酸っぱい香りがただよう吾妻邸のダイニングホールで。
「お誕生日ケーキが食べたいなぁ」
旬のくだものをふんだんに盛り付けたケーキを半分ほどお腹にしまって、カミィの心は別のケーキを宙に描いた。
「良いよ。食べさせてあげる。マリクくん、すぐ誕生日ケーキを用意して」
すかさず横からサインを出すのは屋敷の主人。その機敏さ、さしずめ条件反射。
「あぁ? ケーキ食いながらケーキの話すんのかよ。てか誕生日ケーキもそのケーキも一緒だろーが」
「違うよ。お誕生日ケーキはね、”お誕生日おめでとう”って書いたショコラがのってるんだよ。お誕生日の味がするんだよ」
「えっ!? お誕生日の味ってどんな味?」
ジュンイチの目が鈍く光を灯し、ずいとカミィに迫れば、
「甘い味だよ」
と、カミィはフォークをペロペロ。鼻にクリームをちょこんとつけて。
「そりゃお前、ただのチョコレートの味じゃねーのか。ケーキは用意できるけどよ。誰の誕生日ケーキにすんだよ」
奥様の誕生日は雪が舞う季節。主人の誕生日はカボチャが美味しい時期。あいにく今はどちらでもなし。ケーキを注文したって、書かれる文字が”お誕生日じゃない日おめでとう”になってしまう。
「マリクのお誕生日、いつなの?」
「さぁ。知らねー。そんなもん祝ったことねーし」
「じゃあ今日にしよう。お誕生日ケーキ食べようね」
「そうしよう。マリクくんの誕生日は今日だ」
「はぁ!?」
マリクが反論する暇もなく、多数決は二対一。権力数値は無限対ゼロ。
「わぁい。やったぁ。マリクお誕生日おめでとう! パーティしよう」
という一言をもって、マリクの誕生日が決定した。
「ハァイ。ダーリン。よく来てくれたね」
情熱的な色のドライフラワーが飾り付けられた看板のした、日に焼けたご婦人が快活に手を振る。
吾妻家御一行様から一歩前へ進み出て、ご婦人の愛を一身に受けとめるのはセバスチャン。
「突然の貸し切りのお願いでごめんよ。マイエンジェル」
「いいんだよ。アンタの店でもあるんだからね」
彼らがやってきたのは街なかにある一軒の大衆酒場。
ケーキを注文したお菓子屋も近いからとセバスチャンに提案され、パーティ用に急遽貸し切った。最近の彼は隙あらばこの店に訪れたい様子。理由は推して知るべし。
熱い視線を交わすふたりを置いて店内へ足を踏み入れたなら、パン! とクラッカーがお出迎え。舞う紙吹雪は小高く積もり、目にも鮮やかな山となる。
「ボスー! 今日誕生日なんスか!?」
「おめでとうございます」
「おう。今日ってことになっちまった」
「なったってどういうことなんスか!?」
「いろいろあって」
ふたりの元部下にかこまれるマリクの横を通り抜け、カミィは店のステージへまっしぐら。
「わぁー。お誕生日ケーキだぁ」
一段高いステージには、アップライトピアノとスタンドマイクに挟まれて、二段になったケーキがドン。
「あまぁい」
顔ごと突っ込みそうに近づいて匂いを嗅げば、大好きなプリンに似た、ほっぺがとろける香り。”お誕生日おめでとう”と書かれたお誕生日味のショコラプレートがケーキのまんなかでツヤりと胸をはる。
「火もつけたいなぁ。おたんじょうびの数だけつけるの。マリクって何歳かなぁ。わたしよりおにーさんだと思うけど……マリクー。マリク何歳なの?」
「あ? わから」
「おおよそ、このくらいだよ」
自分の年齢をはっきりと知らないマリクが首を横に振ろうとした瞬間、ジュンイチが割り込んだ。突きつける紙にはびっしりと何らかの数値やこの国では見慣れない文字。
ザッと眺めれば、いくつもの項目のなかに、年齢や血液型の記載が。これにいちばん驚いたのは、誰でもないマリク本人。
「なんだこれ。いつのまに調べた?」
「以前、マリクくんが寝てるあいだにちょっと」
「何やってんだよ!」
思わぬ理由で年齢が発覚したところで、さらにもうひとつ。
「ついでに言うと誕生日が今日ってのもあながちおかしくも無い。さすがに軽い検査だけで確定はできないけど、マリクくんの境遇から考えると気候が良い今時期に産まれたと考えるのがいちばん自然。正確な日付が知りたければ方法は幾通りも」
「ねぇそれよりはやく火つけて。フーしたいなぁ」
「そうだねそんなことより蝋燭だよね。はやく吹き消そうね」
「わぁい」
重大な気がしないでもない事実を中途半端に告げっぱなして、主人夫婦はもうケーキに夢中。
マリクがあっけにとられていると、ふわりと横から肩を叩かれた。
「やぁ。久しぶり」
その声の持ち主は、ケーキに負けず甘い香りを漂わせる、薄紫の髪が印象的な男。名はヘルトゥ。
「さて、じゃあ一曲歌おうか。ケーキの準備が出来たようだから」
ジュンイチが蝋燭を立て終わったのを確認し、ヘルトゥは店主に向かい、意味深に目配せ。すると、一斉に店の照明が落ち。
ステージに立ったヘルトゥは、朗らかに声高く。
「マリクくん、誕生日おめでとう!」
蝋燭に火が灯り、カミィがフー、フー、と全てを吹き消したらば、聴こえはじめる弦楽器。どこか異国の香りがするバースデーソングが奏でられ、店内は歌声で染めあがる。
ひたすらに楽しいその旋律は続き、人数分に切り分けられたケーキがそれぞれの手元に行き渡る頃、ちょうど歌が止んで、お待ちかね。
「マリク、プレゼントあるよぉ」
お誕生日の醍醐味、プレゼントのお披露目会がはじまった。
「オレ! まずオレから渡すッス! これ! めっちゃ自信作!」
意気揚々と起立してボコ、取り出したのは。
「釘バット作ってきたッス!」
「何に使えっつんだよ!」
「葉っぱにとまった悪い虫とかを殴って」
「植物ごとダメんなるわ!……いや、”悪い虫”か。使えるかもな」
木製バットに歪な釘の棘。プレゼントにしては少々物騒ではあるが、ものは使いよう。使う機会が来ないにこしたことは無いけれど……マリクは横目で屋敷の主人を盗み見た。
「次、俺から」
続いて立ちあがったのはデコ。適当な包装紙が無かったのだろう。差し出されたのはニュースペーパーで申し訳程度に包まれたプレゼント。
皆の注目のなか、薄くグレーがかった紙が開かれて。そこにあったのは息が詰まりそうな原色のジャングル。
真っ黄色の太陽と、真っ青な空、真っ赤な花に真っ緑の葉が螺旋状に描かれた目がまわるシャツ。
「げーっ! 相変わらずデコのシャツセンスやばい!」
「花を育てるなら花柄が良いと思いまして」
「ありがとな。庭いじるとき着るわ」
「着るんスかこれ!? 信じらんねー!」
スラムで生活していた頃によく展開されていたであろう、絶妙に息の合った会話のテンポ。
その横から、腕がいっぽん前に出て。
「マリクさん、私からはこれを」
「えっ、セバスチャンさんからもあるんすか」
頷いた視線の先には、落ち着いた赤の重厚な小箱。恐る恐る手を伸ばし、蓋を開いて、マリクは小さく息を吐いた。箱に収まっていたのは、上品に金属で縁取られた片眼鏡型の拡大鏡。
「ひとつあると、何かと便利ですよ」
「こんな高そうなもん……」
「どうか受け取ってください。そのかわり、私がもっとこの店の視察に出られるように、今後もよろしくお願いします」
「はい……いや、えっ!?」
「ほっほ」
「あんなボスはじめて見た。レアい」
スラムの王として君臨していた銀狼にも、噛み付けない存在があるらしい。もとから丸い目をさらに丸くするボコに、
「人生経験は貴重だという例だ」
と、デコは曇り無いサングラスの奥から見透かした事象を言葉にした。
「えっとねぇ、マリク。わたしとジュンイチくんは、ふたりでひとつプレゼントなの」
おかわりのケーキをツンツンと転がして、最後はカミィが声をたてた。
「おうちをあげるね」
「はっ!?」
住み込み用の部屋ですら、寝るくらいにしか使用していないのに。おうちなんぞもらっても、結局管理が大変なのではないか。場所によっては職場が遠のき、不便になることすらあり得る。
喜びよりも先に損得勘定が先に来て、素直に受け取るには葛藤が。眉間の皺が後頭部まで突き抜けそうになり、マリクの表情は複雑怪奇。
「家って、どこに、どんな規模の?」
「お花さんのおうちだよ。そしたらねぇ、毎日いちご食べたい。甘いのかけてねぇ」
「庭に植物用の温室を建てるんだよ」
声を揃える主人夫婦。
「そういうことか」
要は、プレゼントにかこつけた奥様のわがままなのだ。だが、それでいい。そちらのほうがよほど安心できるというもの。
高価すぎるプレゼントの対価として、いちごの品種改良に手を出すのも悪くはない。もちろん、とめどなく繁殖しつづける謎の肥料は無しで。
「おなかいっぱぁい。眠くなっちゃった」
三度目のおかわりもぺろりとたいらげたカミィは足のつかない椅子から満足気にぴょんと飛び降り、よいしょとジュンイチの膝のうえへ。
「お誕生日おいしいねぇ」
呟いたかと思うと、堅牢なゆりかごに包まれて、あっというまにスヤと夢のなか。
「ほんと思いつきで生きてんな。こいつ」
マリクの嘆息を聞いているのかいないのか、主人は不気味な笑みを浮かべて妻の頬を撫でた。
夜はこれから。宴は半ば。
突発の誕生日パーティはまだまだ続く。楽しい時間は、永遠に。
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