上 下
7 / 39

天照様に会いに行く②

しおりを挟む

ふかふかのベッドで熟睡していると扉がノックされ目が覚め、扉を開けると昨日のうちに頼んでおいた朝食が運ばれてくる。



テーブルにセットされた朝食を見ると、コーンスープとソーセージが添えられているスクランブルエッグにサラダにオレンジジュースとコーヒーに焼き立てのクロワッサンと、とっても豪華な朝食だ。



寝ぼけ眼でボーイさんにお礼を言い、ボーイさんは「ごゆっくりお召し上がり下さい」と部屋を後にした。



朝食を眺めていると異世界に居た時のことを思い出す。悪魔達と戦い補給の為に城に戻ると、朝からシルフィーが朝食だからと俺を起こしに来る。



俺のベッドの掛布団を剥ぎ手を腰に当てて仁王立ちで朝から大きな声で俺を起こしに来る。



「レイジさん、朝ですよ起きて下さい」



「今日は昼まで寝かせて」



「ダメですよ。昨日私に悪魔との戦いの話しをしてくれると約束しましたよね。それに朝食の準備も出来てますからね」



「朝食はいらない」



「ダメです、お父様も待ってますよ」



「王族と一緒なんて肩がこるから無理だよ」



「何言ってるんですか。結婚したら家族になるんだから今から慣れて下さい」



ベッドから身体を起こすと侍女さん達に有無も言わさず着替えさせられ、シルフィーに手を引かれた事を思い出してしまった。



「なんか俺弱く成ったな。向こうの世界に居た時は2年半も1人で戦い1人で食事もしてたのに、1人で食べる食事がとっても寂しい」



「俺って女々しいな、天照様の力で向こうに返してくれないかな?」



そんな独り言を吐きながら朝食を食べた。



その後チェックアウトして伊勢神宮に向かう為駅へ向かう。今日は近鉄特急しまかぜのプレミアムシートを確保していたので、本人は気づいて無いが先ほどの暗い顔から一転、子供の様にウキウキとした表情でどんな列車なのか楽しみにホームに向かう。



知らなかったが特急しまかぜには個室まであったんだ。1人なんで個室はいらないけど何時か誰かと来た時に乗ってみたいな。



ゆったりとしたプレミアムシートに座り車窓を眺めていると直ぐに伊勢市に付いてしまった。



そこからバスもあるが俺はタクシーで伊勢神宮へと向かう。伊勢神宮に着き橋を渡るとふと懐かしい記憶が蘇る。



怜志がまだ小学生に上がる前に家族旅行で母方の祖父母と一緒に来たことを思い出す。



実家はもともと母の実家で親父が婿養子で入った家だ。今は建て替えて当時の面影は無いが、祖父母と一緒に暮らした家だ。



どうしてだろう異世界では思い出す事も無かったのに、急に爺ちゃんに会いたくなる。会えるはずも無いのに。



ほんと俺はどうしたんだろ。余計な事を考えず早く天照様に会って、美味しい物食べて温泉入って忘れよう。



大鳥居を潜り橋を渡ると神聖な雰囲気を感じるが、俺には邪気や殺気以外上手く感じ取る事ができないので、川や沢山の木々のせいだと勝手に思い俺は内宮を目指し歩いて行く。



俺の家はもともと無宗教で爺ちゃんが死んだ時に初めて宗派を知ったくらい宗教には無縁の家だ。それに異世界であんな目に合わされた俺は神なんて信じない。



そんな罰当たりな事を考えながら階段を上って行くと、いつの間にかあれほど居た人が誰も居ない。



階段を登り切った先には白い雲の様な物に囲まれた、世界に1人平安絵巻などでしか見たことのない恰好の女性が立っていた。



「良く来てくれました男鹿怜志よ」



「え~っと、天照大御神様?」



「そうじゃ、妾が天照じゃ」



「すみません、男鹿怜志です」



「怜志よ、アセナでは済まない事をした」



「ほんとですよ、働かせるだけ働かせて終わったら帰れってあんまりですよ」



「本当に済まなかった、アストルテに代わり謝罪する」



「だったら俺をアセナの世界に返してよ」



「済まないがそれはできんのじゃ、よく聞いてくれ」



「どうしてですか。神なら簡単でしょう?」



「我々は神を名乗っているが本当の神ではない、遥か昔に滅んだ者じゃ」



「神じゃない?」



「我々はお前たちよりもはるかに進んだ文明を持ってこの銀河を治めていた者じゃ。しかし文明が衰退し人は永遠の生命を夢見てそれを実現した。しかし年月が経つにつれて人は子供を作らなくなり、それと永遠の生命を獲得した者も年月が経つにつれて自ら生命を閉じた。その頃に成って初めて危機を迎えた事に気づいたがその時には遅く我々は滅んだ」



「それでも残った者で自分たちの子孫を残そうと生存可能な惑星に散っていった。そこで自分たちの分かりやすく言えばDNAを使い人類を生み出し文明が発展するまで手助けしていたただの観察者じゃ」



「それならなんで人類が滅亡するんだよ?」



「それなんだが地球自体が温暖化により海面上昇が起こり、地球の自浄作用により急激な氷河期が起こり、1万年は生物の住めない星に成るのだ」



「だったらなんでもっと早く人類に教えてくれないんだよ」



「昔、アトランティスと言う国が有った。その国には常に5人の我々の同胞が付いて指導をしていた。しかし技術が発展してくると神の様に慕ってた者たちも傲慢になり、そのうちの1人を殺してしまった。それから残った4人はアトランティスを滅ぼし大陸を沈めてしまった」



「なんだよそれ。歯向かったのは極一部だろ。それなのに虐殺ってあんまりじゃないか。俺達はお前らのモルモットか!!」



「そんな事は無い!人類は妾達の子供じゃ、だからそんな事が二度と無い様に見守る事にしたのじゃ」



「でも滅亡するんだろ?」



「まだ決まった事では無い。未来は変えられる。すこし落ち着いてこれでも飲むのじゃ」



俺はいつの間にか天照様の手に有った銀色のカップを受け取った。



その中にはちょっとピンクがかったクリーム色の液体が入っていた。匂いを嗅ぐと美味しそうな桃の香りがした。ちょうど歩いて喉が渇いていたので一気に飲むとちょっとドロッとしているが昔飲んだ桃のジュースをかなり美味しくした味だ。



「これ美味しいですね」



「そうであろう。蟠桃で作った特製ジュースじゃ。これでこの地球でもアセナと同じ力が使えるぞ」



「はあああ~何してくれてんだよ。おれはアセナに帰ってシルフィーと結婚するんだ。滅亡する地球なんて知らねーよ!!」



「それでもこれからの生活に役立てると思ってのプレゼントじゃ。それにこれも授けよう」



何時の間にかカップを持っていた手にはビールのロング缶くらいの筒状のガラスの様な物体を持っていた。



「なんだこれ?」



「地上に降りるのは2回目に成るイブじゃ」



ガラスの中には白く黄色味がかった物体が有った、物体をよく見てると指先にちくりと痛みが走った。



「いて!」



『すみませんレイジさま。私とのパスを繋ぎました』



「なんで神様たちは事前にやって良いか聞かないの。返される時だってそうだし」



「済まなかった。事前に聞いたら断られると思ったので」



「ふさけんなよ、異世界から帰らされる時だってせめてシルフィーと話す時間ぐらいくれても良いのにさー」



「それには少し誤解が有るようなので話して置こう。レイジが魔神を倒した事によってあちら側の他の魔神が敵討ちに動き出しておる。」



「だったらその魔神も俺が殺してやったのに」



「思い上がるのもいい加減にしろ。レイジはかなり疲弊していたじゃろ。それに動いていた魔神は3柱じゃ」



「やって見なければ分からないだろう!」



「たしかに勝てたかもしれない。しかし地上でそんな戦いが起きれば星の方が壊れてしまう」



「たしかにでも、俺の刀が有れば勝てたかもしれない」



「たしかにあの刀は魔神の魂を喰らい強くなった。しかし3柱を倒しても魔神はさらに仇討ちの為に来るぞ。そうしたらもうアセナの住民を巻き込んだ泥沼の戦争しかありません」



「確かにそうだけど、おれは正当防衛で魔神を倒しただけですよ」



「普通精神体で有る我々を殺す武器は地上には無かったはずなのにあなたが作ったから」



「確かに悪魔の角と血でベルファストが作りましたよ。奥さんと娘が殺された怨念を込めて最後に自分まで刀に魂を吸わせて絶命してまで完成させた刀ですから」



「あなたには本当に悪いことをしたと思ってます。ですからイブを使って楽しく生きて下さいとしか言えません」



「天照様が悪い訳じゃ無いのにすみません分かりました。ただ一つだけお願いしても良いですか?」



「何ですか?」



「シルフィーに伝えて欲しい事が有るんですが」



「分かりました。必ず伝えます」



「シルフィー、俺たちは離れ離れに成ってしまったが、俺の事は忘れて幸せに成ってくれ。シルフィーが何時か子供たちに俺と言う存在が居たことを思い出話として話してくれ。いつまでも愛してる幸せになるんだよ」



「必ず伝えます」



「じゃあ、帰るわ」



「本当にありがとうございました」



天照様のまだ新しいお宮が見える。現実に戻って来たんだと実感する。手に持たイブを次元収納にしまい、一応お参りをしてから伊勢神宮を後にした。





しおりを挟む

処理中です...