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二章 最初の都

名前

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二回戦を突破し独房部屋に戻った俺を待っていたのは一回戦を終えた時以上のどよめきだった。だが、俺はそれらに脇目も振らず真っ直ぐに自らの独房の前に行き、こう言った。

「馭者よ、君は今私を乗せて馬を引いてはいない。つまりもう馭者ではないのだ。」

「ひゃ、はい。」

「すると呼び方に困る、ゆえに名前を述べるのだ。」

 (改めて名前を聞くとなると少し緊張するな。)

「ひゃ、ひゃい!俺の名前はルカスです!」

 (ルカスか、覚えたぞ。そういえば村長や世話役の名前も聞いてなかったなぁ、また"通話"で聞いてみるか。)

 そんなことを考えていると、俺の中のスキルの力が急激に増した気がした。

 (ん、力が増えた気がしたが気のせいか?)

 だが、今の力の増え方は気のせいというレベルではない。

 (まさか名前を聞いたことで何かスキルに変化があったのか?)

 名前を聞かれたことがよほど嬉しかったのか、疑問の表情を見せる俺に全く気づかず、ルカスはその後いつも通りの労いの言葉をいつも以上にハキハキと発した。

「福様、二試合目もお疲れ様でした。休憩いたしますか?」

「ああ、休憩がてら少し考え事をする。」

 今の名前事件を解決することが強さに直結すると直感した俺は即座にそのことを考え始めた。

 (名前を聞いて力が増したというのは、名前を聞いたことで信者との繋がりが強くなったためか。それとも信者が嬉しいと感じたためか。今の状況で考えられる最も可能性の高い原因はこの二つだろう。)

 だが、信者が嬉しいと感じた時は今までに何度もあっただろうし、俺が村から離れる時は悲しいと感じただろう。しかし、その時に力の増減がなかったことから後者の可能性は低くなる。

 (となると、信者の名前把握というのが"信仰心"のスキルにとって重要な役割を持つのだろうな。)

 それを早速確認するため、俺は村の世話役に向けて"通話"をした。すると久しい声が頭の中に響く。

 (福様、お久しぶりです!ご連絡を心待ちにしておりました!)

 無事に世話役と繋がったようだ。

 (久しいな。そちらは順調であるか?)

 (お心遣い感謝致します。福様が居てくださった時ほどではございませんが、村人たちや福様が改心させた二人と協力してなんとか元気に村の雰囲気を保てております。)

 (そうか、それは良いことだ。)

 村おこしが成功しているのはいいことだが、今回はその話がメインではない。早速本題に入った。

 (ところで唐突なんだが、君の名前を聞いてもいいかね?)

 (な、名前ですか!?神であられる福様に私如きの名前などを知ってもらうのは烏滸がましいことです……ですが福様のご依頼を断ることはそれ以上に烏滸がましいことゆえ、名乗らせていただきます!私の名前は雫です。)

 雫の名前を聞いた瞬間、ルカスの名前を聞いた時以上の力の増幅を感じ、そして確信した。信者の名前を把握することがさらなる高みに登る方法だと。

 (よし、では雫よ。私は今から村人全員に"通話"をする。そして、そこで全員の名前を順番に聞く。そのための準備を村人たちにさせておいてくれ。)

 もし、何の前触れもなく村人全員と"通話"を繋げてしまっては各々の村人は問題なくとも、俺の脳内の方がおかしくなってしまうだろうからだ。

 (かしこまりました、すぐに手配いたします。五分後でよろしいでしょうか?)

 (ああ、それで良い。では一旦切るぞ。)

 "通話"を切った。

 (五分で村人全員に話をつけられるということは雫は村長にでもなったのだろうか?)

 約束の五分が経った。俺は対象を村人全員にし、"通話"を発動した。

 (皆のもの、久しいな。私は上之手福、神である。既に雫から聞いているとは思うが、今から諸君らの名前を順番に聞いていく。準備ができたら最初の者から言っていくのだ。)

 俺は村人約50人全員の名前を聞き、そして覚えた。それによってスキル"信仰心"の力は跳ね上がった。

 (皆のもの、よくやってくれた。これからも精進して生活をするのだ。では、私は諸君らの同胞を救う旅に戻るとする。)

 そう言って村人全員との"通話"は切った。その後、雫に向けてもう一度"通話"を繋げ、少し話をした。

 (雫よ、聞こえるか?)

 (福様!?どうされました?)

 (先程の件に加えて頼みたいのだが、周辺の他の村の者たちの名前も聞いておいてはくれないか?)

 (はい、かしこまりました。早急に取り掛かります。五日ほどお待ちください。)

 この要求もすんなりと了承をした雫は通話を切り、すぐに手配に取り掛かったようだった。そして、"通話"を切った俺はようやく休憩に入った。

 (次はいよいよ三回戦だが、一体何回戦あるんだ?)

 そんなことを考えて休憩をとっていると、いつもの看守が独房の前に現れて言った。

「福様、二回戦の勝利おめでとうございます。当闘技場では三回戦以降の戦いに特別な形式を取っておりまして、ここからはトーナメントではありません。」

「では、ここからはどんな戦いになるのだ?」

「はい、ずばりランク戦であります!」

「ランク戦?」

「はい、ランク戦は当闘技場の特別ルールでございまして、二回戦までの戦いをその場で見た観客が出場者にランクをつけその観客がつけたランク同士で戦っていくというものです。」

「詳細は?」

「はい、ランクはS~Dまであり、Dランクの戦いから再びトーナメント形式で行っていきます。そして、そのランク帯を勝ち残った最後の一人だけが次のランク帯に上がることができます。これをC、B、A、Sと繰り返し、最後のSランク帯で勝ち残った者がマスターであるこのトガリ都の長と戦う権利を得るのです。」

「なるほど、それで私のランクは何なのだ?」

「福様のランクはなんとAです!最初からAに配属されるのは滅多にないことですので、相当誇っていいことだと思いますよ!」

 (滅多にということは稀には俺と同評価をされる奴がいるということか。)

「それとこの独房部屋は二回戦までの出場者の休憩場所でございまして、三回戦以降の休憩場所はランク帯ごとに分かれております。Aランク帯のお部屋に案内させていただきますのでお付きの方とご一緒にどうぞ。」

 そして、俺とルカスは独房部屋を出てAランク帯の部屋に案内された。

「ここがAランク帯の部屋でございます。」

 そこはホテルのような場所でAランク帯には一人一部屋ずつが与えられていた。中に入ると、部屋には闘技場の戦いが見えるモニターはもちろん、あらゆるものが完備されていた。

 (前の世界なら家賃三桁はくだらないだろうな。)

「お付きの方は同部屋でよろしかったでしょうか?」

「ああ、問題ない。」

「かしこまりました、次の試合まで当分あると思いますがそれまで心身を癒してご準備ください。では、失礼します。」

 そう言ってあの現金な看守は出て行った。相手によって、というか身分によってあれほどまでに態度を変えられるあの看守からは一種のプロ魂を感じた。もしかしたらあれもスキルなのかもしれないが。

「ルカスよ、私は試合まで少し休む。その間好きに行動をするがよい。」

「ありがとうございます、福様。では少々中を見回ってきます。」

 硬い口調とは裏腹にルカスは軽い足取りで部屋を出て行った。

 (こういうところに来るのが初めてで浮かれているようだな。俺と同じで。)

 俺も疲れがなければこの広い闘技場を見て回りたいところだが、さすがにこの数日間はハードすぎた。"回復"で身体的な回復はできるが、精神的な回復は実際に休むしかない。

 試合までの間、久しぶりの長い休憩をとることができた俺は看守が言ったように心身共に癒すことができた。そして三日後、ついに俺はランク戦の戦いに呼ばれた。
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