不完全な人達

神崎

文字の大きさ
27 / 289
流出

26

しおりを挟む
 押し込まれるように車に入れられて、運転席に晶が乗る。後部座席にはよくわからない機材が乗っているがゴミなんかはない。案外綺麗にしているようだ。
 だが蒸し風呂のような車内だ。晶はすぐにエンジンをかけて、冷房をつける。だがその助手席に座る清子は怪訝そうな顔をしていた。
「そう固くなるな。」
 そう言って晶はポケットから煙草を取り出して、火をつける。
「禁煙車じゃねぇよ。別にお前も吸って良いから。」
「……別に送ってくれなくても良いといったのに。」
 すると晶はAVの撮影をしているというバンの向こうを指さした。暗くてよくわからないが、そこにも黒い車があるように見える。
「あの車さ。」
「車?」
 清子は目を細めてその先を見る。確かに車があるようだ。
「あの白いバンでAVの撮影をしているんだったら、あの車はそれを監視してるみたいだな。」
「……監視?」
「少なくとも、AVのメーカーだってそう言う世界と繋がりがあるってことだ。今は結構、契約とかもきっちりしていて何かあったらすぐ訴えることだって出来る。でも新人女優ならいざ撮影になって、逃げ出したりドタキャンしたりする奴もいるし、キャリアが長くても精神的に不安定になる奴は、撮影前に逃げることもあるんだ。」
「……仕事を放棄するんですか。」
「あぁ。だからメーカーが監視をしていることが多い。それも自分たちじゃなくて、プロに任せてる。粗悪なところはな。」
「それって……。」
「繋がりがねぇわけじゃねぇよ。どの世界でもそういうことがあるってことだ。うちの会社も、政財界と繋がりがあるようにそっちの世界にも繋がりがある。」
 その話には納得した。だがそれがどうして一人で帰らせられないことになるのだろう。清子は不思議そうに晶を見た。
「お前、一人で帰るって言ってたけど今は危険だ。」
「どうして?」
「あいつら、女の一人歩きを見ればすぐに連れ込もうとしているみたいだな。たぶん、それを撮って裏で流すつもりだ。」
「そんなことをしても出るところが出れば……。」
「お前はそうじゃねぇかもしれねぇけど、女は自ら傷物だって言えねぇんだよ。」
 灰皿に灰を落とすと、晶はサイドブレーキを解除する。そしてギアを変えた。
「前に降ろした停留所でいいのか?」
「いいえ。スーパーに行きたい。」
「急に所帯じみたな。」
 晶は少し笑って、ハンドルを切った。そして駐車場を出ると、裏道から本通りに出る。
「今日のアレは、明神に頼まれた訳じゃねぇんだろ?」
「週刊誌の課の方が教えてくれました。このまま流され続ければ、会社にも影響があるだろうと。」
「お前、割とお節介だな。」
 そうだろうか。会社に臨時として雇われているのだ。それ以上の結果を出さなければ次はないのだと思えば、当然の行動だと思う。
「でも俺は甘いと思うな。」
「そうでしょうか。」
「そういうのに出てたって会社が把握してないのも甘いと思うし、軽い気持ちで出た明神も甘い。自分がやってきたことに対して、ケツを拭く事が出来ねぇのは自分の責任だろう。」
 その言葉に清子は少し黙った。そうかもしれない。人が嫌いだというのに、人に手を貸してしまった。心の奥底から、人が嫌いになれないからかもしれない。それは、きっと晶と体を合わせてしまったから。
「混んでるな。」
 突然の雨で、タクシーもでているのだろう。道はいつもよりも渋滞していた。
「飯いかねぇ?」
「いいえ。早く帰りたい。久住さんも早く帰った方が良いですよ。待っている人がいるのでしょう?」
 その言葉に晶は頭をかいた。信号はまた赤になり、車が止まる。煙草を消すと晶はハンドルを握ったまま清子の方を見た。
「俺さ、お前のことを忘れたことなんかねぇよ。」
「初めてだからそう思っただけでしょう?」
 冷静に清子は言うと、外の景色を見た。町中には傘を差している人が居て開店している居酒屋の前を通る女性がいる。背が高くてすらっとした足を惜しげもなく晒していて、まるで愛のようだと思った。
 だが振り返った女性は、愛とは似ても似つかない女装をした男性だったのだ。
「俺さ……。」
 頭をかいて誤魔化す。そして少しため息をつくと、前を見る。
「ずっとお前に似たような女ばっかり付き合ってたな。」
「愛さんと似ているとは思えませんが。」
「似てるよ。気が強いとことか、言い出したら聞かないところとか……あとプロ意識の高さとか。」
 そういって晶は清子の手に触れる。
「細い指だな。」
「……止めてください。」
 清子はそういって手を振り払った。だが頬がわずかに赤い。意識をしているのかもしれないと思うと、自然と笑みがこぼれる。
「浮気の相手なんかになりたくないです。」
 清子はそういって少し進みだした車の外を見た。

 居酒屋の片隅で、香子の知り合いの男が二人男を連れてきて、香子も二人女性を連れてきた。つまり、合コンなのだ。
「はじめましてぇ。」
 男にも女にもいろんなタイプがいる。サラダを取り分けてくれる女、飲み物がなければすぐに注文してくれる男、酒が入れば遠慮なく下ネタを言う男、それを恥ずかしそうに聞いているがまんざらでもない女。
 しかし香子は今日の合コンで彼氏になるような男はいないと思っていた。知り合いの男も、別の男も、別の女を見ているようだった。そしてもう一人の男は、向かい合っている香子の胸元ばかり見ている。つまり体にしか興味がないのだ。
 性欲を発散させたいなら、胸だけじゃない所を誉めろ。香子はそう思いながら、カクテルのお変わりをした。
 そして居酒屋を出ると雨の中、その男が声をかけてきた。
「二人で飲み直さない?」
 合コンに誘ってきた男は別の女と消えた。そして別の男もまた女と消えて、残ったのは香子とその男だけだったのだ。
「明日も早いから。」
「一杯だけだよ。知り合いの所でさ。」
 しつこいな。そう思いながら香子は薄く笑いを浮かべた。それを勘違いしたのだろう。男は香子の肩を抱いて、その店に連れて行こうとした。
 その後ろ姿を、居酒屋を出た史は見ていた。
「編集長。すいません。俺らが誘ったのに奢ってもらって。」
「いいや。部下に出させる上司がいるわけないだろう?」
 史と一緒に出て着た男は、部下だった。元AV男優の史に、マンネリしている恋人との夜を相談していたのだ。そういうことにも史はイヤな顔一つせずに、答えてあげた。おそらく帰るときに、アダルトグッズの店にでも立ち寄るのだろう。そうやってマンネリを解消させたいのだ。
「あれ?アレ明神さんじゃ……。」
「男連れっすね。」
 その言葉に史は少し笑った。
「明神さんは魅力的だからね。特に胸のあたりが。」
「編集長も思います?やっぱ巨乳っすよね。」
 すると隣にいた男が口を挟む。
「バーカ。ちっぱいにこそ魅力があるんだよ。感度良好でさ。」
「あーロリコンが何か言ってるわ。」
「ロリじゃねぇよ。」
 その会話に史は少し笑いながら、頭の中に清子を想像した。どんな風に乱れるのだろう。どんな声を上げるのだろう。それを知っているのは晶だというのが、とてもいらつく。
「でも明神さんの動画って、今ネットで上がってるじゃないですか。」
 その言葉に史は違和感を覚えた。
「え?」
「編集長知らないんですか?ほら。これ。」
 傘を差したまま、男は携帯を見せる。
「あれ?削除されてる……。」
「何があったんだ?」
「んー。ほら、明神さんが大学生の頃に、AVに出てた動画がアップされてたんですよねぇ。でも削除されてんな。」
 不思議そうに男は携帯を見ていた。だが史は少し笑っていった。
「それは観ない方が良いな。」
「え?」
「そのサイトは俺も知っているけど、無料でAVが観れるヤツだろう?業界にしてみたら大打撃になってるヤツだ。それを俺らが観ていたとなれば、業界に喧嘩を売っていることになるよ。」
「わかってるんですけどね。でも評判良かったから。」
「抜くなら、それなりの金を払わないとな。」
 史はそういって男たちの背中をぽんとたたく。
「まだ飲みに行くんだろう?俺が知っているところでよかったら行くか?」
「行きます。近くですか?」
「あぁ。まだ電車あるから近くの店に行くか。」
「帰り道っす。」
 そういって男たちは笑いながら、香子が向かった方向へ向かう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...