不完全な人達

神崎

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二人の夜

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 清子の携帯の画面には、無料で観れる動画のサイトがある。それは映画、テレビ番組などもあるが、年齢を形だけ確認してAVを観ることも出来る。もちろん、形ではそれは個人が撮ったものであり一部であれば著作権に引っかからないと思いこんでいる人たちがしているものだ。
 しかし一部であろうと何であろうと、それは違法だ。投稿した人も観た人も刑事罰を受けることもあれば、罰金を取られることもある。だがそれがあとを絶たないのは需要があるからだ。
 捕まらない自信があるからだろうか。
「……友達があるよって進めてくれたことはあるわ。でもこういう仕事をしているし、自分の作ったものがこういう形で公開されるのは嫌だな。」
 どうやら香子は知らないらしい。清子はここから説明をしないといけないのかと、携帯電話をしまった。そのとき、のれんをくぐって男が顔をのぞかせた。
「あ……。すいません。」
 どうやら部屋を間違えたらしい。清子は背中を向けていたが、ちらっとその男をみる。するとその人は驚いたように清子を見ていた。
「清子。」
 清子も驚いて男をみる。それは慎吾だった。
「慎吾さん。」
「飲みに来ていたのか。」
「あなたもですか?」
「母も来ている。ちょっと足を延ばしたくなったと……。」
 ハーフのような顔立ちで、綺麗な顔をしている。金色の髪は巻き毛で、背も高く手足も長い。なのに少しあどけなさが残るのが、女心をくすぐられるようだ。香子はそう思いながら、その男を見ていた。
 だが香子には目もくれず、清子とばかり話をしている。清子もこの男を紹介したいのだろうに、その隙を男が与えない。
「例の講習会の予約を取っておいた。詳しいことはまたメッセージを送る。」
「ありがとうございます。」
 清子も早く話を切り上げたいのだが、慎吾がずっといるので話も出来ない。かといって史のことを考えると、あっちへ行っていろとも言えない状況だ。
「……あのですね。慎吾さん。」
「何?」
「今、同僚と食事をしてまして。」
 だから去れといいたいのだが、慎吾はその奥にいる香子に目を向ける。すると厳しい目線で香子を見ていた。
「AV女優だろう?」
「え?」
 その言葉に香子が持つグラスが倒れそうになった。
「俺は一本しか見てないけど昨日あんたがいってたサイトで、一時期噂になってた。「Fcup素人女子大生。ナンパではめられる」みたいなタイトルのヤツ。あんた、実際見てみるとFcup以上ありそうだけどな。」
 その言葉に香子の顔が青くなった。この男はさっきトイレに行くときに、AVをしていたことを知っていたのだろう。
「……慎吾さん……。」
「何それ……。ちょっと。あたしの動画がそんなサイトに?どういうことなのよ。」
 香子は驚いたようにそれを聞く。もう誤魔化せない。ゆっくり香子を傷つけない程度にばらしていこうと想っていた清子の計画は、見事に失敗したのだ。恨めしそうに慎吾を見上げる。
「あんたもAV女優に話を切かないといけない仕事までしてんのか。それを監視されてまで。」
「監視?」
 ついに清子は頭を抱えてしまった。ずっとこんな茶番をしていたのは、香子のためだったのに慎吾のお陰で全てがぶちこわされた。
 そのときのれんが揺れた。そこには史と晶が姿を見せる。

 平日で良かった。少し広いテーブルに席を変えてもらい、改めて軽いつまみと、酒を注文した。だが慎吾だけはメニューを見て言う。
「オムライスとコーラ下さい。」
 空気を読まずに慎吾は店員にそれを言うと、店員は下がっていく。だが空気を読まないのはかえって良かったのかもしれないと、史は思っていた。おそらく四人だけならお通夜のような暗い空気になっていただろうから。
「一本だけ出たAVね……。」
 慎吾はそういって携帯電話をいじる。確かにこのサイトのランキングで上位に入っていた動画の主のように見えるが、一本しか出てない割に未だに人気があるのは、本気で感じていたからかもしれない。
「何で……編集長も久住さんもいるんですか。意味わかんない。」
「……会社に関わることだから。」
 晶はそういって煙草に火をつける。
「は……。」
「うちは出版物を提供する会社だ。みんな金銭を払って、本なり雑誌なりを買っている。なのにそれを無料であげられるとこの業界でも、AVの業界にも収益はない。そんなものを野放しに出来ないってのが、この業界で今言われていることだ。」
 煙草の煙を吐き出して、隣に座っている香子を見た。
「……だけど……あたしは出ただけ。あげた奴が一番悪いんじゃ……。」
「あげた奴は捕まらない。」
 史もそういって酒を飲んだ。そして隣に座っている清子のお猪口にも酒を注ぐ。
「慎吾さん。ずっと気になっていたことがあるのですが。」
「何だ?」
 慎吾は運ばれたコーラを受け取って、清子をみる。
「あの動画は削除されたのでもう見ることは出来ませんが、修正を「取った」割には「取った跡」が無いんです。」
「……それは俺も気が付いてた。おそらく動画を買ったり、ソフトを買ったものじゃない。修正前のものだ。」
 その言葉に晶と史も顔色を悪くする。
「どういうことだ?」
「つまり、動画に修正をかけた人。おそらくそれはメーカーの人でしょう。その人が修正をとって流したということです。」
「または、その動画の元を持ってたヤツが居た。持ってたのは監督とかだったらコピーして持っていることも出来るだろう。」
「……どっちにしても関係者ってことか。」
 酒を飲みながら、史はちらっと清子をみる。だが清子の表情は変わらない。おそらく想定していたことなのだろう。
「慎吾さんの会社はソフトの管理はどうされていますか?」
「今はデジタルだから、俺が管理してる。俺のパソコンやハードディスクからそのデータを盗むような出来るヤツはうちの会社にはいない。あんたなら出来そうだけどな。」
 慎吾はそういって少し笑う。笑うと不覚にもドキリとする。それだけ美形なのだろう。だが今はそんな状況ではない。
「手っ取り早いのはあんたが会社を辞めることだ。そうすれば会社にも痛手がない。動画を流されようが、またAVに出ようが、関係ないだろう?いくつだっけ。」
「二十八……。」
「人妻枠だな。「巨入妻。宅配男に犯される」みたいなタイトルのヤツ。」
 顔が爽やかなのに言うことはえげつないな。晶はそう思いながら煙草を消す。
「そうはいかない事情もあるんだ。慎吾さん。」
「何?そんなに出来るのか?この女。派遣だっていってた清子の方が使えるんじゃないのか?浅はかにAVなんか出るような女。さっさと切ってしまえば?」
 香子の手が震えている。軽く出たAVがこんなことになるとは思ってなかったのだろう。
「明神さんはこれから違う雑誌の編集についてもらうようになっている。新規の雑誌だ。」
 その言葉に向かいに座っていた香子が史に小さく抗議した。
「その話……まだ受けてないんですけど。」
「そうなると思うよ。良い話だと思うし。」
 史はそういって爽やかに笑顔を浮かべた。だが史もまた冷たく香子を突き放している。清子はそう思いながら、酒に口を付けた。
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