不完全な人達

神崎

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対面

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 しゃくではあるが、さっきの男が持ってきた花を添えた。そして持ってきた線香にジッポーで火をつけると手を合わせる。そして祖母のことを思いだした。
 厳しく人を信じるなといっていたのは、自分が信じた男にことごとく捨てられ、子供を一人で育てたからかもしれない。もしも男運が良ければ普通の奥さんとして子供を育てかもしれないのに。清子の様子に、晶は声をかけた。
「そろそろ行くか。」
 手を下ろして、清子は立ち上がると晶を見る。
「つきあって欲しいところがあるっていってましたね。」
「うん。病院。」
「どこか悪いんですか?」
「俺じゃねぇよ。俺は健康そのもの。」
 だろうな。清子はそう思いながら、墓地をあとにして寺の入り口で声をかける。。
「すいません。」
 すると奥から一人の老人がやってきた。この人が住職なのだろう。
「清子ちゃん。」
「ほうきやちりとりをありがとうございました。」
 それを手渡すと、住職は目を細めていった。
「さっきも言ったが、ずいぶん花さんに似てきたものだ。」
 花というのは祖母の名前だ。ずっと幼なじみだったらしい。
「そうですか。」
 さっきはそう言われて何とも思わなかったのに、今はそれを言われても複雑な気分だ。
「晶君は三郎さんに似ているよ。」
「知ってるよ。漁師だったのだろ?」
「あぁ。勇敢な男だった。あの嵐の中で漁に行って、きっとみんな仏さんになって帰ってくると思っていたのに、平気な顔で帰ってきた。あいつは、不死身なようだった。」
「でもそのおかげで海から帰ってこなきゃ元も子もねぇよ。l
「その通りだ。あぁ……これから病院へ行くのかな?」
「そのつもりだ。根性がねぇ親父でも一応親だしな。」
 入院をしているのは父親なのか。清子はそう思いながら、話を聞いていた。
「そうだ。さっき、息子さんが来てたね。」
「息子?」
「徳成さん所の次男だ。何という名前だったかなぁ。あの子は中学を出るとすぐに、都会の方の頭の良い学校で寮暮らしをしていたからなぁ。」
 そうか。さっき清子と話をしていたのは、清子の祖母の息子か。ということは、清子にとって叔父になるわけだ。
「もう関係はありませんよ。叔父といわれても顔も見たことはない。」
「その通りのようだ。だがこうやって一年に一度は花を添えに来る。他の兄弟は、何もすることはなかったのに。」
 だから慣れたような足取りで墓へ来たし、帰りも慣れていた。きっと十年間ずっと続けていたのだろう。
「だったら……葬儀の時に顔を見せれば良かったのに。」
 清子はそう言うと、住職は少し微笑んでいった。
「無理もない。人気商売なのだろう。あの子は。忙しいときには、親が死んでも顔を見せられないのは因果なものだ。」
「……なぁ。住職さんよ。あの男、名前なんて言ったっけ?」
 晶はそう聞くと、住職は顎に手を当てて思い出していた。だがふと手を叩いて、奥へ戻っていく。そして次に二人の前に姿を見せたとき、手には赤い表紙の本が握られていた。タイトルには「江河」と書かれている。
「本を書いていると言っていた。もう三十年も前のことだ。大学生の時に出版したと言って、ここにサインを書いてもらったよ。」
 案外ミーハーだな。晶はそう思いながら、そのサインを見る。毛筆で書かれている名前には「冬山祥吾」と書かれてあった。
「冬山?」
「芸名だそうだよ。そう。祥吾君と言っていた。あの子が一番花さんに似ている。」
 そんな名前だったのか。清子はそう思いながら、そのサインを見ていた。とても几帳面で綺麗な文字だと思う。まるでパソコンでプリントアウトしたような文字に、清子は全く見覚えがない。やはり親族関係は希薄なのだろう。それが祖母の身から出た錆であれば、仕方がないのかもしれない。
 そしてその血が、自分にも宿っている。裏切られて、捨てられる血が。だから誰にも期待をしない。期待をすれば馬鹿を見るのだから。

 港にたどり着くと、港の駐車場に止めてあった赤い車に晶は清子を乗せる。そして自分も乗り込むと、エンジンをかけた。
「あの病院さ、すげぇ山の上だろ?お前、よく自転車なんかで行けたよな。」
「移動手段もなかったですし。」
 ここまでバスの本数がなかったわけではなかったが、清子がこの街にいたときもバスの本数はあまりなかった。だから学生の移動手段は自転車が必須で、あのころは自転車があれば隣町までも行くような真似もしていた。もちろん、そんな無茶な事をしていたのは晶だったが。
「お父さんが入院しているんですか。」
「あぁ……胃ガンでな。もう長くねぇんだとよ。」
 家庭を顧みない父親だと言っていた。妻に逃げられてからはさらにひどくなったという。
「兄貴が、来週出所する。本当なら親父が身元引受人になるはずなんだけどこの調子だし俺がなるから、その同意書を書いて欲しいんだよ。」
「お見舞いではなくて?」
「見舞ったところでどうするんだよ。胃ガンなんか、食べ物すら受け付けねぇんだよ。」
 せわしなく煙草に火をつけて、前を見る。落ち着いて見えるが、やはり気になるのだろう。だからといって何が出来るのだろう。言葉をかければきっと誤解をするだろうから。
「胃ガンですか。苦しいですね。」
 これが精一杯の言葉だった。やがて車が走る。清子が家を出たときよりも、街には老人が多くなった。若い人がそれだけ少なくなったのかもしれない。
 海で遊ぶのは、夏とは限らない。大きな石をよけると小さな巻き貝があったりして、それを拾っては茹でて食べたりしていた。おやつといってお金を渡されるわけではない清子にとって、それがおやつ代わりだったかもしれない。
 今はそんな子供はいない。
 家に閉じこもってゲームばかりしているのか、携帯電話に夢中なのだ。
「小学校はもう一クラスしかねぇってさ。」
「私たちが通ったときは四クラスはあったのですけどね。」
「子供がいないんだろうな。うちの親父みたいに、余所の街に出てまで働く奴もいないんだろ。みんな引っ越すとか、そんな感じらしい。」
 途中でスーパーを見かけた。祖母も、清子も世話になったスーパーだ。だが、客足は閑散としているように見える。
「あまりお客さんがいないんですかね。」
「あぁ。総菜はちょっとしかなかったな。ほら、駅の方にコンビニがあっただろ?」
「はい。」
「そっちに取られているらしいな。それとか、宅配サービスとか。わざわざ足を運んでまで野菜を買おうって奴はいないんだろ。」
「……。」
「コンビニってのは便利だよな。でも……俺あまり好きになれねぇな。煙草か飲み物を買うくらいしか利用しねぇし。」
 その辺は同感だった。遅く帰ってきても、清子が食事を作る理由は、コンビニが味気ないと思ったからだろう。
 やがて、住宅街がすぎて山の方へ向かう。そこには広い駐車場と、高さはないが広い総合病院が二人の前にたっていた。
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