不完全な人達

神崎

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来訪

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 昼休憩が終わり、清子はIT部門へ足を運ぶ。一階にあるそこは、各机にパソコンが置いてあり、違う部署のパソコンよりもはいスペックなものばかりだ。そんなものよりも使う人の腕だろうと清子はいつも思っていたが、沢木の手腕は清子の考え通りのように思えた。
「こっちではなく、こっちを使えばもっと効率がいい。君、何を見ていたんだ。」
 清子が思っていたことを全て言ってくれている。姿や態度はあまり気に入らないが、それはそれでいいのかもしれない。
「沢木部長。」
 清子は声をかけると、優は少し笑って清子を手招きする。
「徳成さん。このホームページだけど、この手法ではどうだろうか。」
「そうですね。これだとつけ込まれる可能性があるので、こっちのサイトを使った方がいいかもしれません。このサイトはあまり評判はよくないし、穴だらけです。」
「だと思った。すぐに変えて。」
 年末でこっちもてんてこ舞いだろうに、さらに仕事が増えたようだ。指示をされた男はため息をついてまた仕事に戻る。
「徳成さんは年明けにこっちのかも兼務すると言っていたけれど、デスクはどうしたらいいかな。」
「私に出来ることを任せてもらえばいいです。「pink倶楽部」ではホームページの管理と、ウェブ上のトラブルくらいしかやっていなかったので。」
「余った時間があるってわけだ。そのときは何をしているの?」
「本誌の手伝いを。校閲なんかを手伝ってました。」
「ふーん。だったらそれはもう出来ないかもしれないね。いいの?正木編集長は何も言わない?」
「大丈夫ではないでしょうか。その辺はよくわかりません。やれと言われたことをやっているだけなので。」
 優は清子に自分のデスクに案内すると、パソコンを開いた。
「君が「pink倶楽部」のホームページを管理していると聞いた。」
「はい。」
「確かにほかの部署のものよりも出来はいいし、画像をコピーできないようにしてある。プリントアウトすれば画像によけいな線がはいる。これをしたのは君?」
「そうです。どんな趣味なのか知りませんが、アイコラなんかをされるとこっちが馬鹿を見ることもあるので。」
「アイコラね。でもこれでは不十分だと思わないかな。」
「え?」
「例えば、CGの勉強をしている大学生くらいなら、この画像に線が入ったものをスキャンしてその線を消すことも出来る。それからアイコラをすることも出来るだろう。」
「手間な……。」
「そう。手間だよ。でもアイコラはお金になる。そう言った労力をしてもやろうという人は後を絶たない。」
「つまり……不十分だという事でしょうか。」
「だね。」
 だったらどうしたらいいだろう。清子の頭の中でまたいろんな考えを巡らせていた。
「君はそう言ったことの勉強を相当しているみたいだけど、相手はどんな手を使ってでもやるしあまり嘗めない方がいい。」
「そうですね。わかりました。また対処を考えます。」
 その言葉に優は少し意外な感じがした。相当勉強をしているのだろう。だから自信がある。だからそれを否定されるとプライドが許さないと思っていたのに、案外すんなりと受け入れるものなのだ。
 大学どころか高校すらまともに行っていない女性だという。早くから社会にでているとこんなものなのだろうか。
「で、今夜の飲み会のことだけど。」
「参加で。」
「気が進まなそうだったのに。」
「進みませんよ。でもこれからお世話になるのでしょうし。」
「ふーん……。ま、いいか。お酒強い?」
「人並みです。」
「だったら徳成さんは参加費はいいわ。」
「どうしてですか?」
「半年後には在宅勤務になると言っていたし、ここの部署にずっといる訳じゃないだろうから。」
 だから距離を取りたい。そう言っているようだ。それはそれでありがたいが、それだけ女だからとひいきされているようで気分が良くない。
「いいえ。結構です。」
「え?」
「自分で飲み食いしたものくらいは自分で払いますから。」
「女性が飲み食いしたものなんかたかがしれてるよ。」
「……後悔しますから。」
 その言葉に書類を持ってきた了が笑う。
「どうした。久住。」
「いや……俺、さっき兄貴と話をしてたんですけどね。」
「兄?あぁ。「pink倶楽部」のカメラマンをしているっていってた兄か?」
「そうですよ。徳成さんはざるだから、奢ろうなんて思わない方がいいって言ってたんですよ。」
 口が軽い男だ。そんなことばらさなくてもいいのに。
「ざるなんだ。楽しみだな。俺も結構ざるだから。毎日晩酌とかする?」
「毎日はしません。」
 自分の酒量を思い出して、清子は言葉を飲んだ。考えてみれば、普通じゃない量を飲んでいるのだから。
「仕事に関しては徳成さんはやりやすそうだ。我孫子さんから話を聞いていたとおり。」
「恐れ入ります。もうよろしいですか。そろそろ戻りたいのですが。」
「いいよ。あ、そうだ。ちょっとして欲しいことがある。後でメッセージを送っておくから、作業が終わったらこっちに送ってきてくれないか。」
「わかりました。」
 そう言って清子はオフィスから出て行く。その後ろ姿を見て、やりやすいと思ったのは真実だと思った。女を感じない、細身で、化粧の臭いも何もない。
 優はこの容姿で誤解はされやすいが、実際は遊んでいることはほとんどない。遊びで女に声をかけたこともない。だが、近寄ってくる女はほとんどが一晩だけだったらとか、セフレにして欲しいとかという女ばかりだ。
 昼にあった史のように、元AV男優で女をとっかえひっかえしている男と同じとされたくない。
 なのに清子は全く優に興味を持たない。そう言う女がやりやすい。
「沢木部長。」
「ん?」
「これ、人事部から。」
「あー。はいはい。サインしておいてってやつね。こう言うのも電子化すればいいのになぁ。」
 そう言って優はペンを走らせた。

 オフィスに戻ってきた清子は自分の席に戻ると、いつものようにヘッドフォンをつける。そしてスリープ状態にしているパソコンを立ち上げた。すると個人宛のメッセージが何件か来ている。それを開くと、相手は優からだった。
「……。」
 手際よく仕事をこなして、清子はまたメッセージを送った。そして次の仕事へ戻ろうとしたときだった。
「長井さん。電話かかっているよ。」
 ヘッドフォン越しからでも声が聞こえて、ふとそちらをみる。すると長井は、デスクから立ち上がりその電話対応をする。だがその表情は少し暗い。ちらっと史の方を見ると、史はわずかにうなづいた。
 もう長井は時間の問題なのかもしれない。必死のことで手を打ったのだが、それは空振りに終わりそしてその代償はさらに大きかった。
 受話器を置いた長井は悔しそうに手を握り、ちらっと清子の方を見るが清子はパソコンの画面ばかりを見ている。何も感じていないのだろう。そして史もいつも通りだ。それが悔しい。
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