不完全な人達

神崎

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多忙

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 時計は五時を指す。「pink倶楽部」の部署では、結局十人中、五人が残っていた。了も帰ると当初は言っていたが、結局この時間まで残っていたのだ。みんなで少しずつ仮眠をとってはいたが、クマを薄く作っている。
「目がチカチカする。」
 晶はそう言いながら、目をこすっていた。
「仕事だいぶ終わったし、あとは出社時間からで間に合うかな。」
「飯いこうぜ。それから少し寝よう。」
「そうしようか。っと……徳成さんと明神さんは帰りたいかな。」
 史は気を利かせて言うが、清子は首を横に振る。
「とりあえず眠りたいですね。」
「そう?あたしシャワー浴びたいな。駅前のネットカフェに行って、それから会社に行くわ。」
「そう?徳成さんはどうする?」
「このままで良いです。大掃除すると言っていたし、また埃まみれになるだろうから。」
「そう?」
 大立ち回りをしたのだ。疲れているだろうに、一番涼しい顔をしている。対して、史はクマが濃くなった。今日は求めてきても大人しく寝かせよう。清子はそう思いながら、コートを身につけた。
 そして五人は会社の外に出る。夜明け前で、まだ外は暗い。そして息を吐くと白くなる。
「寒いな。清子。お前マフラーしなくていいのか?」
 晶はそう言うと、清子は首を横に振る。
「育った町の方が寒いです。」
「そうだな。あそこは寒かった。この間、雪が降ってたもんな。」
 マフラーは暖かいので助かっていたが、どうしてもあのマフラーをすると慎吾のことを思い出す。キスをされたのだ。軽いモノだったが、それをしていると史を直視できない。それに晶の前に立つのもイヤだと思う。
「まだカフェも開いてないな。牛丼屋か、ファミレスかな。どっちがいい?」
 史はそう聞くと、香子は携帯電話を取り出した。
「あ、仁の仕事が終わったみたい。」
「彼氏だっけ。あの男女。」
「そう言わないでよ。趣味みたいだから。」
「一緒に行っても良いって言ってるけど……。」
 香子はちらっと史をみる。すると史は笑顔で言った。
「かまわないよ。飲んでないんだろう?」
「飲むこともあるみたいだけど……。」
「あぁいう商売も飲まないといけないときはある。かまわない。人数が多い方が気が紛れるしね。」
 気分が良いことばかりじゃなかった。だから史はそう言って全く関係ない人物を入れようとしていたのだ。それを了もわからない人ではないのだろうから。
「そこのコンビニにいるわ。あぁ。いた。」
 紺色のドレスとお揃いの生地のハットをかぶった仁が、こちらを見て薄く微笑んでいた。
「お揃いね。」
「仁。」
 香子はそう言って仁の元へ駆け寄っていく。さっきまで疲れたと言っていたのに、仁を見れば元気になるのだろう。
「現金だな。」
 そう言って晶は了をみた。
「何だ。あの女、女が趣味か。」
「男だよ。」
「は?飾ればわかんないものだな。」
 よく見れば異様に背が高い。男と言われればそうかもしれない。肩幅も、手も大きい。
「ごめんなさいね。こんな時にご一緒して。」
「いいんです。気が紛れるし。」
「あら。そう。ね、どちらの朝食を食べるのかしら。和食が良いかしら。」
「そうだな。牛丼屋行こうぜ。」
 晶はそう言うと、文は笑いながら言う。
「六人も並べられないよ。それにほら。」
 自分たちの会社だけでなく、他の会社も似たようなものだろう。疲れて眠そうなスーツ姿の人達が、駅の方向へ向かっていた。
「どこも一緒だな。ファミレスにするか。そっちの方が人数も入るだろうし。」
 史はそう言って、五人を促した。清子はおそらくほとんどこの一日の間で、口にしたのはコーヒーか水しかなかったはずだ。それに気がついて香子や他の女子社員からチョコレートなどを勧められたが、それを口にすることもなかった。細い手足や腰がさらに細く見える。
「ね、徳成さんは食事をしたら家に帰るの?」
「いいえ。一度会社で寝ようかと。それから仕事ですし。」
「シャワー浴びないかしら。うち、近いのよ。香子もそうしなさいな。」
 ネットカフェでもおそらく同じようなものだろう。それなら仁の家でそうした方が良い。
「いいんですか?」
「良いわよ。ついでに着替えも用意できるし。下着だけは用意できないけど、コンビニとかで買えるかしら。」
「下着はあるんで。」
 夕べ、史と晶にそう言ったモノは用意してもらった。興味につけているモノは晶が持ってきたきわどい下着だ。一日落ち着かなかったが、今日着て史に見られるのもイヤだと思ったのだ。

 食事をして、史、了、晶は会社に戻っていった。香子と仁は清子とともに仁の家に向かっていた。
 まだ日が上がるまでは時間がある。清子はシャワーだけ借りたら、会社に戻ろうと思っていた。香子と仁は恋人同士なのだ。恋人同士なのだから、二人でいる時間は少しでも貴重だろう。清子なりに気を使ったのだ。
「それにしても、物騒な世の中ね。」
 仁はそう言って携帯電話を手にした。
「三沢さんがうちに来た理由も、結局お金だったのね。」
「昨日の飲み会でも変だと思ったんです。話をしていても、あまりこの業界のことは知らないし、女性だからと言うワードが結構出てくることが多かった。我孫子さんはあまりそう言うことをいわない人だったから。」
 すると香子はため息を吐いていった。
「AVの世界もそう。あたし、結構メーカーとか事務所に行くことが多いんだけど、昔のことを知らない人でもあたしに出て欲しいとかって言う人多いの。この体だからかな。」
「それは仕方ないわ。あたしでも目に行くもの。」
「やだ。仁ったら。」
「……お金だけじゃないです。」
 清子がぽつりとそう言うと、香子はふと清子をみる。
「三沢さんは、ずっとこういったウェブ関係のパイオニアみたいなものでした。講師をして、自分の研究所を立ち上げて、自分の弟子のような人が下について、どこからの企業でも声がかかっていたみたいですね。」
「それってどれくらい前の話?」
「二、三年くらいでしょうか。私は、一度講習へ行ったことがあったんですけど……。」
「どうだったの?」
「正直、そこまで専門的なものではなかったので、お金をどぶに捨てたというのが感想です。」
 毒舌にそう言う清子に、仁は少し笑った。
「それで少し有名になったのが悪かったのかもしれませんが、毎夜、外にでることが多かったみたいです。了君が言ってましたから。」
「了君?」
「あぁ。すいません。昔からの呼び名で。久住さんの弟だから。」
 了のことは了君と自然に呼ぶのだろう。なのにかたくなに明のことは久住さんと呼ぶ。それだけ何か意識をしているのだろうか。
「それでその自己努力を怠ったと?」
「そう思います。こういうのを専門にしようと思うんだったら、講習会や研究所に出入りするくらいの先端を知らなければいけない。けれど、おそらく三沢さんはその繋がりだけを大事にした。」
「繋がりって……。」
「つまり顧客です。いくら勉強をしても、仕事の依頼がなければ食いっぱぐれますから。それだけ個人経営というのは、バランスを取らないといけない。」
「でも腕がなきゃ、顧客に相手にされないわ。」
「だから、考えたのが自分をおいてレベルが上がっていく周りを、自分のレベルまで下げようと思ったのでしょう。だから、嫌がらせとして「なりすまし」や「荒らし」を仕掛けた。」
 すると仁はため息をついていった。
「自己努力もしないで、周りについていっていないのを自分に会わせるようにするなんてとんでもないわ。でも……罪にはならないんじゃないの?」
「犯罪ではないですから。今日のことは暴行で訴えることは出来るかもしれませんが、「なりすまし」や「荒らし」は明確な法律は出来ていないんです。」
「困ったわね。」
「でもさ。」
 香子が意地悪そうに清子に聞く。
「徳成さん、年明けにでも弁護士さんの所へ行こうって思ってるでしょ?」
「よくわかりましたね。」
「徳成さんならそれくらいするかなって思ったの。」
 その言葉に清子は少し笑った。そのとき、清子の携帯電話が鳴った。それを取り出すと、清子は少し表情を曇らせて電話応対を始めた。
「どうしたの?」
「あ。いいえ。すいません。ちょっと用事が出来てしまって。」
「え?徳成さん、寝ないつもり?」
「ホテルからです。今日も会社が予約してくださっていたみたいなんですけど、結局行けなかったのでキャンセルになったみたいなんです。でも荷物があるからどうしたらいいかと。ちょっと取りに行ってきます。せっかく誘っていただいたのですけど、そのまま会社に戻りますから。」
「いいのよ。あたしたちが無理矢理誘ったようなものだし。」
 そう言って清子は、まだ明けきれない夜の道を香子たちと逆の方へ歩いていく。それを見て、香子はため息をついた。
「仕事しかしてない子みたい。」
 仁がそう言うと、香子は仁を見上げていう。
「編集長が縛り付けたくなるのもわかるわね。」
「付き合ってるって言ってたわね。」
「編集長ってそう言うところがあるわ。無理矢理自分の方に向かせて、抵抗すると燃えるみたい。」
「サディストね。そのうちあの子、縛られるわよ。」
「まぁ、徳成さんがそれでいいんなら、それで良いけど。」
「香子は?」
「え?」
「今夜、縛って良いかしら。それから目隠しとかしていい?」
「あたし別にマゾじゃないよ。」
「でも、この間、ア○ルを責めたら、興奮してたじゃない。そういうのもたまらないわ。」
「やだ。変態。」
「今日は寝かせてあげる。でも今夜は寝かさないわよ。」
 仁はそういって香子の肩を抱き寄せる。
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