不完全な人達

神崎

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多忙

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 会社に戻ると、妙に静かで少し気後れした。仮眠室へ行くとき、ちらっと他の部署の方を見ると晶が言っていたように床に寝袋を敷いて寝ている人や、来客用のソファーで横になっている人もいる。みんな帰れなかった人だ。
「仮眠室は一杯だな。」
 女性だけが仮眠室にいるようだが、ソファーもベッドも埋まっている。清子は首を横に振ると、その場をあとにしようとした。
「オフィスで寝ますから。」
「寝れるの?」
「編集長と了君しかいないのでしょう?気になりませんよ。」
「男がいても気にしないで寝れるのか?」
「別に男とか女とかどうでも良い。」
 清子はそういうと、オフィスへ向かおうとした。すると晶がそれを止めるように清子の手首を引いた。
「何?」
「良いところがあるんだよ。ついて来いよ。」
 そういって晶は無理矢理のように清子を連れていく。そしてやってきたのは、会議室だった。そこは外部の人が来てインタビューをしたり、メーカーとの打ち合わせなどに使うところで、清子には縁がないところだった。
「ここって……。」
「ここ穴場なんだよ。毎年。外部の奴が来るから、常に綺麗にしてるし。そこのソファーは寝心地良いし。」
 そういって晶がそのソファーに座ると、清子もそこに座った。確かにオフィスにある来客用のソファーよりもあまり使われていないのか、ふかふかする。
「寄っかかれよ。」
 そういって晶は清子の肩に手をかけて、自分の方に倒した。
「何で久住さんも?」
「俺も寝たいから。でも……寝れるかな。お前がいて、勃起するかもな。」
「元気ですよね。」
「いいや。元気ならすぐに押し倒してる。でも今はこれが限界。なぁ、タイマーかけて。八時三十分に。」
 清子はポケットに入れている携帯電話を取り出すと、アラームをセットした。それを理由にさっさと離れてしまおう。そう思っていたのに、晶は清子の太股に頭をおいた。
「膝枕。」
「もっと肉付きが良い人の方が良いでしょう?」
「ううん。これだけで幸せだと思う。単純だな。俺。」
 思わず晶の額にかかっている髪をよけた。すると薄く開いた目がこちらを見ている。瞳の色が薄く、その色が昔から好きだった。そしてその額にある大きな傷が目にはいる。その傷をみる度に、あの無気力だった高校の時に唯一印象的だった冷えた目を思い出す。
 傷にふれてそのまま体をおると、その傷に唇を寄せた。

 アラームが聞こえて目を覚ます。何度か鳴ったらしいが、やっと気がついた。史はそれに手を伸ばして時間をみる。もう外はすっかり明るいようだ。
 何時間か寝れたようで体がだいぶ楽になっていた。ぐっと伸びをして、周りを見渡す。まだ誰もいないようだ。清子も晶の姿もない。だが奥の来客用のソファーに了の姿があった。まだ了は寝ているらしい。
 そのとき、オフィスに清子と晶が入ってきた。ここで眠っていたのだろうか。気がつかなかった。
「お。編集長起きた?」
「おはようございます。」
 晶と清子がそういって、自分のデスクに戻っていった。すると他の社員たちも入ってくる。
「おはよう。悪いねぇ。俺、先に帰っちゃって。」
「今日泊まりですよ。」
「マジで?寝た?」
「んー。二時間くらい寝たかな。」
 晶はそういってパソコンを立ち上げる。
「ま、明日から休みだし、ゆっくり寝れるって。」
 そのときやっと了が起きあがってきた。寝起きはあまりよくないらしく、ソファーでまだぼんやりしていた。そのときオフィスに、週刊誌担当の男が入ってきた。
「徳成さん。」
 カップにコーヒーを入れた清子に、その男が近づいてくる。
「はい。」
「社内チャット見たけど、「荒らし」が捕まったって?」
「身元が分かりました。他の課のサイトも荒らしがあったって聞いてますが、同一人物でしたか?」
「そう。同じアカウント。または、cookieが一緒。」
「裏アカもあったんですね。」
「そうらしい。助かったよ。うちのIT部門、昨日ついに根を上げてさ。」
「そうでしたか。役に立ててよかったです。」
 誰が「荒らし」をしていたのかなどは、知られていないだろう。ただ人事部には昨日のうちに知られていた。会社に不利益なことをしたのだ。解雇されても仕方がない。
「でもこの「荒らし」だけじゃないんだろうな。」
「えぇ。誰かしてれば、「みんなしているからいいだろう」と勘違いしますから。」
 清子はそういってコーヒーを口に入れる。
「IT部門の方に、休みの間はセキュリティーの感度を上げているように言っておいてください。」
「わかった。あ、これ、よかったらうちの差し入れだけどみんなで摘んで。」
 そういって男は、箱入りの菓子を清子に手渡した。すると清子は少し笑って言う。
「ありがとうございます。みんなでいただきますね。」
 男が行ってしまったあと、清子はその箱を開ける。そこには小さな一口くらいの豆大福が行儀よく並べられていた。清子はそれを手に史の方へ向かう。
「編集長。週刊誌の方からいただきました。」
「そう?仕事前に少し食べておこうかな。みんなも摘んで。……と、徳成さんは食べないんだったかな。」
 すると清子はその饅頭を手にして、少し笑う。
「いただきます。」
「え?」
 食事以外のモノは食べないのかと思っていた周りが、少しざわめいた。
「え?」
「コーヒーと餡はよく合うので。」
「えー?甘いモノ食べないんじゃないの?」
 女子社員がそう聞くと、清子は首を横に振る。
「別に嫌いじゃないですよ。食べようと思えば食べます。もし餡とか黒糖なら進んで食べますけどね。」
 その言葉に晶が少し笑った。
「そうだったな。うちの地元は、しゃれたケーキ屋とかなかったし、こういうのばっかだったな。」
 すると目が覚めてやっと立っている了が、その豆大福に目を移した。
「あ……うまそう。」
「了も食えよ。」
「コーヒー飲みたい……。」
 すると晶がぽんと了の頭を叩いて、立つように促した。
「自販機で買えよ。あまえんなって。」
 その様子を見て、史は少し不安を感じていた。自分が眠っていた間に、清子と晶が何かあったのだろうか。距離が近い気がする。
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