不完全な人達

神崎

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香水

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 クリスマスほどではないが、バレンタインの贈り物としてチョコレートやケーキなどが店頭を彩る。赤いチョコレートなんかもあるのかと、清子は不思議そうにそれを見ていた。
「お前、チョコとか食うの?」
 晶は足を止めた清子に話を持ちかける。
「別に嫌いじゃないですよ。」
「甘いもんは口にしないのかと思った。」
「餡とか黒糖は好きです。」
「和菓子ね。あの超洒落てる和菓子とかじゃないヤツだろ?うちのばーさんも良く作ってた。あのあんまんみてぇな酒饅頭、美味しかったな。後ろに葉っぱが付いてて。」
「えぇ。」
 どこの家も同じなのだろう。清子の祖母はあんこから手作りをしていた。小さな畑に豆を植えて、小豆を作ってそれを餡にしていた。寒いときはそれを溶いて、ぜんざいにしたりしていたこともある。
「火鉢で餅を焼いてました。」
「あぁ。うちはじーさんがさ、正月前になると餅をついててさ、お前もばーさんも手伝いに来てたよな。何人分だよって親父が言ってて、それでもカビる前に無くなってた。了が結構餅だと食うんだよな。」
「餅のようなモノって、他の国にはないんですか。」
「あるよ。米を食う習慣があるところは、結構餅みたいなモノを食ってたな。」
「そうでしたか。」
「こっちでも食えるよ。今度O区へ行ってみるか?あっちの方は専門店があるし。」
「彼女と行った方がいいですよ。」
 清子はそういって少し笑った。その言葉に、晶は不機嫌そうに清子をみる。
「彼女なんかいないし。」
「合コン、行くんでしょう?」
「あー、俺行かない。」
「行ってきた方が良いですよ。忘れられることもあるでしょうし。」
 だから忘れてくれと言っているようだった。思わず手を握る。
「清子。」
 そのとき清子の前に、一人の男が声をかける。
「徳成さん。」
 それは岡田だった。この男が一番しつこい。昨日清子が手を出しそうになったのもこの男だ。
「話せることはありません。」
「そうはいかないんだよ。少しでも冬山さんの情報が欲しいんだ。なんぜ、七年前くらいからぱったりと表舞台から姿を消してる。家に閉じこもってずっと小説を書いているだけだった。」
 すると晶が清子の前に立つ。
「あんたもしつこいな。」
「ん?昨日の?」
 すると岡田は晶を見上げるように立つ。岡田は背が低いので、猫背の晶でも見上げるようになってしまうのだ。
「あんた、その強引さででっち上げしてたんだろ?訴えられて謝罪ばっかしてんじゃん。また謝罪するつもり?」
 すると岡田は少し笑っていった。
「裏ビデオのジャケットなんか取っていた割には、偉そうなことを言うな。」
「は?」
「そんなに金が欲しかったのかね。カメラマンも手段を選ばないな。」
「こっちにはこっちの事情があるんだよ。ゴシップ記者が偉そうなことを言うな。」
 まるで昨日とは違い、こっちが喧嘩しそうだと思う。清子は晶の袖を引いた。
「久住さん。かまわないで下さい。」
 その様子に岡田がふっと清子を見て笑った。
「徳成さん。あなたの周りにはあなたを守ろうとする男が多い。それはあなたの祖母がそうして生きていたからですか。」
 清子の手が思わず晶の袖から離れ、青い顔で岡田をみる。
「どうしてそれを……。」
「民宿であふれた客を自宅で世話をして、下の世話もしていた。どれだけ穴兄弟がいるのだか。あなたもその血を受け継いでいたとしたら、くわえまくりですか。そんな地味な格好をしているのに見かけに寄らないものだ。」
 どれだけ失礼なことを言っているのかわかっているのだろうか。清子は岡田に詰め寄る。
「取り消してもらえませんか。」
「は?事実ですよ。出身である町で、あなたのお祖母さんと同じ世代の方ならみんな知っている。三人いる兄弟はみんな父親が違うのだろうとね。それに誰が父親なのかもわからないでしょう。」
 バカにしたような口調だ。だが清子は首を横に振る。
「あなたは何も知らないんですね。」
「え?」
「そんなことは珍しくないんですよ。あの土地だったらね。」
 あの土地は夏に盆踊りをする。男女が混ざり合い、太鼓や歌声に合わせて踊りながら、死者の供養をしていた。
 だがそれとともに性的な意味もあった。
「……乱交してたってことか。」
「男女が雑魚寝をして、朝まで乱交騒ぎ。その結果妊娠して、誰が父親かわからなくても地区の人がみんなで土地の子供だと大切に育てていました。子供は今と違って育って大人になるのはほんの一部。だから、子供が出来ただけでも大喜びだった。誰が父親であってもね。」
 だから父親が誰であるとか、特に気にしていないのだ。そういわれているようで岡田の表情が硬くなる。
「田舎でありゃそういうことはあるよな。うちもばーさんからその話は聞いたことがあるよ。未婚でも既婚でも、関係なかったみたいだな。夜這いの風習があるくらいだ。そんなこともあるだろう。」
「そんなの今の世の中に通用するわけがない。」
「でも実際あったんだ。そんな世の中だったら、別に清子のばーさんが何をしてても、ふしだらだとか淫乱だとか誰も言えねぇよな。」
 言葉に詰まる。確かにそういう風習はあった。それはこの国の文化だと思う。
「……岡田さん。私は本当に何も知らないんですよ。たぶんあなたがそういうことを調べたのでしょうが、私もそれくらいの知識しかありません。」
「……。」
 悔しそうに岡田が口を尖らせる。
「だったら……内縁の妻が居たってのは知ってますか。」
「さぁ……。助手ならいたみたいですけど。」
「えぇ。秋野さんと言っていました。少し前に、冬山さんのところを出たと言ってましたけど、その原因は?」
「何でしたっけ。」
 清子が晶を見ると、晶がため息を付いていった。
「結婚するからって言ってたな。」
「あぁ。そうでした。お祝いをあげないといけなかったです。」
「お前、そっちには呼ばれてる?」
「いいえ。でも一応、送ろうと思います。」
「だったら連名にしておいて。あとで金やるから。」
「またそんなことを言って。」
 本当に何も知らないのだ。岡田はそう思いながら、首を横に振る。
「もう一つ、聞きたいことがあるんですよ。」
 そういって岡田は携帯電話を取り出した。そして画面を清子と晶に見せる。
「これはあなた方ですか。」
 その画面に清子の表情が固まる。そこには今日、階段で晶とキスをしていたその画像があったのだから。
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