不完全な人達

神崎

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北と南

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 普通のビジネスホテルかと思いきや、このホテルは温泉がついているらしい。それで普通のビジネスホテル並の値段で泊まれるのだ。
 当然のように部屋は別々に取ってある。清子はほっとして鍵を晶から受け取ったが、晶は少し笑って言う。
「俺の部屋隣だからよ。いつでも来い。」
「行かない。」
 清子はそういって鍵を受け取る。そして三階の別々の部屋に入った。温泉は大浴場にあり浴衣も用意してあるし、タオルもある。本当に温泉宿のようだ。食事だけがないだけだ。チェーン化されている格安のビジネスホテルではなく、地元のビジネスホテルだから出来ることだろう。
 とりあえずお風呂に入ろう。ジンギスカンは美味しかったが、案外煙がたっていて体中が煙り臭い。それにスーツも臭いが染みてるかもしれない。
 清子は荷物の中から下着を取り出して、浴衣とタオルを手にする。そして外に出た。すると隣の部屋からも、晶が出てくる。
「よう。大浴場に行く?」
「えぇ。あとカウンターに言って消臭剤があればと。」
「あー。結構羊って煙たつよな。でも美味かったよ。」
「野菜が美味しかったです。」
 二人はそう言ってエレベーターで階下に下りる。大浴場は一階にあるのだ。
「お前が出るのを待つよ。」
「どうして?」
「ここって繁華街の中にあるからさ、変なヤツが泊まってるみたいだし。」
「そんなところに良く宿を取りましたよね。」
「近くで温泉付きのビジネスホテルは、ここしかなかったから。あとすげぇ高いし。」
「……。」
「今度、温泉こようぜ。仕事抜きでさ。」
「やです。」

 大浴場から出て、受付カウンターで消臭剤を借りる。そう言ってくるお客さんは想定内らしく、無料で小さなスプレー式のアトマイザーを手渡してくれた。
「気が利いてますね。」
「それ、俺にも貸してくれる?」
「臭いとか気になるんですか?」
「明日さ、お前何時に会社いく?」
「十時ですね。」
「だったら早く出てさ、白鳥見に行こうぜ。」
「白鳥?」
「すごい朝早くないと見れないけど、今、シーズンらしいんだよ。結構近くにあるし。で、白鳥があまり臭いがあると逃げるらしいから、それ貸してほしい。」
「良いですけど……。」
「悪いな。」
 結局部屋に行かないといけないのか。清子は心の中でため息を付きながらも、それでも少し期待していたところがある。
 それぞれの部屋に戻ると、清子は掛けているスーツとコートにスプレーをかけた。少し臭いがあったようだが、あまり悪い匂いではない。石鹸のような匂いだった。
 そしてその部屋の外を見る。雪が強くなったようで、清子はそれに携帯電話のカメラを向ける。雪は珍しくないかもしれないが、この量はすごい。まるで吹雪だ。
 その画像を史に送る。史はずっと南の土地にいるのだ。
 そして携帯電話を置くと、鍵と消臭スプレーを手にして部屋を出る。隣の部屋のチャイムを鳴らすと、すぐに晶が出てきた。
「スプレーを。」
「お。ありがとう。」
 煙草の匂いがする。もう一服していたのだろう。
「それじゃ……。」
 部屋に戻ろうとした清子に、晶は少し笑って言う。
「入れてほしいって言わないのか。」
「……。」
「俺、ずっと我慢してんだけど。俺だけ?」
「……。」
 すると清子はぐっと拳に力を入れて、晶がいる部屋に足を進める。
「明日早いんでしょ?」
「帰ったら邪魔が入るだろ?声を上げても良いし、今しかチャンス無いじゃん。」
「……私は我慢することなんか慣れてる。」
「俺は出来ないな。なぁ。清子。入れてって言って。」
「……。」
 その言葉に清子は、何も言わずに晶の部屋の方へ近づいた。そして手を捕まれる。
「言って。」
「……入れてくれる?」
 すると晶は笑顔になり、清子を引き寄せるように自分の部屋に入れた。ドアを閉めたとたんに、そのドアに清子を押しつけると唇を重ねた。最初から舌を入れる。清子もそれに応えるように晶の首に手を回した。
「はげし……。」
「もう駄目。我慢できない。」
「待って……。」
「待たれるか。」
 浴衣の襟刳りから手を入れる。下着が手に当たり、そこから乳首を出した。
「待って……待ってって……晶。」
「何だよ。」
「……服……。」
「あぁ?あー。そうだったっけ。」
 白鳥を見に行くのだ。匂いがあったら逃げてしまうかもしれないと言いだしたのは晶だった。晶は清子から離れると、床に落ちているアトマイザーを手にした。そして掛けてある服にそれを振る。
「いい匂いだな。」
「うん。」
「でも明日にはその匂いも取れてないと困るんだけどな。」
 晶はそう言ってアトマイザーをテーブルに置く。そして改めて、清子に向き合った。もう浴衣の乱れを直している。
 だが改めて晶は清子を引き寄せると、唇を重ねる。後ろ頭を支えていないと、倒れてしまいそうなくらい清子は受け身だった。
「受け身も良いけどさ、自分からしてみてよ。」
「……私から?」
「あぁ。ほら。」
 少しかがんでくる晶に、清子は少し背伸びをする。そして唇をまた重ねた。
「ん……。」
 晶の方が吐息が漏れる。舌を絡ませるのも、口内を舐めるのも、きっと史に仕込まれたのだ。だがそれでもいい。ゾクゾクする。
 唇を離すと、清子は晶の首筋に唇を当てる。
「どうしたんだよ。積極的だな。」
 少し痛みを感じた。清子がその首筋を吸ったのだろう。唇を離すと跡がわずかに残った。
「私も……我慢してたから。」
「え?」
 手に触れる度にどれだけ胸が熱くなっただろう。清子と呼ぶ声がどれだけ愛しいと思っただろう。
「二度とは言わない。」
「良いよ。最初は、お前の好きなようにして良いから。」
 すると晶はベッドに座ると、清子を引き寄せた。膝の上に載せると、浴衣の裾があく。思わずそののぞいている太股に触れた。
「ん……。」
 すべすべしている肌だ。そしてその上に手をはわせる。すると下着越しでも濡れているのがわかった。
「お前、早く濡れすぎだろ。」
「うるさい。」
「キスだけで感じたの?それともさっきちょっと触っただけで感じたの?」
「……私だって……。」
「え?」
 顔を背けて清子は言う。
「触りたかったのよ。」
 その言葉に晶は、清子の手を握ると胸に手を持ってくる。
「好きなだけ触れよ。俺も好きなだけ触るから。」
 晶はそう言うと、その帯に手をかけた。しゅるっという音がして、帯が床に落ちる。
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