彷徨いたどり着いた先

神崎

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花見

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 花見の時期になり、その日は響子が朝から炊飯器で甘酒を作っていた。真二郎はその音で目を覚まし、ソファベッドから起きあがった。
「何時?」
 時計を見ると、八時を指している。夕べは遅くまで上客の所でセックスをしていたのだ。ここに帰ってきたのは五時くらいだったと思う。あまり寝れていないな。そう思ってまた布団の上に寝転がる。
「真二郎。集合は十二時だから、それまでに起きてね。」
 響子の声がする。それに真二郎は目を開けた。
「ごめん。もう少し寝るわ。」
「遅かったみたいだもんね。十一時くらいに一度電話をしようか。」
「助かるよ。」
 平日だが、学校関連は今日は休みだ。だからその日に合わせて、花見をするようになったのだ。
 響子が出て行った音がして、少しため息を付く。響子とは春に入った頃から一緒に寝ることはしていない。圭太と何かあったように思えるが、もうそれは気にしていないようだ。
 圭太が昔の女と寝そうになった。だがそれは未遂に終わり、響子もそれについて責めるつもりもないらしい。響子にも後ろめたいところがあるからだろう。それはきっと功太郎が絡んでいる。
「……。」
 いらつく。あんなぽっと出た男に響子をとられたくなかった。

 いつもの駅で降りると、圭太と待ち合わせをする。圭太は手にクーラーボックスを持っているようだった。
「真二郎は?」
「夕べ遅かったみたい。あとで来るわ。」
「盛んだよな。あいつも。」
 堂々と響子が好きだと言っていた割には、ウリセンの仕事は辞められないらしい。響子もそれについて何も言うつもりはないようだ。
「功太郎が場所取りしてる。それから、飯なんかは弥生たちが用意するって言ってたし……あっちの方が負担になると思うけどな。」
「屋台が出てるって言ってたわ。そこで買っても別にいいんじゃないのかしら。」
「お前、屋台のものとか食べるのか?」
「……埃とか排ガスまみれのたこ焼き食べて、何が美味しいのかしらね。」
 相変わらずこの辺は毒舌なのだ。圭太は苦笑いをして、響子が手に持っている水筒を目にした。
「それか?甘酒。」
「えぇ。美味くできてて良かった。」
「麹で作ったって言ってたっけ。あれって酒粕でも作れるんだろ?」
「酒粕だと甘みがないから砂糖を入れるの。でも麹ならそれはいらない。それに酒粕は少しアルコールが入っているから、香ちゃんには飲めないだろうし。」
「気を使うんだな。そういうところ。」
「あの子は苦手だけど、それくらいはね。」
 自分を見ているようだった。発育の良い体も、幼くて天真爛漫なところも、自分と重なる。似ているからこそ嫌なのかもしれない。
 やがて少し離れた丘の上にある公園へやってきた。そこは祭りをしていて、屋台もあれば、ステージもあり、近くの中学か高校の吹奏楽が演奏をしていた。保護者らしい人たちが周りを取り囲んでいて、「身内だけだな」と圭太は冷ややかな目で見ていた。
「どこに席を取ってるって?」
「時計台の所って言っていたわ。あ、あそこね。」
 昨晩も足せたビニールシートを広げて、功太郎は居た。そしてその上には瑞希と弥生、香がいて香は屋台の方をじっと見ていた。
「ねぇ。金魚すくいしていい?」
「金魚なんか飼えないよ。辞めておいた方が良いわ。瑞希は寝ないでよ。」
「わかってるけどさぁ。あー眠い。夕べライブで四時までごたごたしてたのに。」
 真二郎と似たり寄ったりの睡眠時間なのに、連れてこられたのはきっと弥生と香から引きずられるようにやってきたのだろう。
「お待たせ。」
「あー。圭君。それに……。」
「響子よ。」
「響ちゃん。」
 その呼び名に響子は少し苦笑いをした。そんな呼び名は、母親くらいしかしないと思っていたから。
「場所取りお疲れ。」
「いーよ。別に。俺、何もしてねぇじゃん。」
 功太郎はそういって携帯電話をしまう。
「満開だな。時期も良かったけど、来週の結婚式はちょっと時期が悪かったかな。」
「結婚式?」
「前の職場の同僚。」
 圭太はそういってクーラーボックスを置く。
「真二郎も結婚式があるって言ってたな。」
「ふーん。結婚式ラッシュか。良いなぁ。」
 瑞希は他人事のようにクーラーボックスを開けて、その中身をチェックする。すると弥生が頬を膨らませていった。
「他人事よねぇ。」
「何?」
「別にー?」
 結婚したいのにまだ色んなことがあって結婚できない。それに腹を立てているのだろう。嵐のような女だなと、功太郎は思っていた。
「あと、真二郎だけか。」
「あとで来るでしょ。先に食事してましょうか。っと……電話しないと。」
 そういって響子は携帯電話を手にすると、電話を始める。すると瑞希は少し笑っていった。
「響子さんは弟が三人もいるみたいだ。」
「俺も弟か?」
 圭太はそういうと、瑞希は手を振って否定した。
「あぁ。年上だっけ。」
「そうだよ。」
「真二郎だって年上じゃん。」
 功太郎はそう聞くと、圭太は瑞希の方を見て軽く首を横に振った。恋人だというのは、弥生も瑞希も知っている。だがそれを功太郎には言わないで欲しいと思ったのだ。
「向かってるらしいわ。遅れて悪かったって。」
 響子はそういってまたビニールシートの上に上がってきた。そして並べている弁当を見る。
「あら。美味しそう。弥生さん。張り切ったわね。おいなりさんって大変じゃない?」
「包むのがね。瑞希も香も手伝ってくれたから。」
 すると香が響子に聞く。
「ねぇ。響ちゃんの彼氏ってあの、パティシエの人?」
 その言葉に響子は首を横に振った。
「違うわ。でも一緒に住んでいるの。」
「夫婦みたいだね。」
「一緒に住んでいるから夫婦だとは限らないわ。お兄さんみたいなものよ。」
「弟じゃなくて?」
 功太郎がそういうと、響子は少し笑った。
「頼りになるのよ。あれでも。高いところの掃除とかしてくれるし。」
「そっか。だったら響ちゃんの彼氏って誰?」
 その言葉に響子は言葉に詰まってしまった。そしてちらっと圭太を見る。功太郎にばれるわけにはいかない。そう思っていたのだ。
 そのとき真二郎が、こちらに向かってくる。
「すぐ見つかって良かった。こんにちは。お邪魔します。」
「どうぞ。どうぞ。」
 ごまかすように瑞希は真二郎をブルーシートの上に促した。そして響子の隣に座り、響子に箱を手渡す。
「何?これ。」
「気になる店のモノ。あとでみんなで食べればいいかなって。」
 箱の中にはシュークリームがある。香もそれを見て目を輝かせた。
 良かった。上手く誤魔化せたようだ。
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