彷徨いたどり着いた先

神崎

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謝罪

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 今朝はまずいところを見られた。圭太はそう思いながら昼頃にベッドから起き上がった。そして頭をかくと、あくびを一つする。
 せめて瑞希も一緒だったと言えば良かった。響子に誤解されたままだと、こちらの都合も悪い。信用がないのに更に信用をなくすような真似をしてしまったのだ。
 そう思いながらベッドを降りて、タオルを手にするとシャワーを浴びた。コレで頭だけはすっきりする。そう思いながらバスルームを出ると、頭を拭きながら携帯電話を手にした。メッセージは企業向けのダイレクトメールや瑞希からのメッセージがある。
 「flipper」を出て、客のところでまた飲んでいたのは事実。そしてその場には瑞希の姿もあった。弥生はさすがに帰ったらしい。ずっと功太郎の所に香を預けているのも気が気では無いのだ。
 それにしても弥生があんなことを思っているとは思ってもなかった。やはり弥生が昔、母親に売られた傷はまた深いらしい。それは響子も一緒なのかもしれない。
 だが弥生には瑞希がいるし、響子には一馬がいる。自分ではないのだ。そう思えて、圭太はまたため息をつく。その時だった。
 ピンポーン。
 部屋のチャイムが鳴り、圭太はシャツを着ると玄関へ向かった。
「はい。はい。」
 ドアを開けるとそこには信也の姿があった。
「今起きた顔をしているな。何時だと思ってるんだ。もう昼過ぎだぞ。」
「帰って来たの遅かったんだよ。どうしたんだよ。」
「何……ちょっと話があってな。」
「見合いならするつもり無いけど。」
「見合いではない。少し上がるぞ。」
 やや無理矢理のように信也は部屋に上がる。そしてソファに座ると、煙草を取り出した。
「煙草だったら換気扇の下で吸ってくれよ。臭いがこもるから。」
「うるさい男になったモノだ。禁煙するとそんなモノなのか。」
 信也はそう言って煙草をしまう。そして向かいに座った圭太を見た。
「あの女だが。」
「どの女だよ。兄さんの周りって女が多くてどの女なのかわかんねぇ。」
「そう言うな。お前の所の従業員の女だ。」
「響子?」
 自分の方だったのか。そう思いながら圭太はその話を聞く。
「叔父がうちの顧客でな。」
「叔父?」
「「古時計」という喫茶店をしていたのは、本宮響子の祖父だろう。その祖父の子供だ。長男になるらしいが。」
「ってことは浅草って名前か。」
「その通りだ。」
 響子の話によると、「古時計」を閉店させたのはその男がきっかけだったらしい。その土地を更地にしてアパートを建てると意気込んでいたと言っている。だがあまり日が当たらないようなところで、アパートなどを建ててどうするのだろうと響子は言っていた。せめて駐車場なら良いのかもしれないが、車も入りにくいような細い路地の先にある土地なのだ。そんなところを駐車場にしても仕方が無いと思う。
「借金をしないといけないような叔父か?」
「その通りだ。遊びが過ぎているらしい。」
 響子の祖父は人格者で、その妻、つまり祖母も優しい人だったという。だがその子供となると少し事情が違うようだ。響子すら自分の母を良いように言わない。
「響子が保証人にでもなっているのか?」
「いいや。その形跡はない。だから本宮さんのところに取り立てに行くこともないだろう。」
「だったら何だよ。そんな話響子に関係があるのか?」
「ある、と考える。本宮さんが拉致された話だ。」
 その言葉に圭太は驚いたように信也を見る。やはり食いついてきたか。あの女は餌になる。圭太をこちらの世界に引き入れるためには、響子を利用するしかない。
「……何を知ってるんだ。」
「おかしいと思わなかったのか?お前は。」
「おかしい?」
「本宮さんは一貫してあの事件は拉致、監禁されたと言っている。だがマスコミは進んで本宮さんが車に乗り込んで行ったという。どこからその話が出てきたと思っているんだ。」
「まさか……。」
 身内がそう言ったのだろうか。そこまで頭が足りない身内がいるのだろうか。
「おそらく些細なことだ。金に釣られて「こうだったかもしれない」が「こうに違いない」になりいつからかそれが真実になる。」
「……怖いな。マスコミってのは。」
「だがそれが本当なのかというのはわからない。本当に本宮さんが男の車に乗り込んでいったという可能性だってあるんだ。」
「つまり、響子が嘘をついてるって?」
「あぁ。」
 そう言って信也は携帯電話を取りだして、その動画を圭太に見せる。それは響子の中学生の時の動画だ。顔が殴られすぎてパンパンになっている。体だって殴られているのか傷があったり火傷で腫れ上がっていた。それなのに男達はその響子の中に入れ込んでいる。
 性器だけではなく尻にまで突っ込まれているようだ。この動画を見るのは初めてだったかもしれない。無残な姿だと思う。コレが強制的にやらされているとすれば、本当に恐怖だろう。
「……コレが望んでされていると思うか?」
 圭太は信也にそう聞くと、信也は動画を止めて響子の顔を拡大させる。すると響子は少し笑っているように見えた。
「薬の痕跡がないのに、こんなことをされて笑うのは望んでセックスをしているとしか思えないが。」
「……。」
 そうじゃ無い。圭太は首を横に振ると、信也に言う。
「違う。」
「何がだ。」
「そうじゃ無いとそのまま自殺するかもしれなかった。だからその中に希望を持とうとした。その結果だと思う。」
 どこまでバカなんだ。信也は舌打ちをすると、動画を消す。そして圭太に詰め寄った。
「惚れてるから必死だな。お前も。そこまでかばうような女じゃない。お前と付き合っていた時期とかぶって他の男と寝るような女だ。」
 すると圭太は首を横に振った。
「俺だって夏子と寝たし……それはもうお互い言わないようにしてるんだ。」
「バカか。お前は。」
「バカなんだよ。まだ惚れてるから。」
 圭太はそう言って拳を握りしめた。その姿に信也は自分を被らせる。
 昔信也には惚れている女がいた。一緒になりたいと思った。だがそれは適わなかったのだ。自分よりも他の男に転び、他の男の子供を身ごもった。自分では出来なかったことだ。
「そこまで言うんだったら圭太。お前避妊はしてたのか?」
「……してた。」
「毎回?」
「してたよ。」
 頭を抱える。そこまで惚れているならどうして避妊などしたのだろう。子供でも出来ればすぐに一緒になりそうなモノなのに。
「何で避妊なんか……。」
「彼女の前に、響子はバリスタなんだ。今妊娠されたら困るのはこっちだろう。妊婦はカフェインを取れない。それに……。」
 どうしても真子が過る。妊娠したという真子の嬉しそうな顔と、自分の心ない言葉でその真子の嬉しそうな顔が一気に地に落ちたのだ。
 響子もそうしかねないと思う。響子が絶望に陥る姿など見たくない。
「臆病だな。」
「……。」
「あの女はお前がどんな暴言を吐いてもおそらく倍にして返すと思うが。それくらい強く見える。」
「それは表向きだ。兄さんもあまり人を見ていないな。」
「何だと?」
「定期的に病院へ行っている。張りぼてなんだよ。あの強さは。」
 その張りぼての強さを持っている人がもう一人いる。その人は今きっと響子の隣にいるのだ。二人で支え合っている。その二人の間にもう圭太がつけいる隙は無い。
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