夜の声

神崎

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二年目

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 少し距離をとって、私はベッドに腰掛ける。だけど葵さんは私に近寄ってくる。やがてもう距離をとるのをやめた。もう面倒だ。
「この間……。」
 ぽつりと私がいうと、彼は笑顔のまま私に聞いてきた。
「何か見ましたか。」
「私ではなく向日葵なんですけど。」
「向日葵さん。あぁ。あなたの友人ですね。」
「はい。」
 かけがえのない友人といってくれる向日葵。向日葵は私のことを思っていってくれたのだ。
「町で柊さんが蓬さんと会っているところをみたと言ってました。」
 その言葉に彼は少し黙ってしまった。そして私の肩に手を置く。その手の温かさは、嫌悪感でしかない。払いのけようと私は立ち上がろうとした。でもそれをさせてくれない。
 手に力を入れられ、ぐっとそばに寄らせた。そして片手で私の額に手を触れてきた。
「まだ熱がありますね。横になりますか。」
「いいえ。もう帰れます。」
「無理をしてはいけません。」
 たぶんここで横になれば、彼は私に襲いかかってくるだろう。一度味わったことを、二度、またしようとしているのが見え見えだ。
「ほら。こんなところもまだ熱い。」
 首もとに触れる。そしてその手を下げてきた。やだ。やだ。
「やめてください。」
 彼の手を押しのける。すると彼は顔を首もとに顔を埋めてきた。
「柔らかい。そして熱い。横になって。」
「やだ。やだ。やめてください。」
 首もとにぬるっとした感触が伝わり、ぞくっとした。
「起きていたら襲うと言いましたよね。」
「もう起きれますから。」
「こんな体になったのも、柊のせいでしょう。」
 その言葉に私の力が抜けた。そして彼は私を押し倒す。
「どうしてそんなに不安になるような男を追うのですか。」
「わかりません。なぜあの人が好きなのかなんて理由はわかりません。」
「……見えないからでしょう。あなたは私とセックスをしても、彼しか見てなかった。空しいと思いませんか。」
「だったらしなければいい。」
「でも私はあなたと体を合わせたい。柊とは違う力任せの行為ではなく、本当にあなたを喜ばせたいのです。」
「たぶん私はそれでもあなたに振り向かない。」
「やってみなければわからないですよ。」
「一度してみて、わかったのだからそれで良いと思いますけど。」
 すると彼は私の頬に手を合わせてきた。そして唇を合わせようと顔を近づけてくる。避けようとして顔を背けた。するとその首筋に唇をはわせてくる。
「ひゃっ……。」
 ぞくっとした。腰の当たりがゾクゾクする。
「これだけで感じるとはね。」
「や……。」
「赤くなっているのは、熱のせいですか。それとも感じているから?」
「熱のせいです。」
「だったらすべて熱のせいにしましょう。」
 シャツの下から手を入れてくる。器用に背中に手を回して、下着のホックをとる。そしてその下から手を入れてきた。
「柔らかいですね。なのにここは堅い。そして熱い。」
 包み込むように胸に触れ、その先をきゅっと摘んだ。
「んっ!」
「いい反応ですね。我慢しているのがすごくわかる。桜。声を我慢しないで。」
「や……。」
 シャツをまくり上げられると、その先に舌を這わせてきたらしい。温かくてぬるっとした感触が、その先に伝わってきた。
「あっ!あっ!」
 片方はつまみ上げられ、もう片方は舌で愛撫する。そのたびに心とは裏腹に堅くなっていっているし、淫らな気持ちになる。もっとさわってほしいと思うけれど、反面、この人は柊さんじゃないと思って、拒否したいところがあった。
 頭の中が揺れて、何も考えられなかった。
「もう押さえなくても良いでしょう?桜。快感に身を委ねてください。私の方がいいと正直になって。」
「違う……。」
 手が外されて、私はベッドの端に逃げる。広いベッドの端にやってきて、両手で胸元を押さえた。
「違うのですか。」
「私が好きなのは……あなたじゃないから。体は反応するかもしれないけれど、心までは反応しませんから。」
「綺麗事ですよ。桜。きっと忘れられる。」
 首を横に振って、拒否する。だけど彼は私を壁際まで追いつめてきた。
「私はあなたのことが好きですよ。心からそう思います。」
 すると彼は私のその手に手を重ねてきた。
「だめです。」
「では心は今は柊のものでもかまいません。でも今からあなたを抱けば、あなたはきっと私に振り向くでしょう。その自信はありますから。」
「……嫌です。」
「桜。」
「その名前を呼ばないで。」
 桜と呼ぶその呼び方は、柊さんがしている声。たぶん私はヒステリックに叫んでいたのかもしれない。
 すると彼はまた再び顔を近づけてきた。
「だめです。だめ……んっ!」
 唇をまた重ねられて、またその手をシャツの中に差し込んできた。胸と、口内を責められて痛いほど乳首が立っているのがわかる。
「こんなに立っているのに?苦しいでしょう?ぞわぞわして。ねぇ。桜。この下も、ドロドロになっているんでしょう?」
 ジーパンの中に手を差し込もうとしたときだった。
 着信音が部屋に響いた。それは私のものだった。
 柊さんかもしれない。私は彼の手をふりほどいて、携帯電話をとろうとした。しかしそれは、彼によって拒否される。
 彼はベッドから下りて、その携帯電話を手にした。
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