夏から始まる

神崎

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 電話を切ってそれをポケットにいれる。少し元気がないような菊子の声が心配だった。棗にこき使われたのだろうか。それとも棗がホテルにいるのだろうか。そんな想像を自分でして自分でいらつく。だがこの距離から何が出来るわけではない。何もないことを願うしかないのだ。
「……蓮。お客様が見えてるわ。」
 フードのオーダーは終わっているため、蓮はホールに出ている。エプロンを身につけた蓮に百合が声をかけた。
「客?」
 見ると、そこには夕べも見た男がいる。中年の白髪交じりの男だった。太ってもいないし痩せてもいない。いわゆる中年太りというのには縁がなさそうに思える。
「西さんでしたっけ。」
「覚えてくれて嬉しいよ。」
 出されているのは、おそらくウィスキー。そのそばにはナッツが入った小皿がある。
「……で、考えてくれたかな。」
「興味ないです。」
 布巾とトレーを手に持ってカウンターを出て行こうとした蓮に、百合が声をかける。
「蓮。悪くない話じゃないわ。バンドごとデビューさせるんじゃなくて、あなた単体で欲しいって言ってるのよ。「blue rose」はみんな仕事を持っているんだし、みんなそっちに集中できるチャンスじゃない。」
「……。」
「趣味で音楽って良いことだと思うわ。でもみんな生活があるからほかに仕事をしている。あなたが納得していない音楽を披露するというフラストレーションから解放されるチャンスじゃない。」
 確かにそうだ。「blue rose」では納得する音楽を作れていない。それは蓮のわがままであぁしてほしい、こうして欲しいと言っているだけだったから。もっとほかの意見も聞きたいのに。
「……蓮さん。よかったら今度できるバンドのメンツを見ますか。」
 そう言って西は方脇に置いてあるバッグから写真とプロフィール、そして携帯電話を取り出した。
「動画もあるんだ。」
「……写真だけで。」
 男ばかりだ。ボーカルすら男で、ホストのような容姿をしていると思った。金色の髪は肩を越していて、ハーフアップにしている。菊子を男にしたらこんな感じかもしれないと言うくらい、綺麗な顔立ちをしていた。
「……。」
「このボーカルの男が結構難しい男でね。いい男ではあるんだが、メンバー同士の衝突が激しくて何度もバンドを解散させている。」
「……だったら俺が入ってもそうなるんじゃないんですか。俺も大概我が儘ですから。」
「原因はいつも音楽のことだ。納得するような音楽を作らないと、突然切れてね。」
「俺は切れることはないが……。」
「よく言うわ。蓮が原因でどれだけボーカルを帰らせたか。」
「百合。」
「菊子ちゃんが安定して歌ってくれるから、あまり最近はボーカルに口出しはしないわね。」
 菊子という名前に、西は笑顔になる。
「ボーカルですか?」
「えぇ。まだ高校生なんですけどね。とても上手な女性ですよ。」
 高校生という言葉に、西は少し怪訝そうな顔をした。三年生くらいであれば確かにあと半年で卒業する。バンドだってぱっとデビューできるわけではないし、そのボーカルのことも気になり始めていた。
 何せ写真で見せたこの男は非常に面倒な男だったし、元ホストだし、ほかにも元AV男優なんかもいる。
 面倒なメンツよりも何もない方がいいに決まっている。
「あー。そう言えば動画があるのよ。」
 百合はそう言って携帯電話を取り出した。
「そんなものあったっけ?」
「あんたねぇ。自分で見たいからって、練習風景とっておけっていったの忘れたわけ?」
 そんなこともあったか。蓮はそう思いながら、百合の携帯電話に視線を送ろうとした。そのときだった。
「すいませーん。ドリンクの追加良いですかぁ?」
 女性の二人組でテーブル席に着いていた女が声をかける。蓮はオーダー帳を手にして、そのテーブルに近づいた。
「はい……。ラムトニックと、カシスオレンジですね。少々お待ちください。」
 女たちは深刻な話をしているようだ。どうやら会社が傾きかけているので、どうやって再就職先を決めるかという相談らしい。
 カウンターに戻ってくると、百合にオーダーの髪を手渡した。すると西はきらきらした目で、蓮をみる。
「この女性は、本当に高校生ですか?」
「えぇ。」
「これだけ歌えるのは本当に素人なのか。こんな田舎……いや失礼。」
「……田舎ですね。確かに。」
「ただ者じゃないでしょ?本格的にレッスンを受けてる声だ。それもロックではなく、オペラとかそう言ったたぐいの。」
 耳は確かなんだな。蓮はそう思いながら、西を見ていた。
「……ここへ来ることはあるんですか?」
「日曜日の昼間だったら、練習をしていることもあります。けどどうだろうな。」
「そうね。学校へ行きたいって言ってたものね。」
 百合は酒を作りながら、少し笑った。
「学校?」
「調理師になりたいとか。」
「もったいない。すぐにでもデビューさせたいモノだ。蓮さん。話してくれませんか。」
「いや……それは俺からは何とも……。」
 歌にコンプレックスがあった菊子にはその道は、難しいだろうな。百合はそう思いながらその様子を見ていた。それにまだ障害はたくさんある。

 裸のまま眠っていたらしい。菊子は目を覚ますと、外が薄暗い事や隣で眠っていた棗に違和感を覚えた。嫌気がささなかったとは言え、何でこんな事をしたのだろう。自分がこんなに簡単に体を開くとは思えなかった。
 股が緩いと言われていた梅子を笑えない。
 体を起こそうとしたとき、手を握られていることに気が付いた。体を抱きしめながら寝るのではなく、手を握るというのが棗らしい。
「ん……菊子?」
 棗も目を覚ますと、少し笑った。
「おはよ。」
「おはようございます。あの……。」
「わかってるよ。蓮にはいわねぇよ。いったら俺も殺される。」
 いたずらっぽく笑い、菊子の頭を撫でた。しかし、菊子の顔には不安の表情しかない。
「わかってるんだったら、もうしないんですよね。」
「いいや。むしろもう一度しようぜ。」
「え?」
「ゴムねぇけど、中で出さないから良いだろ?」
「いやです。起きますから。」
「だったら菊子。口でして。俺、朝立ちしてんだよ。お前の口、結構いけるし。」
 すると棗はその握っている手を、自分の性器に持ってくる。菊子の手はおずおずとその硬いモノを撫で硬さを増していく。
「あー。すげぇ、気持ちいい。」
 顔を赤くさせて棗はそれに耐えていた。せめて手だけで出せば満足するだろう。そう思っていた菊子の思いは見事に裏切られる。棗は体を起こすと、そこが手を外し膝の上に菊子を乗せた。
「入れないでください。」
 理性から言える。だが棗は薄く笑う。
「わかってるって。こするだけ。ほら。動いて。」
 体をお互い起こして、菊子の愛液と棗の先走り液がぬるぬるしている。それが菊子の性器を刺激して、菊子の頬も赤くなった。
「ん……。」
 ダメだ。耐えられない。この表情と、快楽がもっと欲しい。
「なぁ。菊子。これで入ったら事故だよな。」
「入れないで。や……。ちょっと……。」
「ガキができたら責任とってもらってやるから。」
 濡れた自分の性器をつかみあげて、菊子の中に入れ込んでいく。するとそのまま菊子は棗の膝の上でへたり混んでしまった。熱いモノが中に入ってきて、どうにかなりそうだった。
「生、すげぇ気持ちいい。すぐ出そう。」
 下から突き上げ、菊子も膝を動かしている。すると棗はその右肩に唇を寄せると、歯を立てた。
「痛いっ!」
 菊子はそう言って、少し離れようとした。しかしがっちりと腕を回される。
「これでしばらく蓮とできないな。」
 嬉しそうに棗は笑い、また下から突き上げた。
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