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エメラルド
焚き火の炎
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チリチリになってしまった髪が、床に落ちていく。ハンの髪を切っているのはアイネスだった。素人にしては上手で気持ちよく鋏の開閉する音が聞こえる。
「慣れてんな。」
それを見ていたのは、ミケルだった。
「うちは弟とか妹が多かったからね。」
「そっか。そうだったな。」
髪を切り終わり、ハンは椅子から立ち上がる。するとふと森の方に目をやった。
「どうしたの?ハン。」
「いや…。」
「すぐ帰って来るって言ったんだろ?」
髪を切っている途中に、急にユーリが建物から出てきて「出かけてくる」とだけ言って森の方へ行ってしまったのだ。
「本当に戻ってくるのかしらね。」
「さぁな。あいつは「Crow」のメンバーでもないし、どこへ行ってもいいと思うんだけどな。」
「あら。ミケルは結構冷たいのね。」
「別に。冷たい訳じゃない。ただ、あいつが来てからボスが情緒不安定になっている気がするんだよ。」
「…「昔」のことを思い出しているでしょ?」
「…。」
そのころ、ユーリは狭い小川の川岸に腰掛けて、焚き火をしていた。パチパチと音を立てて小枝が、はじけていく。
赤い目をした彼女は、その声に耳を澄ませる。
「そう…。ありがとう。調べてみるわ。」
精霊たちが、ざわついている。20年前と同じように。
「反逆者がいるってコトね。」
水の精霊だけではない。もしかしたら、もっと他にいるのかもしれない。
「小さい芽を放っておいた私が悪いのかしらね。それとも神も悪魔も気がついて、私に指示を出さなかったのかしら。」
もしかしたら神も悪魔も再び「人間」に愛想を尽かしているのかもしれない。
「…それでも守らないといけないわね。」
情が移ってしまったとは認めたくはない。でも今は死んでは困る人間がいるのだ。
そして彼女の目がふっと正常になった。精霊との通信を終えたのだ。
彼女は伸びをして、その火を消そうとした。すると後ろから草をかき分ける音が聞こえる。振り返るとそこにはノアの姿があった。
「ノア。」
「飲まないか。」
そう言って彼は手に持っているワインを彼女に見せる。
「昔はよく飲みあったわね。」
グラスに赤い液体が注がれて、二人はそのグラスを合わせる。
「でもお酒は久しぶりだわ。」
「最近は忙しいみたいだな。」
「氾濫してくる精霊が多いのよ。人間が賢くなり過ぎたせいかしらね。」
出来れば守りたい。しかしこのままではまた人間は神と悪魔に愛想尽かされ、悪魔の一撃、神の鉄槌を受けることになるだろう。
「お前に最初に会ったときも同じようなことを言っていたな。」
「…そうだったかしら。」
「人身売買など、人道に外れている。即刻やめなさい。と俺に言っていたよ。」
「フフ。そうね。あのころのあなたは「ちょっとしたもの」だったものね。」
「ノアにかかれば、血の一滴、骨のかけらすら残らず売られる。」と言われていた若い頃。彼は血気盛んだった。
「これを覚えているか。」
そう言って彼はポケットからある宝石を取り出した。純度の低いエメラルド。きっと売ってもそんなに価値はないだろう。
「えぇ。ジェイクの遺品ね。」
ジェイクはノアの下で使いっぱしりをしていた男だった。しかし彼は、忠告をしてきたユーリに一目で恋をし、彼女にこの宝石のついた指輪を差し出してきたのだ。
「残ったのはこれだけだった。お前の力でジェイクが消えたのだからな。」
火の精霊が反乱を起こし、森を焼いたことがあった。ユーリはそれを止めるため、森へ一人足を踏み入れた。
一人で大丈夫。そう思っていたのに。
予想外の事が起きた。
ユーリの力を見たいと好奇心で覗き見ていたノアとジェイクが、彼女の後を追っていたのだ。
そして火の精霊を黙らせるために使ったのは氷の精霊だった。
火の精霊は反撃するまもなく、凍っていく。まるで氷のオブジェのように固まってしまった。
芸術品のようなそれを作るユーリ。それに魅せられるように近づいてきたのがジェイクだった。
「やめろーーー!」
ノアの叫びが空しく響いた。
ジェイクはおそらく脳にまで彼女の力の影響があったのだろう。ノアの叫び声が耳に届いていなかったようだった。
そして彼が彼女に触れたその時、風化するように体がバラバラになってしまったのだ。服すら残ることはない。
唯一残っていたのは、指輪にしていたエメラルドの宝石。それが風化して氷の粒になってしまったジェイクの跡から発見された。それはユーリが無事に森から戻ってきたら、ジェイクが彼女に渡そうと思っていたものだった。
初めてその時ノアはユーリの恐ろしさと共に、強さと美しさに魅せられたのだ。ジェイクを殺した憎しみと共に。
「殺したのは、私。なぜあなたが私を恨まないのか。それが不思議だったわ。」
「言っただろう?」
ノアがユーリの手に触れる。
「ずっと前から俺はお前に惚れていたんだ。」
「ノア。」
すると彼女はすっとその手を離す。
「嘘ね。」
「嘘じゃ…。」
「私はあなたを良く知っている。女に何を言えば喜ぶかなんてコトも良く知っているわね。」
「…。」
「私はそんな女じゃない。それに女でもないのよ。」
「ジェイクの前では女になっていたのに?」
「…。」
「ジェイクに惚れていたから、お前は俺らのところにいたんだろう?」
グラスに残っている酒を飲み干して、彼女はまたため息をついた。
「慣れてんな。」
それを見ていたのは、ミケルだった。
「うちは弟とか妹が多かったからね。」
「そっか。そうだったな。」
髪を切り終わり、ハンは椅子から立ち上がる。するとふと森の方に目をやった。
「どうしたの?ハン。」
「いや…。」
「すぐ帰って来るって言ったんだろ?」
髪を切っている途中に、急にユーリが建物から出てきて「出かけてくる」とだけ言って森の方へ行ってしまったのだ。
「本当に戻ってくるのかしらね。」
「さぁな。あいつは「Crow」のメンバーでもないし、どこへ行ってもいいと思うんだけどな。」
「あら。ミケルは結構冷たいのね。」
「別に。冷たい訳じゃない。ただ、あいつが来てからボスが情緒不安定になっている気がするんだよ。」
「…「昔」のことを思い出しているでしょ?」
「…。」
そのころ、ユーリは狭い小川の川岸に腰掛けて、焚き火をしていた。パチパチと音を立てて小枝が、はじけていく。
赤い目をした彼女は、その声に耳を澄ませる。
「そう…。ありがとう。調べてみるわ。」
精霊たちが、ざわついている。20年前と同じように。
「反逆者がいるってコトね。」
水の精霊だけではない。もしかしたら、もっと他にいるのかもしれない。
「小さい芽を放っておいた私が悪いのかしらね。それとも神も悪魔も気がついて、私に指示を出さなかったのかしら。」
もしかしたら神も悪魔も再び「人間」に愛想を尽かしているのかもしれない。
「…それでも守らないといけないわね。」
情が移ってしまったとは認めたくはない。でも今は死んでは困る人間がいるのだ。
そして彼女の目がふっと正常になった。精霊との通信を終えたのだ。
彼女は伸びをして、その火を消そうとした。すると後ろから草をかき分ける音が聞こえる。振り返るとそこにはノアの姿があった。
「ノア。」
「飲まないか。」
そう言って彼は手に持っているワインを彼女に見せる。
「昔はよく飲みあったわね。」
グラスに赤い液体が注がれて、二人はそのグラスを合わせる。
「でもお酒は久しぶりだわ。」
「最近は忙しいみたいだな。」
「氾濫してくる精霊が多いのよ。人間が賢くなり過ぎたせいかしらね。」
出来れば守りたい。しかしこのままではまた人間は神と悪魔に愛想尽かされ、悪魔の一撃、神の鉄槌を受けることになるだろう。
「お前に最初に会ったときも同じようなことを言っていたな。」
「…そうだったかしら。」
「人身売買など、人道に外れている。即刻やめなさい。と俺に言っていたよ。」
「フフ。そうね。あのころのあなたは「ちょっとしたもの」だったものね。」
「ノアにかかれば、血の一滴、骨のかけらすら残らず売られる。」と言われていた若い頃。彼は血気盛んだった。
「これを覚えているか。」
そう言って彼はポケットからある宝石を取り出した。純度の低いエメラルド。きっと売ってもそんなに価値はないだろう。
「えぇ。ジェイクの遺品ね。」
ジェイクはノアの下で使いっぱしりをしていた男だった。しかし彼は、忠告をしてきたユーリに一目で恋をし、彼女にこの宝石のついた指輪を差し出してきたのだ。
「残ったのはこれだけだった。お前の力でジェイクが消えたのだからな。」
火の精霊が反乱を起こし、森を焼いたことがあった。ユーリはそれを止めるため、森へ一人足を踏み入れた。
一人で大丈夫。そう思っていたのに。
予想外の事が起きた。
ユーリの力を見たいと好奇心で覗き見ていたノアとジェイクが、彼女の後を追っていたのだ。
そして火の精霊を黙らせるために使ったのは氷の精霊だった。
火の精霊は反撃するまもなく、凍っていく。まるで氷のオブジェのように固まってしまった。
芸術品のようなそれを作るユーリ。それに魅せられるように近づいてきたのがジェイクだった。
「やめろーーー!」
ノアの叫びが空しく響いた。
ジェイクはおそらく脳にまで彼女の力の影響があったのだろう。ノアの叫び声が耳に届いていなかったようだった。
そして彼が彼女に触れたその時、風化するように体がバラバラになってしまったのだ。服すら残ることはない。
唯一残っていたのは、指輪にしていたエメラルドの宝石。それが風化して氷の粒になってしまったジェイクの跡から発見された。それはユーリが無事に森から戻ってきたら、ジェイクが彼女に渡そうと思っていたものだった。
初めてその時ノアはユーリの恐ろしさと共に、強さと美しさに魅せられたのだ。ジェイクを殺した憎しみと共に。
「殺したのは、私。なぜあなたが私を恨まないのか。それが不思議だったわ。」
「言っただろう?」
ノアがユーリの手に触れる。
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すると彼女はすっとその手を離す。
「嘘ね。」
「嘘じゃ…。」
「私はあなたを良く知っている。女に何を言えば喜ぶかなんてコトも良く知っているわね。」
「…。」
「私はそんな女じゃない。それに女でもないのよ。」
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