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春
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海を照らす太陽が燦々と部屋の中を照らす。もう春になろうとしているのだ。
しかし私たちはそれをのんびりと見ていることは出来ない。
「南沢さん。文字のチェックどうなってる?」
「はい。今百ページくらいは。」
「正確な数字よ。」
「百二十一ページです。」
「あと五十ページくらいね。今日中に終わるかしら。」
「大丈夫です。」
見本で出されたその紙を一枚一枚、チェックしていく。私は文字のチェックを。そして隣では私がチェックした紙をまた手に取る人がいる。
「南沢。この色は良くない。」
その男が私にそのページをつきだした。
「何ページですか。」
「七十三だ。青空に青の背景はありえない。違う色を使ってくれ。」
「わかりました。」
隣にいた男は気心が知れた人だ。それでも私は敬語を使う。この会社では上司だからだ。見た目は怖くてもね。
「ただいま帰りました。」
会社の入り口から、スーツを着た男がやってきた。
「お帰り。どうだった。スポンサーは。」
「一応契約更新するそうです。」
彼を迎え入れたその人こそ、私たちの仕事の最終責任者である「社長」だった。
「良かったよ。これで雑誌の値段を上げないですむ。」
社長の手には、先月号のタウン誌である「月刊サンライズ」があった。
「でももっと広告を大きく載せられないかと言われました。」
「へぇ。いいけど、その分お金が発生するけどね。」
「それを言ったら、かまわないと言われました。」
若き社長なら、それをうんと言うだろう。しかし彼は首を傾げる。
「江口。うちは風俗情報誌じゃないし、キャバクラを紹介するような情報誌でもない。十八歳未満の子供も手にすることが出来る雑誌だ。」
「社長なら、そういうと思いました。大きく載せれば他の店を載せることも出来ないし。」
「枠は決まっている。僕から連絡をしておくから、君は来月号の特集する企業に連絡を取ってくれないか。」
「あれですか。温泉企画。」
「あぁ。宿に連絡を取っておいてくれ。」
「わかりました。」
江口と呼ばれた社員は、外見がちゃらい。茶色の髪は毛先がもうすでに金色になっているし、必要ないのにカラーコンタクトをしているし、耳にはピアスがしてある。
まぁ。外見だけで言えば、私の隣に座っている男の方が激しいけれど。
「帰ったわ。」
また会社の入り口から、一人の女性がやってきた。それは茶色の髪をふわふわにパーマをかけた女性だった。小さな女性で、それがコンプレックスなのかヒールの高い靴を履いている。
「社長。さ来月の記事。差し替えになりましたよ。」
「え?」
「ランチ特集ではなくて、お出かけスポットにしてくれということです。」
「そうか。まだそっちのアポは取っていなかったから良かった。」
「それから水着の特集も。」
「それは気が早い気がするな。」
若い社長は苦笑いをして、女性から受け取った資料を見ていた。
「南沢さん。ページのチェックはどれくらい進んだ?」
「百二十三ページです。」
「正確な数はいいわ。今日中に終わりそうなの?」
「終わります。」
さっきは正確な数字が必要だと田宮さんが言っていたのに、その若い女性は正確な数字はいらないと突き返す。
そういう行動が面倒だと思うけれど、いちいち相手にしれられない。
そしてページのチェックを終わらせる。その時間は、印刷所に収めるぎりぎりの時間だった。
「文字はいいのか?」
「はい。」
「カラーの差し替えは?」
「OKです。」
「じゃあ、入稿。」
社長がパソコンのボタンを押すと、そこにいるみんなのため息が聞こえるようだった。時間は夕方六時。
「お疲れさん。じゃあ明日からみんな二日間休み。良かったねぇ。」
社長はそういって笑いながら、私の方を見た。
社長は社長といわれながらも若い。私よりも四歳くらいしか変わらないのに、とてもカッコいい。もてるんだろうな。
「あーあ。疲れた。」
隣で肩を鳴らしているのは、同僚の男。出版業界は自由な社風だというが、彼は自由すぎる気がする。ぼろぼろのTシャツの下からは入れ墨が見えるし、耳にはいくつかピアスがある。
すると彼は前に置いておいた携帯電話を手にした。そして電話をする。
「もしもし。北川です。はい。はい。明日だったらいけます。いいえ。大丈夫です。はい。」
私をこの会社に引き入れたのは、社長の西原楓ではなく、先ほどの背が低い女性である東野光ではなく、隣で電話をしている北川律だった。
私は飲んでいたコーヒーカップを手に持ち立ち上がる。すると隣で電話をしていた北川さんも私にカップを差し出した。電話をしているから、口には出せないけど一緒に洗ってきてくれ。そういうことだろうか。
「わかりましたよ。」
そういって私はカップを二つもって、会社の奥にあるドアへ向かった。
そこはダイニングキッチンがあった。その脇にはトイレやお風呂がある。
「ただいま。」
つぶやいた。そう。ここは出版社「シーサイド」でもあるが、同時に私たちが住む社員寮でもあった。
しかし私たちはそれをのんびりと見ていることは出来ない。
「南沢さん。文字のチェックどうなってる?」
「はい。今百ページくらいは。」
「正確な数字よ。」
「百二十一ページです。」
「あと五十ページくらいね。今日中に終わるかしら。」
「大丈夫です。」
見本で出されたその紙を一枚一枚、チェックしていく。私は文字のチェックを。そして隣では私がチェックした紙をまた手に取る人がいる。
「南沢。この色は良くない。」
その男が私にそのページをつきだした。
「何ページですか。」
「七十三だ。青空に青の背景はありえない。違う色を使ってくれ。」
「わかりました。」
隣にいた男は気心が知れた人だ。それでも私は敬語を使う。この会社では上司だからだ。見た目は怖くてもね。
「ただいま帰りました。」
会社の入り口から、スーツを着た男がやってきた。
「お帰り。どうだった。スポンサーは。」
「一応契約更新するそうです。」
彼を迎え入れたその人こそ、私たちの仕事の最終責任者である「社長」だった。
「良かったよ。これで雑誌の値段を上げないですむ。」
社長の手には、先月号のタウン誌である「月刊サンライズ」があった。
「でももっと広告を大きく載せられないかと言われました。」
「へぇ。いいけど、その分お金が発生するけどね。」
「それを言ったら、かまわないと言われました。」
若き社長なら、それをうんと言うだろう。しかし彼は首を傾げる。
「江口。うちは風俗情報誌じゃないし、キャバクラを紹介するような情報誌でもない。十八歳未満の子供も手にすることが出来る雑誌だ。」
「社長なら、そういうと思いました。大きく載せれば他の店を載せることも出来ないし。」
「枠は決まっている。僕から連絡をしておくから、君は来月号の特集する企業に連絡を取ってくれないか。」
「あれですか。温泉企画。」
「あぁ。宿に連絡を取っておいてくれ。」
「わかりました。」
江口と呼ばれた社員は、外見がちゃらい。茶色の髪は毛先がもうすでに金色になっているし、必要ないのにカラーコンタクトをしているし、耳にはピアスがしてある。
まぁ。外見だけで言えば、私の隣に座っている男の方が激しいけれど。
「帰ったわ。」
また会社の入り口から、一人の女性がやってきた。それは茶色の髪をふわふわにパーマをかけた女性だった。小さな女性で、それがコンプレックスなのかヒールの高い靴を履いている。
「社長。さ来月の記事。差し替えになりましたよ。」
「え?」
「ランチ特集ではなくて、お出かけスポットにしてくれということです。」
「そうか。まだそっちのアポは取っていなかったから良かった。」
「それから水着の特集も。」
「それは気が早い気がするな。」
若い社長は苦笑いをして、女性から受け取った資料を見ていた。
「南沢さん。ページのチェックはどれくらい進んだ?」
「百二十三ページです。」
「正確な数はいいわ。今日中に終わりそうなの?」
「終わります。」
さっきは正確な数字が必要だと田宮さんが言っていたのに、その若い女性は正確な数字はいらないと突き返す。
そういう行動が面倒だと思うけれど、いちいち相手にしれられない。
そしてページのチェックを終わらせる。その時間は、印刷所に収めるぎりぎりの時間だった。
「文字はいいのか?」
「はい。」
「カラーの差し替えは?」
「OKです。」
「じゃあ、入稿。」
社長がパソコンのボタンを押すと、そこにいるみんなのため息が聞こえるようだった。時間は夕方六時。
「お疲れさん。じゃあ明日からみんな二日間休み。良かったねぇ。」
社長はそういって笑いながら、私の方を見た。
社長は社長といわれながらも若い。私よりも四歳くらいしか変わらないのに、とてもカッコいい。もてるんだろうな。
「あーあ。疲れた。」
隣で肩を鳴らしているのは、同僚の男。出版業界は自由な社風だというが、彼は自由すぎる気がする。ぼろぼろのTシャツの下からは入れ墨が見えるし、耳にはいくつかピアスがある。
すると彼は前に置いておいた携帯電話を手にした。そして電話をする。
「もしもし。北川です。はい。はい。明日だったらいけます。いいえ。大丈夫です。はい。」
私をこの会社に引き入れたのは、社長の西原楓ではなく、先ほどの背が低い女性である東野光ではなく、隣で電話をしている北川律だった。
私は飲んでいたコーヒーカップを手に持ち立ち上がる。すると隣で電話をしていた北川さんも私にカップを差し出した。電話をしているから、口には出せないけど一緒に洗ってきてくれ。そういうことだろうか。
「わかりましたよ。」
そういって私はカップを二つもって、会社の奥にあるドアへ向かった。
そこはダイニングキッチンがあった。その脇にはトイレやお風呂がある。
「ただいま。」
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