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反転、異端、足音。
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ある寂れた廃病院で撮影された映像に、おかしなものが映っていたらしい。当たり前だが、病院がある土地の所有者以外は殆ど関わっていない場所だ。所有者自身も建物内に入ることはないが、基本的には浅はかな考えしかない、肝試しと称して不法侵入する輩が居るくらいだ。それくらいなら別に構わない。中の備品は大体回収してあるし、そもそも中は蜘蛛の巣や壁や床の経年劣化が凄くてまともにいられる場所ではない。それも相まってか、若者なりに何かを感じ取ったんだろうか、いつしかあの廃病院は心霊スポットとして噂されるようになった。その噂になんの根拠もソースもない。病院だから何人も人が死んでいるだとか、子供騙しのオカルト本に出るくらいだから、とかではない。ただ、そこに在り、不気味だから。馬鹿馬鹿しい。テレビに出てくる心霊写真はシミュラクラ現象だと、霊能力者は妄想と勘違いの塊だと、割り切っていたはずなのに。何故そんなものを未だに信じるのか。良く言えばメルヘンで、純粋無垢。俺から言わせれば、虚言癖持ちで、頭が残念な人だ。だが、俺が命辛辛、あのクソッタレの廃病院から逃げ帰ってきた、あの体験はなんなのか、とても頭じゃ理解が追いつかない。少なくとも、あそこは本物だ。信じてはもらえないと思うが、情報共有の一環として少し語ることにする。ビデオカメラの映像と合わせて見てくれ。ちなみにカッコの後が状況説明、改行しての文章が俺の見解、心境を記している。
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[7/18(火) 20:19:02-撮影開始]
[00:03]病院が正面から映される。風などの環境音が録音されている。間も無くして撮影者は歩き始める。
ここでは何もおかしなことは起こっていなかった。ただ、物々しい雰囲気と、立ち入ることを咎められるような感覚はした。ここでやめておけばよかったものを。
[00:46]撮影者が病院の内部に侵入する。受付所とベンチが映される。ベンチは何者かが表面を掴んで破ったのか、中の綿が飛び出し、床に散乱している。
綿が飛び出すなんて、おかしいと思ったんだ。普通子供の悪戯で起きるんだろうが、それがどれも、一切修復された様子もなかった。治した所の縫い目も探したんだが、全くない。こんなもの、関係者は何故放置したんだ?
[01:17]あちこち散策して見たものの、受付所には人の気配や痕跡が全くなく、ただ寂寞(じゃくまく)としている。間も無くして撮影者は病棟へと歩き始める。
カルテとか、正式な書類なんかは、どこかに持っていったんだろうな。個人情報も入っているだろうし。まぁ、病室とかの電気系統が死んでいなかったのは驚いた。誰が維持させているんだ?気味が悪い。
[02:03]101号室に侵入する。部屋に4つあるベッドのシーツはどれもヨレヨレになっている。まるで誰がが引っ剥がそうとした様だ。そのくせ、何故か掛け布団は床に散乱している。枕も布団も、経年による埃は被っていなかった。まるで、最近誰かが使ったかの様に。
この部屋は何と言うか、子供が遊んだ後の様な感じがした。掛け布団をバタバタと振ると毛が飛び散るだろう?そういう埃だ。物を手入れしないと次第に被る埃じゃない。
[02:50]撮影者がベッド近くに備え付けられたナースコールを鳴らす。受付所のあたりで異常な音量で音が鳴り響いた。静寂が支配しているこの病院内では、酷く煩く聞こえた。その騒音の中、近くの病室の扉が開く音が録音された。撮影者は撮影している時点ではそのことに気づいていなかった模様。
扉が開く音は、映像を見返す中で後々気づいたものだ。開け方は荒々しかった。カメラはそっちに回していなかったので良くわからないが、複数体いたと思う。早めに気づいていればよかったのだが。
[03:23]撮影者がナースコースの音を停止させる。その後撮影者は102号室へと歩き始める。
近づくにつれて音が大きくなっていくのがかなりキツかった。本来、受付所の近くで聞こえる程度の音量でいいはずなのに、何故こんなに大きいんだ?危険を知らせる警報にも聞こえた。まぁ、もう鳴らすことはないが。
[04:50]撮影者が102号室前に到着する。取っ手に手をかけたが、扉が開かない。何度か開扉(かいひ)を試みたが、暫(しばら)くして撮影者は諦め、103号室へ向かう。
病室の扉が開かないことなんて、今までで初めてだった。施錠されているというより、つっかえ棒で抑えられているような。そもそもこの病院の病室には鍵がないのだが。態々(わざわざ)使える部屋を少なくする理由がわからないな。まぁ、探索する手間が省けたからそれでいい。
[05:19]103号室も開かない。
[中略]
[10:05]109号室は開いたものの、肉が散乱しており、撮影者は腐臭を訴えた。肉が常温で放置されて、そのまま腐った様な臭いとのこと。撮影者が鼻をつまみながら散策していると、肉はある程度形を保った物であると判明した。それらには四肢の様なものが確認できた。手足の指先には、欠けていたが鋭利な爪が10cmほど生えており、モノを掴むには十分なものだった。とても人間とは思えない化け物の死体を映した後、撮影者は急いで109号室を出ようとする。その時、撮影者は二階に繋がる階段の踊り場に、人影を見た。思わずカメラを向けると、天井に足がついていて、頭が地に向かっている。そのままぺちゃぺちゃと足音を鳴らしながら、無い段差を登っている。まるでコウモリのように。
だが俺は不思議と、その光景に違和感は持たなかった。そうなっているのが当たり前に感じてしまった。異様で、怪奇で、信じられないモノなのに。そして、ここで見たものの全てが繋がった。アイツらはここで住んでいるんだ、と。俺はただ、アイツらの住処に邪魔しただけなんだ、と。俺は此処では異端者なんだ、と。そう悟った時、俺はわき目もふらず病院の外へと駆け出した。背後から大勢の慟哭のような叫び声が聞こえたような気がしたが、気にも留めなかった。留めていられなかった。
[20:58]撮影者があたりを見渡すといつのまにか自宅の玄関に居た。
正直のところ、暫くの間放心状態だった。あの日の出来事を誰にも伝える気にならなかった。誰も知るべきではないんだろう。
映像はこれで終わりだ。
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[7/18(火) 20:19:02-撮影開始]
[00:03]病院が正面から映される。風などの環境音が録音されている。間も無くして撮影者は歩き始める。
ここでは何もおかしなことは起こっていなかった。ただ、物々しい雰囲気と、立ち入ることを咎められるような感覚はした。ここでやめておけばよかったものを。
[00:46]撮影者が病院の内部に侵入する。受付所とベンチが映される。ベンチは何者かが表面を掴んで破ったのか、中の綿が飛び出し、床に散乱している。
綿が飛び出すなんて、おかしいと思ったんだ。普通子供の悪戯で起きるんだろうが、それがどれも、一切修復された様子もなかった。治した所の縫い目も探したんだが、全くない。こんなもの、関係者は何故放置したんだ?
[01:17]あちこち散策して見たものの、受付所には人の気配や痕跡が全くなく、ただ寂寞(じゃくまく)としている。間も無くして撮影者は病棟へと歩き始める。
カルテとか、正式な書類なんかは、どこかに持っていったんだろうな。個人情報も入っているだろうし。まぁ、病室とかの電気系統が死んでいなかったのは驚いた。誰が維持させているんだ?気味が悪い。
[02:03]101号室に侵入する。部屋に4つあるベッドのシーツはどれもヨレヨレになっている。まるで誰がが引っ剥がそうとした様だ。そのくせ、何故か掛け布団は床に散乱している。枕も布団も、経年による埃は被っていなかった。まるで、最近誰かが使ったかの様に。
この部屋は何と言うか、子供が遊んだ後の様な感じがした。掛け布団をバタバタと振ると毛が飛び散るだろう?そういう埃だ。物を手入れしないと次第に被る埃じゃない。
[02:50]撮影者がベッド近くに備え付けられたナースコールを鳴らす。受付所のあたりで異常な音量で音が鳴り響いた。静寂が支配しているこの病院内では、酷く煩く聞こえた。その騒音の中、近くの病室の扉が開く音が録音された。撮影者は撮影している時点ではそのことに気づいていなかった模様。
扉が開く音は、映像を見返す中で後々気づいたものだ。開け方は荒々しかった。カメラはそっちに回していなかったので良くわからないが、複数体いたと思う。早めに気づいていればよかったのだが。
[03:23]撮影者がナースコースの音を停止させる。その後撮影者は102号室へと歩き始める。
近づくにつれて音が大きくなっていくのがかなりキツかった。本来、受付所の近くで聞こえる程度の音量でいいはずなのに、何故こんなに大きいんだ?危険を知らせる警報にも聞こえた。まぁ、もう鳴らすことはないが。
[04:50]撮影者が102号室前に到着する。取っ手に手をかけたが、扉が開かない。何度か開扉(かいひ)を試みたが、暫(しばら)くして撮影者は諦め、103号室へ向かう。
病室の扉が開かないことなんて、今までで初めてだった。施錠されているというより、つっかえ棒で抑えられているような。そもそもこの病院の病室には鍵がないのだが。態々(わざわざ)使える部屋を少なくする理由がわからないな。まぁ、探索する手間が省けたからそれでいい。
[05:19]103号室も開かない。
[中略]
[10:05]109号室は開いたものの、肉が散乱しており、撮影者は腐臭を訴えた。肉が常温で放置されて、そのまま腐った様な臭いとのこと。撮影者が鼻をつまみながら散策していると、肉はある程度形を保った物であると判明した。それらには四肢の様なものが確認できた。手足の指先には、欠けていたが鋭利な爪が10cmほど生えており、モノを掴むには十分なものだった。とても人間とは思えない化け物の死体を映した後、撮影者は急いで109号室を出ようとする。その時、撮影者は二階に繋がる階段の踊り場に、人影を見た。思わずカメラを向けると、天井に足がついていて、頭が地に向かっている。そのままぺちゃぺちゃと足音を鳴らしながら、無い段差を登っている。まるでコウモリのように。
だが俺は不思議と、その光景に違和感は持たなかった。そうなっているのが当たり前に感じてしまった。異様で、怪奇で、信じられないモノなのに。そして、ここで見たものの全てが繋がった。アイツらはここで住んでいるんだ、と。俺はただ、アイツらの住処に邪魔しただけなんだ、と。俺は此処では異端者なんだ、と。そう悟った時、俺はわき目もふらず病院の外へと駆け出した。背後から大勢の慟哭のような叫び声が聞こえたような気がしたが、気にも留めなかった。留めていられなかった。
[20:58]撮影者があたりを見渡すといつのまにか自宅の玄関に居た。
正直のところ、暫くの間放心状態だった。あの日の出来事を誰にも伝える気にならなかった。誰も知るべきではないんだろう。
映像はこれで終わりだ。
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