始まらない話

葉津緒

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*** 異世界トリップ ***

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『異世界トリップ』


いまやBL・ライトノベル等、ジャンルの垣根を越えてお約束というか当たり前のように存在する、いわば王道とも言える物語設定の一つだろう。
まあ俺は腐った人間なので、BL系のやつ以外は詳しくないけどね。

1) 転移もしくは転生した主人公が凄い能力を得て、救世主となり異世界を救う話。

2) 王道転校生に巻き込まれてトリップした脇役主人公が、異世界でも最初は嫌われるが次第に総受け又は愛されとなり、やがて真の救世主(神子)だったことが判明。王道転校生の方が偽者でしたー、で一件落着。

3) 王道転校生に巻き込まれてトリップした脇役主人公……までは上記と同じだけど、真の救世主でも何でもなくて本当にただの平凡脇役だった場合。
人間側から酷い扱いを受け殺されかけるが、魔物側(魔王)に救われ溺愛されて、メデタシメデタシ。まあこの場合、人間側の世界は滅んだり衰退したりで大変なことになるけども。


他にも様々なトリップものがあって、面白いし俺も大好きなんだが。

実はこっそり

「もし俺が異世界トリップしたらどーなるんだろう。救世主とかカッコいいな……。ドラゴンに乗って滑空したり、すっげー魔法なんかも使ってみてぇ!」

と妄想したこともありましたさ。
あったけどね?
いやしかし、これはない。



………………。

ギギギ、と嫌な音を響かせ固く強ばる首を下方へ向ける。
目に映るのは自分の身体。

ただし――
ところどころ灰色の肌や炭みたいな黒、爬虫類を思わせる緑色に硬い鱗、肉を突き破って生えた刺のような骨や角。何故か片方だけの、悪魔みたいに折れ曲がった翼もくっついてる。というかドロドロのぶよぶよで酷い腐臭を放つ、ほぼ死肉に近いわき腹に埋もれているのだが。

それらを歪(いびつ)に継ぎ合わせて、無理やり何とか“バケモノ”として命を保っている……。

「これ」が異世界トリップした今の俺の現実だ。



ごく平凡な普通の高校生だった俺は、当然普通に地球で暮らしていたわけで。

それがある日、いきなり真っ暗な穴に引きずり込まれて気が付くと、そこは異世界・魔王の前。
状況を把握する暇も無く、そのまま俺は飢えた魔王に喰い殺されてしまった。
ゲームオーバー。
物語は始まる前に呆気なく終了。
俺の短い人生にピリオドが打たれた。

……筈だった。



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