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第1章
漫然とした日々に 【承】
しおりを挟む予備校への道すがら、路地裏に目をやると
都会の片隅で忘れ去られたように
暗がりにひっそりと咲く花が目に留まる。
ポーチュラカ。
家が園芸農家を営み、自身も農学部を目指す
彼にとって、見慣れた花ではあったものの
微々たる違和感が胸に去来する。
それが何に因るかは、よく分からなかったが
考えるほどでもなかろうと判断した彼は
すぐに目線を前にやった。
次の講義開始まで5分というところで
予備校のエントランスに着き、自動販売機で
ミネラルウォーターを買うと、教室へ向かう。
都会の子らは、いたく水が好きらしい。
教室では右を見ても、左を見ても
ミネラルウォーター片手に参考書を広げる
学徒の姿が所狭しと並ぶ。
ふと、「水教」などという造語が頭を過り
くすりと笑うと、彼は指定席に座った。
浪人生生活も4ヶ月経つと慣れるものだ。
彼はきゃっきゃっと笑いながら講義を受ける
女子数人を傍目に、参考書に目を走らせる。
慣れは緩慢さを産み、緩慢さは怠惰を生ず。
志高く勉学に励もうと予備校に入学した者の
半数は今やスマートフォン片手に
生きてるのか死んでるのか分からない瞳を
下方へと熱心に向ける。
何か反骨精神のようなものが湧き上がり
彼は最前列でペンを走らせると
ふぅっと一息置き、参考書に目を向けた。
誰がために。
ふと、場の潮を吹く潮流に飲まれるように
ミネラルウォーターを買い
参考書を眺める自身を鑑みる
僕もなかなかに「酔狂」だな
空虚な気持ちが心を占めるのを
彼はたしかに感じた。
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