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侶雲

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「それで、今日は予定ある?」
「え、今日ですか?」

思わず聞き返してしまった。

「あいてますけど。」
「じゃあさ、仕事簡単なやつだけ教えるから、ちゃちゃっと覚えちゃってよ。」

採用試験を受けにきたのに、ろくに履歴書も見ない、話も聞かないで、合否をスルーして指示をされてしまった。

「恐れ入ります、それって採用ということでよろしいんでしょうか?」
「え、そういうの必要ですか?」

さっき聞き返したのを仕返しされたようだ。
採用と解釈して良いらしい。

「それと、履歴書だけど、シュレッダーしちゃうよ?
これ個人情報だからさ。」
「シュレッダーって…」
「あれ、まずいの?
これから他のとこも受けるとか?」

そういう問題ではなく、まず見てもいないのに
採用とか、シュレッダーとか、という点に
驚いたんだが。

「いえ、採用でしたらこちらに勤めたいです。」
「それじゃ、ドリンクバーの補充教えるね。」

メモ帳を用意していない状態で、どれだけの仕事を
覚えなければいけないのかと恐怖したが、
教わったのはドリンクバーの補充だけだった。

それから後は、ひたすら店長の話を聞かされた。

「それで、名前なんだっけ?」

…さっき履歴書渡したのに。

「コマガタです。」
「オレは店長のミズサキ、よろしく。」
「よろしくお願いします。」

順序がメチャクチャなんだけど、大丈夫かココ?

「それでぇ、えぇと、できれば明日、
給与振込先の口座教えてよ、手続きしとくから。」
「あ、あぁ、はい。」

このやりとりに慣れるしかないんだろうか?

「しかしさぁ、世の中変わったよねぇ。
今じゃ、スマホにデータ入力するだけで
バイトできちゃうんだもん。
コンプライアンスがどうのこうの言ってるのに
逆行してるっつうか、雇った相手の顔も
わかんないような世の中だよ?
もう履歴書書いてきてくれるだけでも貴重だよ。」

さっきの私の心の声を読まれたんだろうか?
しかし、お客様は黙々とスマホゲームをしていて、
店長はベラベラ喋っている、
異様な光景のお店だと思う。

「それでさぁ、ここのシステムについて、
とりあえず簡単に説明だけしとくね。
ここはアプリゲームのボーナスが入りやすい、
というのが唯一の売りってゆうカフェ。」

またもや心の声を読まれた、
この人はエスパーかもしれない。

「アプリゲームを出してる会社と提携してて、
現時点では十社ぐらいしか提携してないけど、
これからどんどん増えていくから。
提携してる会社のゲームであれば、
まずログインボーナス3倍、
行動力等の回復力3倍、
その他諸々ゲーマーにはおいしいボーナスが
てんこ盛りだから、それ目当てにお客さんが来る。
だから、店員なんてどうでもいい存在ってこと。
テキトーに、気楽にやろうよ。」
「かしこまりました。」
「かしこまんなくていいって。」

その日は店長の話を聞いていただけで、
正直何もしていない。
店長曰く、これで給料が出るのだそうだ。
これでいいんだろうか?



翌日、お店に出勤した私は、昨日見なかったものを
目撃した。

『当店内で他店の出前をとる行為は禁止致します!
万が一見つけた場合は警察を呼びます!』

という文言が書かれた赤い張り紙である。

店内に入り、お疲れ様ですと挨拶をすると、
店長が話してきた。

「ああ、お疲れ。
ちょっと聞いてよ、昨日コマガタちゃん
帰った後にさ、事件が起ったのよ。」

事件とは、また物騒な。

「非常識なお客さんが出前とりやがってさ、
注意したら、
ココはゲームがメインでしょ?
食事は他のところからとってもいいでしょ?
とかいってきちゃってさ、
即警察呼んだんだよ、それで威力業務妨害の
被害届書いて、めんどくさいのなんの、
もう最悪だよ。
でそのお客さん、ここで食べられないなら、
持ち帰ることもできないし、どうしようか?
とか悩んでたら、
食品配達スタッフがさぁ、
お宅まで配達しますよ、とか気を利かせてさ。
地獄に仏ってやつ?」
「それで、そのお客様って逮捕されたんですか?」
「いや、事情聴取受けて、すぐに帰った。
罰金は払ってもらうけどね。
しかしほんっとにさぁ、
最近は変なの多くて困るよ。
社会通念ってのが通用しないっつうかさ。」

お客様のいる前で平気でこういう話をする店長も
どうかと思うが…
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