2 / 160
第2話 おいてけぼり [挿絵有]
しおりを挟む「大佐――! 本当に異界人を拾ってきたんですか――?!」
大佐と呼んだ男の肩をがくんがくんと大きく揺さぶりながら、紫紺髪の青年が半泣きで訴える。
「ちょ、ちょっリアム! ステイ、ステーイ。俺の首がもーげーるー」
「いっそもげてくださいよ! 異界人っていったらリドミンゲルの管轄ですよ?! なんですか死ぬんですか?! 僕は嫌ですから死ぬんなら大佐一人で死んで下さいよー?!」
完全に置いてけぼりになった唯舞は、彼らのやりとりに口を挟めるわけもなく、ふと足元にあった自身の鞄を手元に寄せてスマホを取り出した。
時刻は0:00ちょうど。だが、いつもは表示される秒針は動かず、無情にも電波も圏外だ。
(……なんで?)
はめ殺しの窓から見える外は真っ暗で星さえも見えず、それが余計に唯舞の不安を煽ってくる。
「ほらほら、リアム。お前より彼女のほうがよっぽど落ち着いてるよ。この状況が一番訳わかんないのは彼女でしょ?」
自分に話題が向いたことに気付いた唯舞が無意識にバッグを抱きしめれば、大佐と呼ばれた男が唯舞の元まで歩み寄って目線を合わせるよう腰を落とした。
「――おい、お前達。ここで一体何をしている」
「げ! 中、佐」
「アヤちゃんお帰り~早かったねー」
(…………増えた)
いきなり開いたドアの先。現れたのは息を呑むほどに整った顔立ちの、だがそれ以上に冷たく、氷のような薄氷色の瞳を持つ男だった。
男の警戒と威嚇の視線が唯舞に向き、睨むように見下ろす。
「……なぜ一般人がここにいる」
「え、ええとですね、中佐っ! これにはちょっと色々と複雑な事情が」
「そんなの見て分かる。――今度は何をやらかした、エドヴァルト」
かつん、と冷たい靴底を響かせて中佐と呼ばれた青年は唯舞達に近付く。
彼の後ろでは「僕は知りませんよ~」然したリアムが降参するように両手を上げていた。
「この女は?」
「もう、女の子、でしょ。ただでさえ愛想がないんだからそんな言い方したら怖がられちゃうよ」
「そんなことはどうでもいい。何故、最前基地に一般人の女がいる」
男の冷ややかな視線を感じるが、唯舞の意見は求められていないと察する。
(そんなに睨まれても……今一番状況が分からないのは、私なんだけどなぁ)
見知らぬ場所で見知らぬ男達に囲まれ、挙句に睨まれて。
そんな唯舞の心知らず、エドヴァルトと呼ばれた男はぽつり、と呟く。
「一般人、ではないんだけどね」
中佐と呼ばれた男は怪訝そうに柳眉を顰め、真意を探るように唯舞を眺めた。
「彼女は異界人だよ。リドミンゲルではなくこちら側に辿りついた、ね」
「異界人……だと?」
エドヴァルトからその単語を聞いた途端、男の様子が変わる。
「面倒だ。元居た場所に返してこい」
「そんな簡単に言わないの。大体、異界人ならうちにいた方が有利でしょ」
「馬鹿か貴様は。今頃リドミンゲルが血眼になって探してるような女を匿うのは厄介に決まってる。とっとと返すか、お前が国境まで連れていけ」
「何それ冷たいー! 俺、そんな風に育てた覚えないよ?!」
「残念だな、育てられた覚えもない」
「うちの子ったらクソ生意気に育ってるー!」
(……うん、漫才かな?)
思わず心の中でツッコんでしまった。もしかしたら疲労からくる幻覚かもしれないが、心臓の鼓動はやけに早い。
縋るような気持ちでもう一度みたスマホは相変わらず無反応で泣きそうだ。
(――帰り、たい)
両親と弟のいる家に、今無性に帰りたかった。
会社さえも恋しく思えるほどに、自分の知っている日常に今戻りたい。
不安でぎゅっとカバンを握りしめれば、それに気付いたエドヴァルトが苦笑いを浮かべながら話しかけてくる。
「ごめん。置いてけぼりにしたね。えっと、とりあえず自己紹介、かな。俺はエドヴァルト・リュトス。んで、あっちの愛想のない奴がアヤセ・シュバイツっていって……」
「あ、リアム・ラングレンです! よろしくお願いします!」
勢いよく挙手をしたリアムに、やっぱり日本人じゃないんだと嫌な予感が的中する。
どうみても佐藤とか、鈴木とか、そういう次元の名前ではない。
「えっと……唯舞、です。水原唯舞」
もしかして名前と名字を逆に言ったほうが良かったかなと思ったけど、エドヴァルトは困ったように笑うだけだ。
「あぁ、やっぱり異界人なんだねぇ」
一瞬切なそうに目を細めた彼が、巻き込んでごめんね、と唯舞にしか聞こえない声で呟いた。
「……?」
「急なことで驚いたと思うんだけど今ちょっと立て込んでて。……とりあえずリアム。お前が簡単に彼女に説明してうちの兵舎まで連れてって」
そう言うとエドヴァルトはさっさと出ていこうとするアヤセの背中を追いかける。
物言いたげなアヤセの視線が一瞬唯舞に向けられたが、結局彼は何も言わずに、そのままエドヴァルトと共に部屋から出て行ってしまった。
※イメージです※
13
あなたにおすすめの小説
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
人生の攻略本を拾いました~彼女の行動がギャルゲー感覚で予測できるので、簡単にハーレム……とおもいきや誰かが死んでしまうらしい~
星上みかん(嬉野K)
恋愛
ギャルゲーマスターに攻略本を与えた結果。
この作品は、
【カクヨム】
【ノベルアップ+】
【アルファポリス】
に投稿しております。
☆
会話が苦手で、女性と楽しく話すなんて縁がない主人公。
ある日『人生の攻略本』と書かれた本を拾う。その本には学校でもトップクラスの美少女4人の攻略法が示されていた。まるで未来予知のように、彼女たちの行動が示されていたのである。
何を言えば好感度が上がるのか。どの行動をすれば告白されるのかまで、詳しく書かれていた。
これを使えば簡単に彼女およびハーレムが作れる、と浮足立つ主人公。
しかし攻略本を読み進めていくと、どうやらとあるキャラクターが死んでしまうようで。
その人の死は回避したい。しかし誰が死んでしまうのかはわからない。
ということで、全員と仲良くならないといけない。
仕方がなく、やむを得ず、本意ではないけれどハーレムを作ることになってしまう。
あくまでも人命救助に必要なだけですよ。
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
お見合いに代理出席したら花嫁になっちゃいました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
綾美は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、お見合いの代理出席をする為にホテルへ向かったのだが、そこにいたのは!?
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
