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第6話 知らないセカイ(4)
しおりを挟むふと、唯舞の脳裏に疑問が浮かぶ。
「そういえば精霊との契約期間とかはあるんですか?」
「ありますよ~。大体2年から7年くらいかな。時期が来たら、再契約するか新しい精霊を探すかですね」
「じゃあ精霊なしで理力を使用する、ていうのは不可能なんですね」
唯舞の発言にリアムはやや難しそうな顔をした。
「正確に言えば、精霊を介さずに理力を使う事自体は可能なんです。その場合は上限なく力が使えるので切り札としては最適なんですが……でもその代わり、使用者は対価として、命を失います」
リアムの答えは唯舞の予想よりも何倍も危険だった。普通ならそんな選択肢は絶対に選ばない。
「リドミンゲルは異界人を公にはしないから情報も少ないんですけど、異界人はこの精霊契約のない状態よりももっと強い力を、加護、という形で使っているみたいです。大佐がイブさんの保護を決めたのはそんなリドミンゲルを弱体させようとの判断でしょうね。まったく、珍しく仕事したと思ったらやっぱり女性絡みなんだからあの人は……」
呆れたように肩を落とすリアムに思わず苦笑する。
異界人召喚のたびに上がるリドミンゲル皇国の軍事力に対抗するよう組織されたのが、アルプトラオムなのだとリアムは言った。
話を聞く限り、異界人には特別な力があって、それをリドミンゲルが軍事目的を含めた自国繁栄のために利用している、ということは何となく分かったが、まだ分からないことがある。
「リアムさん、戦争の原因の理力問題って、そんなに深刻なんですか?」
「……そう、ですね。正直、詳細を知っているのは上層部くらいですが、この100年で砂漠化地域も倍以上に増え、ほとんどの国が今ある4つの国に吸収されているので、かなり深刻です」
そこで、ぽつり、とリアムが困ったように眉を下げて呟く。
「異界人の力が、世界全体を癒してくれるものだったら良かったんですけどね」
「……」
その言葉に唯舞は困惑げに眉を寄せた。
勝手に召喚され、厄介者扱いされ、救世を願われて。
この世界にも事情があるのは分かるけど、かといってそんな他世界の事情に巻き込まれた唯舞だってたまったものじゃないのに。
そんな唯舞の小さな憤りに、リアムは失言でした、と謝る。
親切にしてくれたリアムにそう言われてしまうと、それ以上は何も言えなくなってしまった。
「でも、この戦争のそもそもの発端は、ザールムガンドとリドミンゲルの思想が真逆だからなんです。リドミンゲルは星と精霊達を崇める宗教国家で、星の生命力たる理力は最小限にするのが教義なんですよ」
「最小限になると……どうなるんですか?」
「かなり不自由な生活になりますね。理力があれば一瞬で水も出せますが、ないとわざわざ蛇口をひねらないといけない。そういう便利を捨ててまで星と共生してるのがリドミンゲルで、逆に利便性を追求して発展してきたのがザールムガンド。……その思想を分かりあうのは中々に難しいんです」
理力を抑制するリドミンゲル皇国と、活用してきたザールムガンド帝国は小さな争いが火種になり、戦争に発展していったという。
「当時は先ほど言った精霊を介さない理力の使用も多くあり、そのせいで星の衰退は始まったと言われています。――でも、リドミンゲル皇国が異界人召喚に成功してから、一気に情勢は変わりました」
リアムの目が真っすぐに唯舞を見る。
「理力を消費しない状態にも関わらずうちと同等、時にはそれ以上の力をリドミンゲルに与える異界人の存在は、僕達からしたら脅威なんです」
「……脅威、ですか」
「えぇ。完全中立国のアインセル連邦とレヂ公国を除けば、もう独立国家として成り立っているのはうちとリドミンゲルだけ。あっちが理解不能な力を得たのなら、こちらは理力増強を持ってして警戒せざるを得ないんですよ」
だから小競り合いが続くんです、とリアムは言う。
どちらかが隷属するか、消滅するか。
そんな理由もあり、決して相容れぬ二国はこの地続きになっている国境の狭間で長年睨み合ってきたという。
「だからこそ今回のイブさんの召喚はイレギュラーでした。リドミンゲルではなくザールムガンドに異界人でもあるイブさんが来たことで……これから先、何かが変わるのかもしれません」
そう言ったリアムに、唯舞は曖昧な表情を浮かべることしかできなかった。
自分の意志とは関係なく、そう、何かとてつもないことに巻き込まれていっているような、そんな気がして……。
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