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第23話 アヤセ視点
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アヤセは氷から這いずり出て文句をたれるエドヴァルトらを横目に、二階にいる唯舞に意識を向ける。
精霊も理力もない、戦争も経験したことのない時代から転移してきた異界人の女は、二階エントランスからまるで幼い子供達の諍いを見守るような顔で自分達を見下ろしていた。
一番最初に自分と唯舞が出会ったのは最前基地第三資材保管庫でのことだ。
出動命令が下りているにも関わらず、いつまでたっても戦場に出ようとしないエドヴァルトを捕獲……探しにリアムと共に動いていた時のことで、保管庫でエドヴァルトを見つけた途端にアヤセはものすごく嫌な予感がした。
エドヴァルトは自由でバカで無駄なことしかしない男だが、ごく稀にその野生にも近い本領を発揮する。
そして案の定、あの男は"異界人"を拾ったから保護をする、と言ってきたのだ。
――異界人。
それはリドミンゲル皇国の秘匿とする術によってこのイエットワーの外の異界から召喚された人間のことである。
今まで召喚された異界人は皆リドミンゲル皇国で"聖女"と呼ばれ、かの国に至上の繁栄をもたらし、そのせいで約100年、ザールムガンド帝国は辛酸をなめることになった。
今回現れた"水原唯舞"という女も本当にそこらへんにいそうな一般人にしか見えなかったのだが、エドヴァルトはそうではなかったらしい。
一言で言えば、違和感だ。
エドヴァルトはリドミンゲル皇国の国力を上げさせない為だと言っていたが間違いなくそれだけではないだろう。
その証拠に、エドヴァルトはアルプトラオム管轄下での保護しか認めなかった。
唯舞の出現にもめていた軍議で、彼女の身柄を自分の管理下に預けねば一生前線には出ないと口にするほどに。
「彼女はアルプトラオムで保護する。勿論リドミンゲルなどには渡さない。そしてそれ以外の保護も認めない。この世界で最も強く、最も安全なのはアルプトラオムだけだ。――――アティナニーケ・ザールムガンド皇帝陛下の御名のもと、エドヴァルト・リュトスが宣言する。……水原唯舞は、今をもってアルプトラオムだ」
あの日の夜、最前線の戦場に立ちながらも遠隔会議の場に着いたエドヴァルトは、珍しく一切の感情の乗らない声でそう告げて、上層部に異界人の保護を確約させた。
控えていたアヤセさえも、その発言には少々驚きを隠せずに小さく動揺する。
許されているとはいえエドヴァルトが皇帝の名を使うなど、後にも先にもその一度きりだ。
皇帝の名を出したエドヴァルトには、例え上部の人間であってもYES以外の答えを出すことは赦されない。
表向きには国軍指令系統内におり大佐という階級だが、本来アルプトラオムは軍とは一線を画す皇帝直属の禁軍だからだ。
しかもアルプトラオムのトップでもあるエドヴァルトは唯一皇帝から直接名を使う事が許されている。
普段の言動以上に底が知れないエドヴァルトとは14年の付き合いだが、奴を理解することなど一生できないのかもしれない。
そうしてエドヴァルトがそこまでしてまで庇護下に置こうとした異界人――唯舞は、アヤセが今まで遭遇したことのない珍しいタイプの女だった。
アヤセにとって女とは、容姿や成績にまとわりついてくる目障りな存在でしかない。
ミーアのように実力があればまだいい。だが、そうでもない女との付き合いは、ほとほとうんざりだった。
そんな中で出会った唯舞という異界人は、面白いぐらいに"アヤセ・シュバイツ"という男に興味を示さなかったのだ。
普通の女ならアヤセに対して何かしらの反応をするのだが、唯舞は用がないのなら特段関わってもこない。
別に避けているというわけでもなく、ただ淡々とちょうどいい距離感を維持しているだけなのが逆に珍しかった。
最初こそ、女にしては表情が乏しいなと思っていたが、リアムやミーア達と一緒にいる時の唯舞は、アヤセの目からみても感情の変化が読み取れる。
今だって自分達のやり取りを、あらあらと言わんばかりの様子で眺めているのだ。
そんな唯舞のことを内心好ましく思っているアヤセだが、その感情が"好意"ということに気づくのは――ずっと、ずっと後になってからのことである。
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