悪夢はイブに溺れる~異界の女神として死ぬ私を、愛知らぬ中佐は許さない~

熾音

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第27話 旅の誘い

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 「唯舞いぶちゃーん! 旅行行かなーい?!」

 
 ドアを開けるなりエドヴァルトは超絶テンションの高い様子で執務室に入ってきた。
 前線から届いた報告書や資材の手配をしていた唯舞とリアムが作業の手を止めて視線をドアに向ければ、珍しくエドヴァルトと一緒にいたアヤセが無遠慮に彼の頭をはたく。

 
 「い"っだ!」
 「言い方を変えろ。遊びに行くんじゃない」
 「いいじゃん国外に行くには変わりないんだから! ついでに観光でもすれば立派な旅行でしょ!」

 
 叩かれた部分を押さえながらエドヴァルトがアヤセに不満げな視線を送るが、彼は何も言わずに自分のデスクに戻ってしまった。
 ぶつぶつとアヤセに対して文句を言いながらもエドヴァルトは唯舞の方に歩いてくる。
 

 「旅行、ですか?」
 「そ! レヂ公国にね。ちょーっとお使いもあるんだけど、ついでに帝国以外の国をみるのもいいかなって」


 椅子の背もたれに抱きつくように座りながら唯舞の近くに寄ったエドヴァルトをリアムが手にした分厚いファイルが阻んだ。
 
 
 「それってイブさんひとりってことじゃないんでしょう?」
 「ねぇなんでわざわざ距離取るの?! そりゃあ勿論、保護者として俺が一緒に……」
 「馬鹿言うな、俺が行く」
 「えぇぇぇ?!」
 
 
 視線はモニターから動かないのにはっきりとした口調でアヤセは断言する。
 あぁそれなら安心ですね、と何食わぬ顔で仕事に戻ろうとするリアムに対し、ひとり異議申し立てするように立ち上がったのはエドヴァルトだ。
 

 「ちょちょちょっ解決してない! 一切何も解決してないけど何が安心なの?!」
 「あぁ、そうか。リアム、お前はそこの馬鹿の世話を頼む。拘束なり監禁なり拷問するなり好きにして構わない」
 「はーい!」
 「待って待って待って待って……! 人権! 俺の人権は?!」
 「そういう事はまず人類に昇華してから言え」
 「そうですよ、大佐! まずは椅子に座るところから始めましょうね!」
 「ねぇ俺の扱いが酷い!」
 
 
 慣れ親しんだ喧騒はすでに職務の一部である。
 唯舞は自分に割り当てられた食料品や医療品、消耗品類の物流計画の調整を行いながらも今までのことを思い出していた。
 
 この世界にはだいぶ慣れたつもりだし、一度ミーアに自身の心情を吐露してから幾分か心もスッキリしたはずなのに、数日前も執務室に帰る途中に倒れてしまい、意識が戻ったら執務室横の仮眠室に寝かされていたことがあったのだ。
 そばにいたエドヴァルトからは、あまり無理したら駄目だよと言われ、使い魔の二匹も泣くほど心配させてしまった。
 なんとなく不思議な夢を見たような、そんな言葉に出来ないような変な気分だったのだけは、なんとなく憶えてる。

 
 (レヂ公国……かぁ)
 
 
 けれど、やはりまだ、帰還できないことに対して納得できない部分や諦めきれない部分が心のしこりとして残っていた。
 世界の情報全てが集まる魔法学術都市レヂ公国ならば、もしかしたら地球に帰る手がかりや、過去に召喚された異界人に関する記述が何かしらあるかもしれない。
 そう考えていた所でアヤセに声を掛けられ、おつかいを任された唯舞は書類を抱えて執務室から出ていった。
 
 パタパタと軽い足音が扉の向こう側に完全に消えるのを確認してからリアムがそっと口を開く。
 
 
 「……それで? どうしてイブさんを急にレヂ公国に行かせるんです?」
 「さすがはリアム君。ま、リドミンゲルの監視がちょ――っと厄介でさ。落ち着くまで公爵閣下のとこに行こうかなーって」


 くるくると、子供が遊ぶように椅子に座りながらゆるく回るエドヴァルトが気だるげに答える。
 
 
 「なるほど。で、結局中佐が行くんですか? 大佐が行くんですか?」
 「だからそれは俺が唯舞ちゃんと行……!」
 「俺が行くと言っただろう。お前はリアムと留守番だ」
 「なんで?! だってアヤちゃん、唯舞ちゃんに優しくないじゃん! アヤちゃんみたいな仏頂面と一緒の旅行なんて唯舞ちゃんが可哀そ……!」

 
 バキィィィィィィ!
 

 「という訳で俺が行く。リアム、後は任せたぞ」
 「は~い。あ、お土産お願いしまーすっ!」
 「……だから旅行じゃないと」


 氷漬けになったエドヴァルトを放置してアヤセはため息交じりにリアムに書類を手渡す。
 実力だけで言えばエドヴァルトが行っても問題はないのだが、不思議と唯舞と過ごす空気感は嫌いではないと最近になって気付いたアヤセは、ほぼ無意識で同行の任を奪い取っていた。
 
 出発は週明けの月曜日。レヂ公国には約一週間ほど滞在する予定だ。
 なのでその間はアヤセと唯舞の二人きりになるのだが、この時はまだ、二人の距離に変化が訪れるなど誰も思いもしていなかった。

 
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