悪夢はイブに溺れる~異界の女神として死ぬ私を、愛知らぬ中佐は許さない~

熾音

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第57話 Happy Birthday(2)

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 (……あれ?)


 予想していた派手なクラッカーの音は聞こえない。
 後ろで玄関扉が閉まる音がして意識がふっとそちらに向いた瞬間とき唯舞いぶの足元に青白い光を放つ小さな魔方陣が現れた。

 青、紫、黄、緑、水色。色とりどりの光を帯びた淡い蝶が残像を残しながら魔方陣から舞い散る。
 部屋中をぼんやりと照らすような幻想的な蝶はふわふわと宙を舞い、あまりの美しさにただ茫然と見上げていたら、それらはまるで打ち上げ花火のように部屋中で盛大に弾けた。


 「!?」
 「唯舞ちゃん、お誕生日おめでとうー!」


 驚きに肩をすくめるように目を閉じた唯舞はエドヴァルトの声にそろりと目を開いた。
 
 蝶が弾け飛んで普段の明るさを取り戻したラウンジホールは、小さな電球が連なったフェアリーライトが幾重にも壁に取り付けてあり、二階の階段手摺まで綺麗に飾り付けされた室内は唯舞達が出かける数時間前とは大違いなほどにパーティー会場へと様変わりしていたのだ。
 

 「イブさん、お誕生日おめでとうございますっ!」
 「おめでとう」


 リアムが駆け寄り、その後ろをゆっくりと続いたランドルフがプレゼントをぽんと渡してきたので、あわあわ受け取りながら唯舞は二人に礼を言う。
 
 
 「あ、ありがとうございます」
 「いえいえ、こっちこそ気付けて良かったです! こちらに来て初めての誕生日ですもんね」
 「うん。……さすがはカイ兄だね。髪も切ったんだ、もっと綺麗になったね、イブ」
 

 さらりとランドルフに綺麗と言われ、名前も呼び捨てで呼ばれた唯舞はほんの少しだけどきりとしたが、一拍の後にそうか、ランドルフはカイリの親戚だったなと思い出して納得がいく。
 きっと彼らは女性の扱いがとても上手い血筋なのだ。
 社交辞令の一つや二つはほぼ挨拶と同じに違いないと理解した唯舞は、もう一度ありがとうございます、とランドルフに微笑んだ。

 ピシリと氷にヒビが入るような音にオーウェンとエドヴァルトだけが反応する。


 「アヤ坊、お前の花束って凍ってね?」
 「知らん」
 「え? あ、ほんとだ。これもうクリスタルフラワーになってるじゃん。アヤちゃん、それ元々生花でしょ?」
 「最初からこうだ」
 「……おー、まじか?」
 「……嘘でしょ?」

 
 自称保護者組の二人の絡みつくような視線にアヤセは面倒そうにため息をつくと、自身の手元にあった小さなブーケに理力リイスを込めた。
 凍り付いていた花がゆるりと元の瑞々しさを取り戻し、でもそれでいて時を止めるように調節した理力リイスを注いで完成したのは現世でいうところのプリザードフラワーだ。
 氷の属性でもあるアヤセの理力リイスをふんだんに込めた花はそうそうに枯れることはない。


 「これで問題ないだろう」
 「えぇぇぇぇ……」
 「すげぇ、力技で解決しやがった」


 そんな彼らの様子に目ざとく反応したのがカイリだ。
 すっと目を細めて動いた彼は、何気なしに唯舞を後ろから軽く抱きしめた。


 「……」
 「……ふふ」

 
 アヤセの絶対零度に冷えた視線がカイリに刺さるが、カイリは愉しそうに口元を弛めるだけだ。


 「…………カイリさん?」


 そんなカイリに対して、あどけなさを残したような顔で唯舞は見上げており、警戒心ゼロのその様子にアヤセの苛立ちが尚も募る。


 「……何でもないわ。改めて、お誕生日おめでとうイブちゃん。とっても可愛いわ」
 「ふふふ、カイリさんありがとうございます」


 そっと顔を寄せたカイリが軽く唯舞の頬にキスをすれば、唯舞は嫌がる素振りもみせずに嬉しそうに微笑む。
 それがアヤセの限界だった。
 
 
 「!?」
 「……そうやって誰彼構わず手を出すのをやめろ」
 「あらぁ~ごめんなさいね? イブちゃんがあんまりにも可愛いから」


 プレゼントを受け取った体勢のまま、ぐっと二の腕を引かれてカイリの元からアヤセの元に引き寄せられた唯舞は、腕の中のプレゼントの上に小さなブーケを追加で乗せられた。


 「お前もお前だ。あれは男だぞ、軽々しく接触を許すな」
 「あらあら~あーちゃんったらぁ」
 「黙れ」
 「カイリのこの性格は今始まったばかりじゃないでしょー? ねぇ?」
 
 
 何を悟ったのか、カイリとミーアがにぃっと揃いに揃って悪い笑みを浮かべ、アヤセは軽く背筋に嫌なものを感じた。この二人がこういう表情をする時は本当に碌なことが無いのだ。
 今だに腕を掴んだままの唯舞は渡されたブーケをおっかなびっくりした様子で見ている。


 「え……っと、このお花は中佐から、ですか?」
 「……何か問題があるのか」


 にやにやするカイリとミーアは放置して、アヤセは唯舞に視線を向けた。
 何故かホール内の空気が全体的に生温くて居心地が悪い。
 

 「いいえ、すごく嬉しいです。ありがとうございます」
 「……それは、理力リイスで処理してあるから枯れない」
 「本当ですか? じゃあずっと部屋に飾っておきますね」
 
 
 そんなアヤセの心知らず、唯舞はとても嬉しそうにふわりと表情をこぼした。

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