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第85話 過去の記憶・潜入捜査(5)
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エドヴァルト達が深紅と出会って二週間が経とうとしていた。
昼間は酒場で働きながらリドミンゲル皇国の情勢調査や情報収集を行い、夜は皇城に忍び込み深紅の元へ通う。
深紅も自分がいた国の事を少しずつ話してくれるようになった。
リドミンゲル皇国に召喚されて一番最初に望んだという、状態保存の理力をかけたスマートフォンという深紅の世界の通信機器の中には写真や友人らとのやり取りが残されているらしい。
それをいつも大事そうに一番近くに置き、学校や友達、家族のこと、流行りや好きな歌を、今まで話せなかったからと嬉しそうに教えてくれる。
リクエストすれば深紅はよく異国の歌を歌ってくれて、やはり彼女の歌声は誰よりも何よりも特別だった。
「エド! カイリにオーウェンも! はいチーズ」
カシャリという音が響く。
思い出になるからと深紅はよくスマホで写真を撮っていた。……自分も一緒に映り込んで。
カイリと。オーウェンと。
――エドヴァルトと。
写真の中の深紅はいつだって楽しげで、幸せそうに笑うから。
そんな彼女のそばにいるうちにエドヴァルトの胸に淡くも引き攣るような想いが宿り、それが恋心なのだと気付くのに時間はかからなかった。
事態が変わったのはその翌日の事である。
「……ミク? アナタ、本当に大丈夫なの?」
その日の夜に訪れた時、深紅の顔色は少し悪かった。
三人掛けソファーの真ん中に深紅、左右にエドヴァルトとカイリ、別の一人掛けソファーにはオーウェンが座っていて、カイリの一声で全員の視線が深紅に集まる。
熱はないが、疲労の色がなんだか濃い。
いち早く深紅の様子に気付いたカイリが彼女の額に触れれば、ソファーに沈みこみながらも深紅は困ったようにふにゃりと笑った。
「えへへ。たまにさ、すご――く疲れる事があるの。だからこの聖女の塔で療養を、って言われてるんだけど治る気配がなくてさー……お医者さんには診てもらったけど、体には異常がなくて。原因不明なんだって」
「…………」
深紅の言葉にギリッとエドヴァルトの握りしめた手のひらに爪が食い込む。
体に異常がない?
馬鹿げている、体どころか魂まで異常だらけのはずだ。
彼女は……深紅は、リドミンゲルの聖女だ。
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まだ自分達よりも2歳も幼い、18の少女が。
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「ねぇ深紅」
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「!? っへ!? エ、エド……?」
「深紅、ここから逃げよう。このままじゃ、深紅もすぐに命を削られて死ぬよ」
いきなり深紅を抱きしめたエドヴァルトを止めようとしたカイリとオーウェンの手も思わず止まる。
エドヴァルトの声は真剣だった。
こういう時の彼は、茶化すようなことは絶対に言わないし、しないのだ。
「し、ぬ……?」
「うん。リドミンゲルの聖女はね、死ぬ為だけに喚ばれるんだ。この星は長年続く戦争で理力が枯渇してて。それを補う為に異界に新たな理力を求めたんだよ。そして見つけたのが深紅達”聖女”なんだ」
ぎゅっと抱え込んだ深紅は、エドヴァルトの腕の中に納まるほどに小さく、細い。
頭一つ分小さい深紅の体を、エドヴァルトは再度強く抱きしめた。
「深紅が来てこの国は栄えたはずだよ。そしてそれと同時に深紅の体調は悪くなってるはず。……それはね、国の繁栄と引き換えに深紅の命が削られているから。深紅が分からないように少しずつね。この国はさ、深紅達を聖女と敬っているようでいて、実際は理力の代わりとしか思ってないんだよ」
うまく飲み込めないのか深紅の手がエドヴァルトの服を弱々しく掴む。
「な……んでエドが、そんなこと知ってるの……?」
それはカイリとオーウェンも同じ気持ちだった。なぜ生粋のザールムガンド人のエドヴァルトがそんな他国の重要機密を知っているのか。
この皇城に忍び込んだ時だってそうだ。彼は聖女の塔まで一切迷う仕草を見せなかったではないか。
「……エド。そういえばお前、昔ここに住んでたって言ったよな?」
オーウェンの言葉にエドヴァルトはゆっくり視線を向け、少し意識がオーウェンに向かって緩んだ腕の中から深紅も彼を見上げる。
「ごめん。俺、今はザールムガンド人だけど、生まれはリドミンゲルなんだ。リドミンゲルの、まぁ……一応、高位貴族……かな」
元だけどね、と告げられた衝撃の真実にカイリとオーウェンの目が見開かれた。
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