1 / 57
プロローグ
chapter01「序章」
しおりを挟む暗い闇の中に僕はいた。
体中が悲鳴を上げる中、僕はただ耐え続ける事しか出来ない。
――痛い。
――苦しい。
――寒い。
目を開くと、わずかな光。
覚醒した僕に与えられた感覚。
それは、ただただ過酷な現状を思い知らせるだけのものでしかなかった。
あれからどれくらいの時間が過ぎたのだろう。
“あの後”僕は……川に落ちた……のか? それから……。
――みんなは?
薄暗い。
視界の先には……天井?
部屋の中のようだ。
起き上がろうとするものの、鈍い痛みがそれを阻む。
体が重い。泥の中に埋もれているかのような倦怠感と疲労感。
僕は体を動かせる範囲内で辺りを見回してみた。
……僕の他には誰もいなかった。
周囲を観察する。
木製の天井に灯りは無く、壁も木製。丸太をそのまま重ねたような質素な建造物。
テーブルの上に置かれた蝋燭立ての小さくなったキャンドル。火は灯されていない。
風を取り込むためにあるのであろう四角い窓らしき場所は分厚いボロ布で覆われていて、隙間からはわずかな光が入り込んでいた。
僕の体を支えているのは粗末な硬いベッド。掛け布団の中に入っているのは何だろう。少なくとも羽毛ではない。藁か何かだろう。
少なくとも、僕の知ってる『家』ではなかった。
僕の生まれがもし、日本では無く、イギリスやロシアとかであったなら、もしかしたらこんな形の家でも違和感を感じずに済んだのかもしれない。
だけど、違和感の正体はそれだけじゃなかった。
「……」
漏れている淡い光。
部屋の入り口であろう箇所。扉代わりらしき布製のカーテン。その下にある隙間からだ。
“あの”月明かりだろうか……。
淡く優しい光。
にも関わらず、不自然なまでに暗がりの中がよく見える。
――つまりは“そういう事”なのだろう。
「ここは……」
口を開いたその時、布製のカーテンが揺れた。
「ウィブル・ディクル・エレーノ?」
鈴の音のような美しい声が響き渡った。
開かれたカーテンから差し込む強い月明かり。一瞬、眩しさに目を細める。
何と言っているのかはわからないが、それは女性の……可憐な少女の声だった。
淡い逆光の中に佇んでいたのは、僕とさほど年も変わらないであろう少女。
年は十四か十五歳といった所だろう。
風にそよぐ、透き通るような長い金の髪。鮮やかな蒼の瞳。
陶器のような白い肌。細身で華奢な体躯は繊細な芸術品を思わせる。
彼女は、その可憐な姿に似合わない元気一杯といった声音で一方的に話しかけてきた。
「ピネ・アイミーラ。アイミーラ・ピネ・パラ!」
自身を指差しながら彼女は必死に何かを訴えかけている。彼女の名前だろうか。
「ピネ……?」
そう呟くと、少女は飛び跳ねて喜んだ。
「ウィエ! アイミーラ・ピネ! ユラハ?」
覗き込むように僕に尋ねてくる。
「僕は……ケイト。キムラ・ケイト」
「キム? ラー?」
しばし考え込む少女。
「ケイト?」
いぶかしげに尋ねる彼女。僕は素直に頷いた。
やがて、顔を上げると彼女は僕の名を連呼した。
「ケイト……ケイト? ケイト!! ユラー・ウィトソ? アイラー・ヴィジブ・スウィト! ユラ・レジェナ・ブレハ・アヌズハ!?」
ここが想像通りの場所であるならば、恐らく英語ですらない。少なくとも日本語ではない。だから言葉はまったく通じてないけど、彼女が興奮している事だけは理解できた。
ピネと名乗る少女が目を輝かせながら見ていたのは、ベッドの脇に立掛けられた僕の服だ。
白い学ランなんて少し派手過ぎる、とか好き勝手言われてはいたが、僕にとってはいたって見慣れた学校の制服だ。
一方、彼女の着ている服は……まるで中世ヨーロッパの村人を思わせるような、簡素な淡いピンクの色合いの……天然生地で出来ていそうな衣服だった。
「アイラヴィジブスウィト! ユラ・レジェナブレハ! アヌズハカムヌ・ジズランダセルブ・ハ!?」
興奮しながら少女が放つ言葉は、まったく聴いたことも無い響きの言語。
例えるならば、そう。
日本人が無理して話す英語の延長上のような発音で、本質は英語に近いような、けれどまるで中国語のような……というか中国人が無理に話す時の片言の日本語に近い響きを持つ、そんな不思議な言語だ。
……だから、それらの事実がいやおう無しに思い知らせてくれるのだ。
ここが“僕の知る世界では無い”のだという事を。
0
あなたにおすすめの小説
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月中旬出棺です!!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる