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第一部『第一章(かけがえのない日常)』
chapter05「ありし日の日常4」
しおりを挟むさて、そんな謎の奇妙な交流の後、我が部の紅一点様はというと……。
先ほど見せた奇行など微塵も感じさせないほどに優雅で洗練された所作で席に着くと、鞄から筆箱とノートを取り出し、ペンでスラスラとノートに何かを描き始める。
きっと絵を描いているのだろう。
以前、見せてもらったことがあるからわかるのだ。
多分、麗しい男性キャラクター同士が半裸で絡み合っているようなイラストだろう。
大体、四隅には薔薇とか花の絵が添えられている。
そう、彼女は男性が触れてはならない禁断の領域。
『腐った薔薇の楽園』に住まう生物なのだ。
まぁ、腐女子とか言うよね。
ぶっちゃけ絵自体はかなり上手いんだ。
可愛いおにゃの娘だって書こうと思えば書けるはずなんだ。
けど腐ってやがる……。
きっとナニカが早すぎたのだろう……。時代かな?
「ん? 何? 今なんか失礼な事考えてたでしょ?」
「いえっ、何もっ!」
しばらくじっと見ていたのがバレてしまったようだ。
思わず目を反らしてしまう僕なのだった。
――そこへ。
「ごめーーーん! 遅れたーーーーっ!」
教室の扉を開け、現れたのは可愛らしい男の娘。
――ではない。
ショタっけ満載の、男の目から見てもグっとくる。
……いや、来ちゃいけないだろう。な可愛らしい少年だった。
彼の名前は倉敷涼。
私立黄星学園に通う二年生。つまりは僕らの後輩にあたる存在だ。
いわゆるアイドルグループ系の小顔イケメンで。さらに背丈も小柄で弱々しい。
子犬のような印象の男の子――といったら彼の男子たる沽券に関わる問題なのだろうけど。
もし女装させてメイクまでさせて、さらに女声なんかまで出させちゃったらもう……。
まず男子だとはわからないだろうという美形っぷりなのだ。
というかもう何が凄いかって、まつ毛が長いとか実際に女顔でリアルフォトショマジック級に顔が整いまくってるとかそんなんだけじゃなくってさ……本当に声まで両声類って所なんだよね。
君、本当は女の子だったりしないよね?
……残念トイレで確認済みです。
悲しいことに付いてました。
ちゃんと。
しかもデカかった。
まぁ、それはさておき。
今現在の彼の状況を説明しよう。
案の定というかなんというか、彼の飼い主、もとい彼女である誰かさんの趣味によってナチュラルにメイクとかを絶賛させられ状態な訳で……。
もうね、ここまでくると本当、男の娘状態なんだ。
走ってきたのだろう。ハァハァと息をきらせて若干紅みがかった頬。
今後、きっと奇跡的に背が高くなるとかガタイがよくなる事を願い希望したのであろう。
ちょっとだけ大き目のブカブカな制服。
飼い主こと彼女――大事なことなので二回説明させてもらうよ――の趣味により中途半端に長く伸ばされた挙句ブラッシングで毎日綺麗に整えられたふわふわと柔らかそうな髪の毛。
そして、これまた飼い主により薦められて身につけたのであろう香水。ちなみに香水を付けるのは放課後のみだ。校則違反だからね。
……だからって放課後なら使っていいのか、となると……。
まぁ、制汗剤の匂いと言い張っているらしいけど。
そして普段使っているであろうお高そうな石鹸類の匂い。
もうね……男装してる女子にしか見えないんだよね……。
「ちょっと遅かったかな?」
「いや、大丈夫。時間まではまだあるから」
「よかった~」
彼女……いや、彼はいつものホームたる席へと歩んでいく。
そんな訳で。
彼が我が部のヒロイン枠二人目……に数えていいのか!? な、後輩ロリ枠のメンバーさんなのであった。
そんな愛くるしい小動物枠の彼が席に着こうとするやいなや――奴の洗礼が来た!
「おい~っす、遅かったじゃねぇかリョウ! そしてボラーレヴィーア!」
相変わらず奇妙なポージングを決めつつ、空気を読まないタケシの無慈悲な言葉のカミソリパス(シュート級)が襲いかかる。
多分、今タケシの中では大絶賛流行中の挨拶なんだろうけど……意味がわからないよ。
「?」
当然、リョウも理解しきれずにハテナ顔で立ちつくす。
……小動物みたいに首をかしげる仕草が可愛らしくて逆に若干イラっとくるのは僕だけだろうか。
まぁ、それは置いておいて。
しばしの時間をかけ、彼が出した答えは……。
「……ボン・ジョンボヴィ?」
謎の音楽界に住まう皇子が如き響きの珍名だった。
さすがに飼い主様のように即理解からの意気投合とはいかなかったようだ。
そんなリョウの出した珍回答に対してタケシは――。
「っン゛~~~ッッ!!」
っと意味不明な奇声を発しながら、ひょうきん族の十字にかけられた神様が水を降らす時の如き形相で両手を×印に組むと、リョウへと猛烈な体当たりを手加減付きで叩き込むのであった。
「ふぇぇ!?」
困惑するリョウ。
そりゃあ困惑もするよね。
ごめんよ……アイツを野放しにしてしまって、もといタケシをあんな風にしてしまって。
と、謝っても謝りきれないような罪悪感がそこはかとなく心の底から若干わきあがる僕なのだった。
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