ディストピア~蒼天のヘスカラント~「異世界転移したら無双どころか親友を惨殺されたので逃げだした結果……」

金国佐門

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第四章「絶望のフラグメント」

chapter29「*episode神倉徹『神倉徹の事情~中編~』」

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 それは、神倉徹にとっては初の体験だった。
 先日のゲーム同好会。そして、翌日である今日、休み時間の集い。

――遊び。

 それは何とも甘美で。

 無駄な時間の使い方であるはずなのに。

 だがそれは――まさに時という財産を盛大に、ふんだんに用いた、濃厚なる、豪遊。


 夕闇に染まる通学路。

 ……金曜日の二次会。

 遊びの二次会。

 初めての体験。

 どんな事が待っているのか、心が躍る。

 剣の道を志していた頃には、こんなにも楽しい日々は無かった。

 ただひたすらに、誰よりも強くなるために自分を追い込み、独り、剣とだけ見詰め合っていた。

 だが、今は違う。

 友人、木村ケイトから誘われた悲願の日常。


 金曜に行われる更なる楽しみを提示され、跳ねる気持ちを抑えての帰宅路。


――その一瞬だけは、自身の不幸な境遇を忘れさせてくれるのであった。


「なかなかに難しいのだな」


 帰宅時も、独りではない。
 友がいる。
 競い合うのではなく、殺伐としたものも無い。
 ただ楽しみあうためだけの友達。

「まぁ、このカードゲームはねぇ」
「慣れれば簡単だよ~」
「けど、慣れるまでが難関なのよね~」

 カードゲーム。

 中に何が入っているのかわからないパックを買って、ランダムに得たカードを元に、自身の戦うための手札集を作る。

「運が必要なのだな……欲しい物を手にするには大量の資金が必要……」
「まぁ、安くても強くなる方法はあるから、やり方次第だよ」
「どれが強いものなのかわからんが、欲しい物を手に入れて勝った時を考えれば……なるほど、みなが課金ゲーと呼ぶ物にはまる訳だな」
「アレは少し違うと思うけどね」
「アナログゲーはあんな異常金額を飲まれたりはせん」
「きちんと手元に物が残るしね」
「そうそう、開発側の都合で急にサービス終了、なんてこともないから」
「本人が飽きない限り何度でもできる」
「そのための必要経費だよ~」
「それに、データと違って実物なら貸す事もできる」
「なるほど」
「いつか消えるデータに金をかけるより、どうせ確率による脳内麻薬を得る遊びをするならTRPGでダイスを振るなり実物のカードゲームでドロウするなりした方が確実に安上がりだし健全だ」
「……あくまで個人の意見って奴だけどね」

 とは言っても、経験者の語る言葉。
 否定できない説得力を神倉徹は感じるのであった。

 こうして、神倉徹は立派なアナログゲーマーとして育とうとしていた。

 順調に。
 そう、彼は順調に楽しい日々を過ごしていたのだ。

 その裏側で、悩みを抱えながら。

 だが当然その事を木村ケイト達が知る事は無く。
 当然逆に、彼らの悩みも、神倉徹には知るよしもなかったのだ。



 神の視点なくして、他者の事情など、知る事はできないのだから。



 帰宅した神倉徹は、仏壇の前にいた。
 いつものとおりの所作で、故人に語りかける。

 そして、在りし日の姿を思い浮かべるのだ。


夢留ゆめる……」

 神倉夢留。享年十四歳。

 漫画やゲーム、アニメなどを好む今時の普通の子供だった。

 神倉徹は悔いていた。
 失って初めて気付く、後悔。

――もっと一緒に遊んでおくべきだった。

 神倉徹の人生は剣の道であった。
 幼き頃からその才を見出され、その道のみに生きてきた。
 ゆえに、生まれてからずっと、遊びと言う事とは無縁の人生を送ってきたのだ。

 無論、妹である神倉夢留ともあまり遊ぶ事はできなかった。

 それゆえに、心が痛むのだ。

 もっと一緒に遊ぶべきだった。

 もっと一緒の時間を過ごすべきだったのだ、と。


――だが、できなかった。


 当時の徹は、最強などという無価値な称号のために、全ての時間を費やしていた。

 そして、実際に最強とも言える地位に着いた。

 だが、その先にあったのは、空しさだけだった。

 最強など、いらなかった。

 その事に気付いた時には、全てが遅かったのだ。

 父と一緒に過ごすべきだった。

 母と一緒に過ごすべきだった、

 妹と一緒に過ごすべきだった。

 家族と一緒に過ごすべきだった。

 神倉徹の過ごしてきた時間は……彼にとって無価値だった。

 その現実が、神倉徹を剣術嫌悪症というまでの、剣道に対する憎悪を生み出したのだった。


――俺は何を間違えてしまったのだろう。


――くだらない無駄な時間を浪費し、何をしてきたというのか……。


 心の痛みが、止まる事は無かった。

 ゆえに、全てを忘れて逃避するための何かが欲しかった。


 だから、人生をやり直すつもりで。今までの全てをドブに投げ捨てるつもりで、遊びというものに身を投じてみたのだ。


 それは、とても甘美な世界だった。


 今までの、自らに課してきた艱難辛苦と比べ、遊びは、当然だが、楽しみしかなかった。

 見た事のない世界。見た事のない大冒険。面白いストーリー。面白いゲーム性。

 全てが『快楽』でできていた。

 修行とは、まったく正反対だった。


――家族とは、こうして過ごすべきだったのだ。


 後悔。

 最初からこうしていればよかった。

 無謀な夢など求めず、くだらない剣の道なんて孤高の道を選ばず。

 普通に遊び、普通に家族と関わっていれば――。

――時間を無駄に使ってしまった。

 だから。

 やりなおすため。

 ケイトにアニメを、ゲームを、遊びを薦められた時は――運命を感じた。


――それは救いだった。


 剣の道は孤高だった。
 共に高めるライバルがいない訳ではなかった。
 だが、その圧倒的な力の差は、絆さえも切り裂いた。

 嫉妬、憎悪、諦め。

 それらが友を、自然と遠ざけていったのだ。

 孤高の剣士、神倉徹に友と呼べる存在はいなかった。


 だが、始めての経験だった。

 友達というものができたのだ。

 そこに勝負という概念は無い。

 競い合うのではなく、共に遊び、楽しみあうだけの――同志。

 やっとできた友、仲間。

 同じ共通の何かで盛り上がれる、仲間。

 勝ち負けも上下もない世界での友人、仲間。


 遊びなど無駄な時間の浪費と吐き捨てる者もいるが、なんという皮肉だろう。


 今まで人生の目標としていた剣の道こそが無駄だったのだ!

 やりたいことを、やりたいだけやりたいようにやってきたはずだった。

 だが、今は後悔しかない。

 自分でやりたいと決めたはずだった。

 祖父の薦めがあったとはいえ、自分で決めた道のはずだった。

――それなのに。

 グルグルと後悔を無限に続け、自ら心を傷つけ続ける兄を、妹はどう思っただろう。

 苦しみ続ける息子を、父は、母は、どう思っただろう。

 だが、その心が伝わる事はないのだ。

 しかし、守護とも言える偶然が起きる事が、稀にあるもので。


 鍵を開く音、家の扉が開く音で神倉徹は終わらない後悔という、無限連鎖の負の呪縛から解き放たれた。

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