31 / 57
第四章「絶望のフラグメント」
chapter31「*episode神倉徹『神倉徹の事情~続編~』」
しおりを挟む神倉徹の心に静かな怒りが宿っていた。
理由は単純な事。
練習道具の返却を断られたのだ。
金曜日は大事な用事ができた。
故に水曜か木曜日に返却を嘆願した。
だが、非情にも電話先の人物はそれらを否定した。
「時間が短すぎる、もう少し、長い間考えてみてはくれないか?」
「言った通り、金曜は用事があります」
「なら、来週でも」
「腕が鈍ります。稽古だけは個人で続けて行きたいので」
「だったら」
「くどいですよ。もう、剣の道に戻るつもりは無い」
「なら、なぜ鍛錬だけは続けるんだい?」
「体を鍛えるのに理由が必要ですか?」
「鍛えたいならウェイトトレーニングでも……」
「くどい! 俺がどんなやり方で体を鍛えようと個人の自由なはずだ!」
神倉徹は過去との決別を求めていた。
剣術はもう、過去のものなのだ。
それでも鍛錬を続けるのはただ一つ。
癖である。
人間、同じ事を繰り返していると、やめるのが難しくなるものである。
だから、何かを始めるならば、それが癖になるまで続けなければ三日坊主に終わってしまったりするものなのだが……。
神倉徹にとって鍛錬とは、もはや体の一部といってもいいくらいに体に根付いた物。
だが、剣道はもうしたくない。
大会にも興味が無ければ、対練もうっとおしい。
わざわざ部活動としてやるなんてもってのほかだ。
ただ自己鍛錬の方法として、日々やっていければいい。
矛盾しているとはわかっていても、神倉徹は、いつも行っていた鍛錬をやめることだけは気持ちが悪くてしかたないのだ。
なにより、形見の八角木刀だ。
亡き父との思い出の品でもある。
あれが手元に無いというのは、家族の一部が欠けているにも等しい。
――あの重さじゃないと、どうもしっくり来ないんだよな。
「なぁ、辛いときはな。何かに一心にのめりこんだ方が良いって事もあるんだぞ?」
「別にやりたい事がなくなった訳じゃありませんよ。俺は、俺の新しい道を行くために、剣の道を捨てるんです」
結局、1時間にも及ぶ口論の末、金曜日の放課後に返してもらう事になってしまった。
――これじゃあ、せっかくのみんなとの大切な時間が減ってしまうじゃないか。
その後、苛立ちを忘れるために、部屋に戻った神倉徹はゲームを立ち上げた。
昔、妹が遊んでいたゲーム機。
すでに四代目まで出ている機体の二代目。つまりかなりレトロな部類に入る。
だが、未だにその愛好家は少なくない。
怒りをゲームで忘れようとする。
没頭してくると、だんだん苛立ちの理由さえ忘れてくる。
物語に集中していく。
彼がやっているゲームはRPG。
異世界の主人公の追体験として冒険を行うゲームである。
久々に再開する、もう二度目となるゲームであった。
一度目はパーフェクトなクリアができず、真のエンディングには辿り着けなかった。
なので今度は、攻略ページを片手にパーフェクトなラストを目指す。
ちなみに、真のエンディングは木村圭人に見せてもらっていたりはする。
だが、やはり自分でそこへ辿り着いてこそ、と思っての再チャレンジだった。
物語は中盤。
イカれた狂皇子が残忍の限りを尽くすシーン。
「豚は死ね!! 矮小な虫けらどもめが……剣を取れ。殺しあえ。一人殺せたらその首もって我が元へ来い。狼だけが生きのびよ……我が国家に豚はいらぬ」
侵略先の村人を集め、狂気のサバトを演じる姿に、神倉徹は感情移入していた。
逃げ出す村人を追い回し、切り殺す狂皇子。
最低の行為だ。だが、これはこれで悪役としては魅力的だ。と神倉徹は悪皇子の感情に没入していた。
そして一瞬、心に芽生える闇。
あの糞教師も、今日の雑魚も、全員あんな風にぶち殺せればよかったのに。
勘違いしてはいけない。
ゲームが犯罪者を生むのではないのだ。
ゲームがあろうがなかろうが、犯罪者は犯罪を行う。
では何が原因なのか。
それは、環境である。
上記、神倉徹の心の動きを見ればわかる。
嫌な事があって、耐え切れない事があったから、殺意が芽生えるのだ。
ゲームは、殺意を抑えるための代理品に過ぎないのだ。
だから、神倉徹は思うのだ。
このゲームのように、嫌な奴らをぶち殺せればいいのになぁ、と。
だけど、それは面倒な事になるから、ゲームで楽しんでおこう。
もし、こんな狂皇子の視点で楽しめるゲームがあったら、そっちの方が今はやりたいな、と。
それが、普通なのだ。
ゲームが殺人鬼を産むのではなく、殺人思考のある人間が、そういったゲームを好むのだ。
因果が逆なのだ。
ゆえにゲームを非難するのはナンセンスなのである。
それはさておき――。
「やっぱり、ダークなキャラも格好いいな」
ゲームにはまった神倉徹は午前0時になるまでゲームを続け、そこへと至った。
お気に入りの狂皇子が主人公達と戦うシーンである。
普通は六人パーティで戦うはずの戦闘を、この化け物は六人×三パーティ、十八人と連戦するのだ。
そのすさまじい強さから、この狂皇子を好むプレイヤーも多い。
主人公達を蹂躙する狂皇子。いつしか神倉徹は主人公よりも、この孤高の皇子に感情移入してゆく。
こんな自由がうらやましい。
力あるのだから、理不尽も現実も力づくでねじふせる。
この皇子は悪役だからここで尽きる……だが、もし、俺ならば……。
狂皇子の果てるシーンを見終えた後、布団の中で神倉徹は考えた。
――TRPG、次やる時はあんなダークキャラもいいかもしれないな、と。
0
あなたにおすすめの小説
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月中旬出棺です!!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる