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第四章「絶望のフラグメント」
chapter40「木村圭人の事情1」
しおりを挟む人は、遅くても中学生くらいまでにはある事に気付く。
それは、自分が特別じゃないという事。
世界はロマンにあふれている。
夢に溢れている……ように見える。
けれど、それを叶えられる奴なんて、ほんの一握りの存在だけなのだという事。
その“現実”に気付くのだ。
そして、全てを諦めて、残る余生を生きるようになる。
レールの敷かれた人生。
良い学校を出て、良い会社に入って、老後は年金で過ごして、安らかに死ぬ。
高望みできても、ようやくこの程度。
物語で言えば、まるでモブのような人生だ。
だが、それくらいしかできない。
現実的に考えてしまうと、これ以上は望めない。
夢を叶えられる奴なんて――ほんの一握り。
広大な砂漠の砂に紛れ込んだ、一粒の砂金程度の確率。
物理学だか化学の上では、ある一定以上の低確率は、存在しないものとして扱われるらしい。
この宇宙という無限の空間にある星々の中、人類のような高度知的生命体が生まれる確率は、海に投げ入れて分解された時計が崩壊して、波にさらわれ流れつつも、偶然もう一度普通に動く元の状態になってどこかの浜辺に辿り着くくらいの低確率だとされる。
もう一つの例えだと、チンパンジーがでたらめに打ったタイプライターがシェイクスピアの一説と偶然一致するレベルとも言われている。
いずれにせよ、人類の存在そのものが、確率的に、存在しないものとして扱われるレベルの低確率、という事になるのだが……。
僕たち一般人が、有名人や著名人、何かしらのテレビに当たり前のように出るような、または超大金持ちになるくらいの、とてつもない程にありえないレベルの、夢を叶える事ができる確率とはどの程度のものだろう?
さっき僕が言ったとおりだ。
確率的に存在し得ないレベルの低確率なんだ。
それくらいの確率で、僕らはモブを強制されている。
モブとしての人生を約束されているのだ。
それが、どれだけ不憫であるか、わかるだろうか?
華々しく毎日のように見るテレビ。雑誌、声高に意見を口にするタレント達。
全員、手の届かない、目に見る事が出来るだけの、遥かに遠い星々なのだ。
触れえぬ異世界の存在なのだ。
僕らには無限の可能性があるはずなのに、実質、最低でも“普通”に暮らす以外の選択肢が与えられていない。
どんなに成功者が、それは敗北者の言い訳だと口にしようと、成功者にはわからないのだ。
彼らはどのような努力を行ったにせよ、奇跡的な確率で、偶然勝ち登ってしまっただけに過ぎないのだから。
勝った側の意見しか理解できないのだ。
確率の不具合を知っているだろうか?
確率は一見平等に見える。けれど、真実、個人から見れば不平等なのだ。
例えば、世界中の人間でコイントスのトーナメント大会を行ったとしよう。
仮にこの地球上に七十七億の人間がいたとしよう、その場合、優勝者は優勝するまでに多分三十二戦くらいはするはずだ。
となると、優勝者はなんと、二分の一の確率であるはずの当たりをなんと、三十二回も連続で引き当てる事になるのだ。
さらに逆に敗北者同士で敗北し続ける限り続くトーナメントを行えば、負け続ける者は三十二戦、一度も勝つことなくはずれを引き続ける事になる。
七十七億人で三十二回。意外に少なく感じるかもしれないが、その確率の異常性、不公平さ、お分かりいただけるだろうか?
だが、確率的にそれは存在しえる事なのだ。
つまり、何が言いたいかというと、確率とは、個人視点で集約されるのではなく全宇宙視点で集約するようにできているという事だ。
だから、異常に成功が偏った人間もいれば、異常に不運が偏った人間も存在しうるのだ。
つまり、わかりやすく、端的に言うならば、世界とは、確率的に、平等に不平等なのだ。
全人類が平等に、不平等になるようにできているのだ。
だから、空に輝く星の如き、触れえぬ成功をする人間もいれば、その真逆、絶望の極致にいる人間もいるのだ。
ならば……無限の可能性なんて大嘘だ。
真実であって、大嘘なのだ。
僕たち一般人に、夢なんて、限りなく甘い、ありえない幻想に過ぎないのだ。
僕たちは始めから決まったレールの上を歩いているのだ。
モブという人生を、強いられているのだ。
僕たちは断じて主人公などではなかったのだ。
誰か、大きな成功をする事が確約された極僅かな確率の上に存在する、見知らぬ誰かの影に埋もれるモブである事を強要されて生まれてきた存在なのだ。
――それの、なんと空虚な事か。
だから、人は願ってしまうのだろう。
特別を。
特別な未来を。
特別な自分を。
夢見てしまうのだ。
理想の世界を。
僕たちはフィクションを求める。
その世界では、僕たちは主人公でいられるからだ。
アニメ、ゲーム、ライトノベル。
ファンタジーの世界に、居場所を求めるのだ。
なぜ、今の時代に異世界転生ものや異世界転移ものが流行ったのかなんて簡単な話だ。
それは、この世界に未来が無いからだ。
夢も希望も無いからだ。
目の前にはキラキラした輝く誰かがいるというのに。
ブラウン管の中に、雑誌で語る存在に、数多のチャンネル登録がされた動画の中に。
奇跡を手にした人間が数多いるというにも関わらず、自分自身は決してなれないから。
決して自分の手の届かない場所に、それはあるから。
夢。それはまるで天の星々。
手を伸ばしても届かない。
なのに眩しいくらいに、確実にそこにいて、輝いている。
なんとももどかしい。
うらやましい、くやしい、いつかはああなりたい!!
だが、いくら努力したところで、届く者はごく一部、限られているんだ。
まるで始めから決められた出来レース。
自分が至れる事は決して無いんだ。
情報社会がそれに気付かせる。
認めたくない、おぞましい、残酷で、どうしようもない――現実を。
この僕が暮らす極東の島国は確かに恵まれている。
平和な国だと思う。
幸せな国だとも思う。
世界はどんどん、良くなっているとも思う。
地球の裏側で、どれだけ酷い貧困が国を覆う土地があるのかも知っている。
それでも、まだ、ダメなんだ。
人が真に幸せになれる世界には、まだきっと遠いのだ。
世界はまだ、進化の途中で、だからこそ――きっと、どこかが、まだ歪んでるんだ。
そんな事を考えながら、僕、木村圭人は家に辿り着いた。
扉を開き、帰宅早々に鞄を置いて、踵を返してまた外へ――出ようとして、ふと考え直す。
――久々に、仏壇の前に座る。
「やぁ、みんな。久しぶり……」
別に、誰か大切な人がいなくなった訳じゃない。
たまに、悩み事がある時に考えたくなる事があるんだ。
それは、僕の幼少期。小学校時代に起きた出来事に起因する。
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