文字の大きさ
大
中
小
51 / 203
勝手
アズラー侯爵家は口を開けず、ルイソードも発する気力もなく、静かな時間が流れていたが、沈黙を破ったのは慌ててやって来た騒がしいルアンナの足音であった。応接室の扉を開けたルアンナは一縷の望みを掛けて、夫の名前を呼んだ。
「ルイ!」
「君には失望したよ…」
「待って、結婚前の話なの」
「仕方なくした、婚約だものな?」
「っい、違うわ」
「ルアンナ!!」
ローサムの怒気を帯びる声が発せられたが、ルアンナはルイソードの両腕を持ち、お構いなしに話し続ける。
「結婚してからは本当に何もないの。シュリアには母親が必要でしょう?シュリアはどこ?シュリアに会わせて」
「シュリアは乳母がきちんと面倒を看てくれている。君は婚約中だからいいだろうと考えているのか」
「私が誘ったんじゃないわ!殿下に誘われたの」
「ルアンナ!いい加減にしなさい。ここへは謝罪に来ているのだ、お前の言いわけを話しに来ているわけではない」
ルアンナは不貞が隠せないのならば、自分が誘ったのではないということにすればいいと、一晩で思い付いた浅墓な作戦だった。
「侯爵、話を一応聞きましょう。ルアンナ、座りなさい」
ローサムは苦い表情で頷き、ルイソードには一番聞く権利がある。
「事実か?もし嘘であったなら、君は王家にも嘘を付いたことになることを分かっていての発言か?」
「っえ、そ、そうよ」
「婚約者がいると断れば良かっただろう?」
「でも殿下だもの、断れるわけないじゃない。だから、許してくれませんか」
「では、事実を確認しよう。嘘であった場合は、内輪の話だけではなくなるが、いいんだな?」
「っあ、えっ、穏便に話しましょう」
「妃殿下にあれだけの発言をして置いて、誘われた、断れなかったというのは矛盾がある。諦められず、言い寄り、優越感に浸っていたという方が正当性がある。もしくは殿下に誘われ、君も喜んで受け入れたという場合もある。どうだ?」
一晩で考えた愚かな思惑は矛盾があり、誘われた、誘われていないという話ではない。不貞行為は行われており、目撃者もいる。
「妃殿下の全部、デタラメで、嘘かもしれないじゃない。なぜ皆、そう思わないの?家族でしょう?」
「ルイソード様、発言を失礼します」
ティファナがルイソードに断りを入れて、ルアンナに向いて話し始めた。
「ルアンナ。暴言については、あなたと一緒にいたというステファー嬢とミンア嬢とカトレア嬢に確認を取りました。皆、認めています」
「っな、どうしてよ、お母様、母親なら娘を守るべきでしょう!」
「違います。親であれば、罪を認めさせて、償うべきだと、私は考えます。あなたはシュリアが愚かなことをしたら、隠蔽することが親のすべきことだと思っているのですか。そんなことをすれば、また隠蔽すればいいと助長するだけです」
「親なら、守りたいと思うものでしょう!お母様は私を愛していないから、そんなことが言えるんだわ」
ティファナはルアンナを愛していないわけがない、サリーとルアンナに事故に遭ったとすれば、ルアンナを助けるだろう。ただし、それは二人が同じ状況であればの話であり、今、話しているのは罪を犯した娘である。
「これは言葉にしたくなかったことですが、もし、あなたの言葉で暴力で妃殿下が身体が不自由になっていたら、万が一にも自害されていたら、私たちの責任では足りません。おそらくこの世にはいなかったことでしょう。父も母も弟も、祖父母も、皆、あなたのせいで処刑されていたかもしれないのです」
一瞬、ルアンナはティファナの真剣な眼差しにたじろいだが、そんなことはあり得ないと首を振った。もしサリーが重病や亡くなっていたら、私がそれこそ正妃になれたかもしれないと想像していた。
「大袈裟よ!」
「あなたに何を言っても、もう駄目なのね…」
「だから、大袈裟なのよ!妃殿下も妃殿下だわ。あの時、言ってくれていたら、今更何なのよ!結婚してからは言っていないわ!過去のことじゃない、笑い話にすればいいじゃない。ルイもそう思うでしょう?」
「確かに私が知っていれば、君と結婚する選択肢はなかっただろうな」
「え」
「君は罪悪感があったのではないか、だから結婚してからはおくびも出さなかった」
「ち、違うわ…そうじゃない、わ」
ルアンナは紳士で優しいルイソードしか知らないため、始めは怒りはするだろうが、結局は許してくれるのではないかと期待していた。だからこそ、殿下に誘われて断れなかったなどと浅墓な思い付きをしたのだ。
罪悪感…は、あった。結婚してからはいい妻になろうとした、夫に馴れ馴れしい令嬢に渡したくないとも思った。そして、ルイソードに愛されている自信があった。
「ルイ!」
「君には失望したよ…」
「待って、結婚前の話なの」
「仕方なくした、婚約だものな?」
「っい、違うわ」
「ルアンナ!!」
ローサムの怒気を帯びる声が発せられたが、ルアンナはルイソードの両腕を持ち、お構いなしに話し続ける。
「結婚してからは本当に何もないの。シュリアには母親が必要でしょう?シュリアはどこ?シュリアに会わせて」
「シュリアは乳母がきちんと面倒を看てくれている。君は婚約中だからいいだろうと考えているのか」
「私が誘ったんじゃないわ!殿下に誘われたの」
「ルアンナ!いい加減にしなさい。ここへは謝罪に来ているのだ、お前の言いわけを話しに来ているわけではない」
ルアンナは不貞が隠せないのならば、自分が誘ったのではないということにすればいいと、一晩で思い付いた浅墓な作戦だった。
「侯爵、話を一応聞きましょう。ルアンナ、座りなさい」
ローサムは苦い表情で頷き、ルイソードには一番聞く権利がある。
「事実か?もし嘘であったなら、君は王家にも嘘を付いたことになることを分かっていての発言か?」
「っえ、そ、そうよ」
「婚約者がいると断れば良かっただろう?」
「でも殿下だもの、断れるわけないじゃない。だから、許してくれませんか」
「では、事実を確認しよう。嘘であった場合は、内輪の話だけではなくなるが、いいんだな?」
「っあ、えっ、穏便に話しましょう」
「妃殿下にあれだけの発言をして置いて、誘われた、断れなかったというのは矛盾がある。諦められず、言い寄り、優越感に浸っていたという方が正当性がある。もしくは殿下に誘われ、君も喜んで受け入れたという場合もある。どうだ?」
一晩で考えた愚かな思惑は矛盾があり、誘われた、誘われていないという話ではない。不貞行為は行われており、目撃者もいる。
「妃殿下の全部、デタラメで、嘘かもしれないじゃない。なぜ皆、そう思わないの?家族でしょう?」
「ルイソード様、発言を失礼します」
ティファナがルイソードに断りを入れて、ルアンナに向いて話し始めた。
「ルアンナ。暴言については、あなたと一緒にいたというステファー嬢とミンア嬢とカトレア嬢に確認を取りました。皆、認めています」
「っな、どうしてよ、お母様、母親なら娘を守るべきでしょう!」
「違います。親であれば、罪を認めさせて、償うべきだと、私は考えます。あなたはシュリアが愚かなことをしたら、隠蔽することが親のすべきことだと思っているのですか。そんなことをすれば、また隠蔽すればいいと助長するだけです」
「親なら、守りたいと思うものでしょう!お母様は私を愛していないから、そんなことが言えるんだわ」
ティファナはルアンナを愛していないわけがない、サリーとルアンナに事故に遭ったとすれば、ルアンナを助けるだろう。ただし、それは二人が同じ状況であればの話であり、今、話しているのは罪を犯した娘である。
「これは言葉にしたくなかったことですが、もし、あなたの言葉で暴力で妃殿下が身体が不自由になっていたら、万が一にも自害されていたら、私たちの責任では足りません。おそらくこの世にはいなかったことでしょう。父も母も弟も、祖父母も、皆、あなたのせいで処刑されていたかもしれないのです」
一瞬、ルアンナはティファナの真剣な眼差しにたじろいだが、そんなことはあり得ないと首を振った。もしサリーが重病や亡くなっていたら、私がそれこそ正妃になれたかもしれないと想像していた。
「大袈裟よ!」
「あなたに何を言っても、もう駄目なのね…」
「だから、大袈裟なのよ!妃殿下も妃殿下だわ。あの時、言ってくれていたら、今更何なのよ!結婚してからは言っていないわ!過去のことじゃない、笑い話にすればいいじゃない。ルイもそう思うでしょう?」
「確かに私が知っていれば、君と結婚する選択肢はなかっただろうな」
「え」
「君は罪悪感があったのではないか、だから結婚してからはおくびも出さなかった」
「ち、違うわ…そうじゃない、わ」
ルアンナは紳士で優しいルイソードしか知らないため、始めは怒りはするだろうが、結局は許してくれるのではないかと期待していた。だからこそ、殿下に誘われて断れなかったなどと浅墓な思い付きをしたのだ。
罪悪感…は、あった。結婚してからはいい妻になろうとした、夫に馴れ馴れしい令嬢に渡したくないとも思った。そして、ルイソードに愛されている自信があった。
感想
あなたにおすすめの小説
私が使うはずだった部屋に病弱令嬢を寝かせた婚約者とは、白紙に戻します
さんけい王家の意向で進められた婚約。
リーゼロッテ・エーレンフェルトは、婚約者ヒューバート・ラドクリフの屋敷を訪れた日、婚礼後に自分が使うはずだった部屋で、病弱な男爵令嬢アネットが眠っているのを見る。
「君なら分かってくれると思った」
ヒューバートはそう言った。
けれどリーゼロッテが問いたいのは、アネットが可哀想かどうかではない。
弱い方を助けるために、なぜ私の部屋を使ったのですか。
なぜ私の席を、あなたの優しさのために差し出したのですか。
部屋、席、茶会、呼び名。
少しずつずらされた扱いを、リーゼロッテは一つずつ確認していく。
善意を理由に他人の場所を使う婚約者とは、白紙に戻します。
※初日以外は6時・17時の更新といたします。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
私のことはお気になさらず
みおな 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。
そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。
私のことはお気になさらず。
どうぞお好きになさってください
みおな学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕はひとりの男として自由に過ごしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
彼女の離縁とその波紋
豆狸夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。