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変わらない世界
しおりを挟む エンバーは抜け殻のように、茫然としており、リークスもショックを受け、バイラも誰にも掛ける言葉がなかった。
「眠っているようでしたね…」
「ああ」
「辛かったのかな…」
「弱ってらしたそうだ、社交界にも最近は顔を出されていなかった」
「だったら!」
「病だなんて思うはずがないだろう」
社交界で姿を現さないとすれば、妊娠が一番であるが、そうではないことを知っていたカールスですら、もしかしてと複雑な気持ちを持っていた。
「公爵家では良くして貰っていたんだよね?」
「葬儀での姿を見ただろう?あれが演技なら、大したものだよ」
ジシュアはきちんとはしていたが、頬はやつれており、涙こそ流さなかったが、妻を亡くした夫の姿だった。苦しいほどに、身に覚えのあるカールスには、パフォーマンスだとは思えなかった。
「3年前から覚悟されていたそうだ」
「3年…そんな前から」
「悪くなってしてしまったのだろうな」
エンバーは何も知らなかった自分に、絶望した。
「子どもも産むことも難しかったのかもしれない…」
「そんな…でも、3年前なら」
デートライ公爵が子どもは作らないと言っていたのは、3年以上前の話である。
「ああ、お前が聞いたより後だな。でもな、だから子どもを望む家に、嫁がなくて良かったかもしれない。嫡男がいて、良かったのだよ」
リークス夫妻に子どもが出来ないことは聞いていたが、エンバーもメリーナがいてくれるなら、子どもも要らなかったと、考えていた。
「メメリー、リークスの母も同じ病だったそうだ」
「え…」
「リークスには言うつもりはないが、寿命を縮めたのは私だった…」
「それは」
「これは、私の責任で、リークスには何も負うことはない」
「はい…」
出産後に亡くなっていることから、感じてはいるだろうが、出来れば、決定的なことはリークスの耳には入れたくない。
「メリーナ夫人は、長くないことも分かっていて、生き抜いたそうだ。最期は夫と息子と嫁に囲まれて、幸せだったおっしゃって亡くなったと、スペンサ侯爵が教えてくださった」
カールスはエンバーには辛い言葉かもしれないが、きっとメリーナのことならば、知りたいと思うだろうと伝えたつもりだった。
「…そっか、幸せだったのなら良かった…笑えていたかな?」
「ああ、きっとな」
それでもエンバーにとっては、ずっと思い続けている相手だった。
ふとした瞬間に悲しみに浸ってしまうこともあり、今のような状態で辺境に戻るのは、危険であるためにしばらく休みを貰った。
家族も黙って見守り、辺境に戻る日にメリーナの墓にたくさんの花を供えた。
「生きている君に渡したかったな。君のことが本当に好きだった…いや、今でもそうだ。でも、君が笑っていられたなら、それでいい。私は嫌だというかもしれないけど、君の分も生きていくよ…メリーナ…」
戻っても、悲しい時はちゃんと悲しんだ方がいいと声を掛けて貰ったが、メリーナが亡くなった現実を見ながらも、どこか違う世界の話なのではないか、現実のこととは思えなかった。
婚約が叶わず、メリーナは結婚してしまったが、相手がデートライ公爵だと知って、ふざけるなと思った。
だが、同時に爵位を得て、メリーナも再婚なら、私としてくれるのではないかと、期待をしていた。いや、そのために頑張っていた。
そんな思いが良くなかったのだろうか。
友人だったら、好きにならなければ…辛い時に側にいれたかもしれない。
いつになったらいない世界に慣れるのか、思い出に出来るのか、分からなかった。
メリーナが亡くなり、一ヶ月が経つ頃、カールス宛に手紙が届いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本日もお読みいただきありがとうございます。
今月中に完結を目指していたのですが、
微妙なところとなっております。
ですので、本日は1日2話、投稿いたします。
次はいつもの17時です。
どうぞよろしくお願いいたします。
「眠っているようでしたね…」
「ああ」
「辛かったのかな…」
「弱ってらしたそうだ、社交界にも最近は顔を出されていなかった」
「だったら!」
「病だなんて思うはずがないだろう」
社交界で姿を現さないとすれば、妊娠が一番であるが、そうではないことを知っていたカールスですら、もしかしてと複雑な気持ちを持っていた。
「公爵家では良くして貰っていたんだよね?」
「葬儀での姿を見ただろう?あれが演技なら、大したものだよ」
ジシュアはきちんとはしていたが、頬はやつれており、涙こそ流さなかったが、妻を亡くした夫の姿だった。苦しいほどに、身に覚えのあるカールスには、パフォーマンスだとは思えなかった。
「3年前から覚悟されていたそうだ」
「3年…そんな前から」
「悪くなってしてしまったのだろうな」
エンバーは何も知らなかった自分に、絶望した。
「子どもも産むことも難しかったのかもしれない…」
「そんな…でも、3年前なら」
デートライ公爵が子どもは作らないと言っていたのは、3年以上前の話である。
「ああ、お前が聞いたより後だな。でもな、だから子どもを望む家に、嫁がなくて良かったかもしれない。嫡男がいて、良かったのだよ」
リークス夫妻に子どもが出来ないことは聞いていたが、エンバーもメリーナがいてくれるなら、子どもも要らなかったと、考えていた。
「メメリー、リークスの母も同じ病だったそうだ」
「え…」
「リークスには言うつもりはないが、寿命を縮めたのは私だった…」
「それは」
「これは、私の責任で、リークスには何も負うことはない」
「はい…」
出産後に亡くなっていることから、感じてはいるだろうが、出来れば、決定的なことはリークスの耳には入れたくない。
「メリーナ夫人は、長くないことも分かっていて、生き抜いたそうだ。最期は夫と息子と嫁に囲まれて、幸せだったおっしゃって亡くなったと、スペンサ侯爵が教えてくださった」
カールスはエンバーには辛い言葉かもしれないが、きっとメリーナのことならば、知りたいと思うだろうと伝えたつもりだった。
「…そっか、幸せだったのなら良かった…笑えていたかな?」
「ああ、きっとな」
それでもエンバーにとっては、ずっと思い続けている相手だった。
ふとした瞬間に悲しみに浸ってしまうこともあり、今のような状態で辺境に戻るのは、危険であるためにしばらく休みを貰った。
家族も黙って見守り、辺境に戻る日にメリーナの墓にたくさんの花を供えた。
「生きている君に渡したかったな。君のことが本当に好きだった…いや、今でもそうだ。でも、君が笑っていられたなら、それでいい。私は嫌だというかもしれないけど、君の分も生きていくよ…メリーナ…」
戻っても、悲しい時はちゃんと悲しんだ方がいいと声を掛けて貰ったが、メリーナが亡くなった現実を見ながらも、どこか違う世界の話なのではないか、現実のこととは思えなかった。
婚約が叶わず、メリーナは結婚してしまったが、相手がデートライ公爵だと知って、ふざけるなと思った。
だが、同時に爵位を得て、メリーナも再婚なら、私としてくれるのではないかと、期待をしていた。いや、そのために頑張っていた。
そんな思いが良くなかったのだろうか。
友人だったら、好きにならなければ…辛い時に側にいれたかもしれない。
いつになったらいない世界に慣れるのか、思い出に出来るのか、分からなかった。
メリーナが亡くなり、一ヶ月が経つ頃、カールス宛に手紙が届いた。
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本日もお読みいただきありがとうございます。
今月中に完結を目指していたのですが、
微妙なところとなっております。
ですので、本日は1日2話、投稿いたします。
次はいつもの17時です。
どうぞよろしくお願いいたします。
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