【完結】愛しくない、あなた

野村にれ

文字の大きさ
158 / 344

【テイラー】回顧

「どのような反応をするかは分かりませんが、見舞って貰う必要はありません」
「分かった」
「見舞うとも言わないかもしれません」
「そのようなことはないだろう」
「家を出てから訪ねて来ることも、手紙一つもありませんから」

 その言葉に会いたいと思うはずがないと、ルーベンスも感じた。

「アイルーンの記憶のせいでしょうか、どこか家族であって家族でないような、婚約も名ばかりのようなものでした……友人に恵まれなかったのは残念でしたが、私もどこか距離があったのかもしれません」
「そうだったのか」
「家族に関して、あちらが家族と思えないとしても、私にも責任があります。ですが、子爵としては容赦なく貴族として、ご判断してください」

 ナナリーはその言葉に、エレサーレを見つめた。ここで判断ができるのは彼だけだろう。

「テイラー嬢の言葉はきちんと伝える」
「お願いします」

 ラオナが変わっていないのなら、別の者に変えることも考えなくてはならない。

 テイラーはエイク子爵家よりも、ナナリーと話している影響か、ふと浮かんだのはマークの顔であった。

「……マーク・ファドットは幸せそうでしたね」
「見た、のね……」

 あの夜会で、テイラーがマーク夫妻を見た可能性を聞いていた。ペナルティーの期間は、さすがに過ぎている。

「はい……私はどこかで彼も幸せではなかったらなどと考えていました。性格が悪いですよね」
「そんなことないわ」
「私と同じように不幸だったら、救われるなんて思っていたのですよ」

 不幸という言葉に胸痛めたのはディオエル、ライシードたち竜帝国側であった。

 同じ番でありながら、殺されたアイルーンと、今でも生きており、妻もいるマーク。あまりに対照的な人生を歩むことになった。

 テイラーの言葉に、誰も慰めでも幸福だったとは言えない。

「当然よ!間違っていないわ」
「私は不幸になったのに、幸せそうに笑っていたら、怒りが沸くような気もしていました」

 夜会でテイラーは知り合いもいるかもしれないから、視線が合わないようにしていたが、マークだけはどうしても見つけてしまった。

 妻はマークの腕を持って、身を寄せていた。夫婦なのだからおかしいことではなかった。だが、見たくはなかった。

 向こうはいくら見ても気付くことはなかっただろうが、あまりに自分が惨めに思えて、マークと目を合わせることはできなかった。

「怒っていいわ、あんなギリギリで……」

 二人は穏やかで、お似合いであった。なのに、番というものに振り回されて、マークと結婚していたら、その後で番が見付かったかもしれないが、ディオエルと結婚することはなかったかもしれない。

 結婚していれば、番だと言っても抵抗する手段はある。

 それでも、結局は嫁ぐことになっても、こちらに有利な条件も付けることができたかもしれない。

「本当に許せなかったわ!今思い出しても、腹が立つ!でも」
「お義姉様は、そう言ってくださいましたね。悲しいとも言ってくれました。でも彼だけでも幸せそうで良かったと思うようにしたのです」

 一緒に巻き込まれて、不幸になることもあったかもしれない。だったら、良かったのかもしれないと考えた。

「そ、そうなのね。でも悲しかったし、今でも私は許していないわ!」

 ナナリーは悲しみも、怒りもあり、それをアイルーンにぶつけてくれ、ディオエルのこともルーベンスとベルサートとは違って、最後まで心配をしてくれた人だった。

「事実だよ、ナナリーは徹底してマークを無視している。アイルーンの友人たちも同じだよ」

 言葉を付け加えたのは、ベルサートであった。

 ベルサートは必要があれば、マークと話すこともあるが、ナナリーは徹底して、マークとも妻とも話す気はなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

本日もお読みいただきありがとうございます。

本日は1日2話、投稿させていただきます。
いつもの17時に、もう1話投稿します。

どうぞよろしくお願いいたします。

あなたにおすすめの小説

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

大人しい令嬢は怒りません。ただ二年間、準備していただけです。――婚約解消の申請が受理されましたので、失礼いたします

柴田はつみ
恋愛
婚約者に、誕生日を忘れられた。 正確には、忘れられたわけではない。 エドワード・ヴァルト公爵はちゃんと覚えていた。 記念のディナーも、予約していた。 薔薇だって、一輪、用意していた。 ただ――幼馴染のクロエ・アンセル伯爵令嬢から使いが来た瞬間、全部置いて行ってしまっただけだ。 「すぐ戻る」 彼が戻ったのは、三時間後だった。 蝋燭は溶け切り、料理は冷え、ワインは乾いていた。 それでもリーゼロッテ・フォン・アルテンベルクは、笑顔で座って待っていた。 「ええ、大丈夫でございます。お気遣いなく」 完璧な微笑みで、完璧にそう言った。

【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい

歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、 裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会 ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った 全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。 辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。

『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様

恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。 不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、 伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。 感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、 ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。 「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」 足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。 「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」 一度凍りついた心は、二度と溶けない。 後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、 終わりのない贖罪の記録。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!