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もう二度と
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「番だ!」
ミファラは一人で買い物に出た先で、突然後ろから、ぎゅうと力強く抱き締められた。驚いて、離してくださいと叫びながら抵抗したが、微動だに動かなかった。
「番、名前を教えて欲しい」
「私は夫も子どももおります」
男はつい殺気が放ってしまったが、番がビクリとすると慌てて治めて、すまない、ただ想うことだけは許して欲しいと告げたが、番は慌てて逃げて行ってしまった。
ミファラが家に帰ると、夫が子どもを抱いて待ち構えていた。
「遅くなってすみません」
「番だと言われたのか」
「なんで…」
「見た者がいて、知らせてくれた。本当なのか!」
家がバレたらまずいと思ったミファラが遠回りしている間に、大きな声を出したせいで、知り合いに見られていたようで、夫に知らされていた。
今日は夫が子どもを看ているから、ゆっくり買い物をしておいでと言われただけだったのに。どうして、こんなことなるならば、出掛けたりしなかった。
「大丈夫です、逃げて、時間を空けて帰って来ましたから」
「そんなこと無駄だろう。離縁だ、アデルは俺が連れて行く。一緒にいたら何をされるか分からない、分かるな?」
「嫌よ、トップス、そんなのないわ」
「ミファラのせいじゃないのは分かっている。でも仕方ないだろう。俺は実家に行くから、お別れだ。アデルが大事ならもう会いに来るな」
「…そんな、そんな、アデル…」
ミファラは3日泣いて過ごした後、家から10分くらい先にある山に登った。木を背にして座って、家から持って来た包丁を出し、夫と子ども、そして両親、姉、弟、義両親のことを考えた。
トップスと私は家が近く、幼なじみのような関係だった。同じ男爵家だったが、嫡男ではないトップスと私は、結婚して平民として暮らしていた。アデルも生まれて、大変だけど、幸せな日々を過ごしていた。
あれからトップスとアデルが戻って来るのではないかと期待したが、誰も訪ねても来ることもなければ、心配してくれる者もいなことに打ちのめされた。
私には誰もいなくなったのだ。
そこからは転がり落ちるように、死しか考えられなかった。
ガサっという音がする方を向くと黄色い光が、こちらに向かって来ていた。顔もよく覚えていないが、この前の男だと思った。
「来るな!お前のせいで全てなくなった。もう生きる意味もない」
「すまない、頼むからその手の物は離してくれ」
「うるさい!もういいから消えてくれ」
「死なないでくれ…頼む。生きてさえいてくれたらいい」
「私の願いを叶えられないお前に、お前の願いを叶える気はない」
包丁を首に当てようとした瞬間、包丁は取り上げられてしまったのだ。暴れるミファラを抱きかかえて、そのままその男の宿屋に行き、人攫い、失せろ化け物、死ねと罵っても、悲しげな表情をするだけだった。
怒鳴っても返してこない相手に、馬鹿馬鹿しくなり、泣くか、放心状態となった。
ミファラはその知らない男に湯浴みをされ、着替えさせられて、口に食べ物を突っ込まれて、抱きかかえられて眠られても、何も感じなくなった。
その男の王都にある邸に連れて行かれても、同じように世話をされる、まるで人形と化した。
綺麗な服を着て、化粧をしても、意思のない人形はだらりと座っているだけ。
「何かしたいことはないか、欲しい物はないか」
男は毎日、ミファラに訊ねて来るが、人形は答えない。
男は医師に勧められて、連絡は入れていたが、ミファラの両親を呼んだ。
「ミファラ!」
「ミファラ、心配したのよ!」
両親はだらりと座ったままのミファラを抱きしめたが、ミファラの目に輝きは戻らず、反応もしなかった。
「アデルはちゃんと育っているから、心配しなくていいからな」
「アデル…」
何日か振りに聞いたミファラの声だった。
「そう、アデルは元気よ」
「死にたい…殺して…」
「何を言ってるんだ!」
「そうよ、番なんでしょう?トップスくんのことは残念だけど、あなたはこれから、この方と生きていくのでしょう?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございます。
新しいお話です。
書いていた作品を漁っても漁っても暗い話しかなかったので、
やっぱり好きなんだろうなと思い、開き直って投稿します。
どうぞよろしくお願いいたします。
ミファラは一人で買い物に出た先で、突然後ろから、ぎゅうと力強く抱き締められた。驚いて、離してくださいと叫びながら抵抗したが、微動だに動かなかった。
「番、名前を教えて欲しい」
「私は夫も子どももおります」
男はつい殺気が放ってしまったが、番がビクリとすると慌てて治めて、すまない、ただ想うことだけは許して欲しいと告げたが、番は慌てて逃げて行ってしまった。
ミファラが家に帰ると、夫が子どもを抱いて待ち構えていた。
「遅くなってすみません」
「番だと言われたのか」
「なんで…」
「見た者がいて、知らせてくれた。本当なのか!」
家がバレたらまずいと思ったミファラが遠回りしている間に、大きな声を出したせいで、知り合いに見られていたようで、夫に知らされていた。
今日は夫が子どもを看ているから、ゆっくり買い物をしておいでと言われただけだったのに。どうして、こんなことなるならば、出掛けたりしなかった。
「大丈夫です、逃げて、時間を空けて帰って来ましたから」
「そんなこと無駄だろう。離縁だ、アデルは俺が連れて行く。一緒にいたら何をされるか分からない、分かるな?」
「嫌よ、トップス、そんなのないわ」
「ミファラのせいじゃないのは分かっている。でも仕方ないだろう。俺は実家に行くから、お別れだ。アデルが大事ならもう会いに来るな」
「…そんな、そんな、アデル…」
ミファラは3日泣いて過ごした後、家から10分くらい先にある山に登った。木を背にして座って、家から持って来た包丁を出し、夫と子ども、そして両親、姉、弟、義両親のことを考えた。
トップスと私は家が近く、幼なじみのような関係だった。同じ男爵家だったが、嫡男ではないトップスと私は、結婚して平民として暮らしていた。アデルも生まれて、大変だけど、幸せな日々を過ごしていた。
あれからトップスとアデルが戻って来るのではないかと期待したが、誰も訪ねても来ることもなければ、心配してくれる者もいなことに打ちのめされた。
私には誰もいなくなったのだ。
そこからは転がり落ちるように、死しか考えられなかった。
ガサっという音がする方を向くと黄色い光が、こちらに向かって来ていた。顔もよく覚えていないが、この前の男だと思った。
「来るな!お前のせいで全てなくなった。もう生きる意味もない」
「すまない、頼むからその手の物は離してくれ」
「うるさい!もういいから消えてくれ」
「死なないでくれ…頼む。生きてさえいてくれたらいい」
「私の願いを叶えられないお前に、お前の願いを叶える気はない」
包丁を首に当てようとした瞬間、包丁は取り上げられてしまったのだ。暴れるミファラを抱きかかえて、そのままその男の宿屋に行き、人攫い、失せろ化け物、死ねと罵っても、悲しげな表情をするだけだった。
怒鳴っても返してこない相手に、馬鹿馬鹿しくなり、泣くか、放心状態となった。
ミファラはその知らない男に湯浴みをされ、着替えさせられて、口に食べ物を突っ込まれて、抱きかかえられて眠られても、何も感じなくなった。
その男の王都にある邸に連れて行かれても、同じように世話をされる、まるで人形と化した。
綺麗な服を着て、化粧をしても、意思のない人形はだらりと座っているだけ。
「何かしたいことはないか、欲しい物はないか」
男は毎日、ミファラに訊ねて来るが、人形は答えない。
男は医師に勧められて、連絡は入れていたが、ミファラの両親を呼んだ。
「ミファラ!」
「ミファラ、心配したのよ!」
両親はだらりと座ったままのミファラを抱きしめたが、ミファラの目に輝きは戻らず、反応もしなかった。
「アデルはちゃんと育っているから、心配しなくていいからな」
「アデル…」
何日か振りに聞いたミファラの声だった。
「そう、アデルは元気よ」
「死にたい…殺して…」
「何を言ってるんだ!」
「そうよ、番なんでしょう?トップスくんのことは残念だけど、あなたはこれから、この方と生きていくのでしょう?」
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お読みいただきありがとうございます。
新しいお話です。
書いていた作品を漁っても漁っても暗い話しかなかったので、
やっぱり好きなんだろうなと思い、開き直って投稿します。
どうぞよろしくお願いいたします。
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