【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ

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もう二度と

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「消えたら…どうするつもりだったんだ?」
「出て行くわよ、どこかの教会で懺悔をしようと思っていたわ」
「懺悔?」
「ええ、だって子どもを捨てたんだもの」
「君のせいじゃない」

 ミファラの息子を引き取れないか、弁護士にも相談もしたが、権利は父親にあり、どうにもならなかった。

 番で離縁となった場合は、子どもがいる場合は番ではない方に権利があり、子どもの意思も尊重されるが、まだアデルは生後半年で、意思など確認できるはずもなく、渡さないと言われれば、それで終わりである。

 いくら公爵家と男爵家でも、関係ない。

「私が君に出会わなければ…良かったんだ。すまない…」

 ミファラはまた人形のようになるか、酒をまた飲み始めた。ぼんやりしていて、あの日、しっかりと会話をしたことが嘘のようだった。

 ノラはシュアンが休職したことを聞き、驚いた。シュアンは親戚ではあるが、部も違えば後輩であり、同僚なら知っているかと思い、シュアンの友人でもあるグルズ・クリーン侯爵令息に話を聞きに行った。

「シュアンが休職って、何かあったんですか?」
「家の事情らしいよ」
「まさか、またあの子のせいなの?何やってるの!」

 折角、話をしに行ってあげたのに、また迷惑を掛けているなんて信じられない。

「お前の気持ちも分かるが、そう言ってやるな。彼女は好きでここに来た訳じゃない。居場所を奪われただけなんだから」
「だったら何をしてもいいの?甘ったれてるのよ!気の弱そうな、いかにも男爵令嬢って感じだったわ。しかも平民として暮らしていたのでしょう?」

 ノラは伯爵家の令嬢で、現在は伯爵令息夫人であり、男爵令嬢だったミファラを下に見ていた。

「はあ…ここだけの話だが、どうも行こうとしたらしいんだよ」
「逃げようとしたの?それなら一度、身を持って分からせるために、逃がせば良かったのに。それで世間の厳しさを分からせれば良かったのよ」
「違うよ、死のうとしたそうだ」

 ノラは死のうとしたという言葉が、理解が出来なかった。

「…えっ?でも、助かったんでしょ?気を引くためじゃないの?」

 死んでやると言って、気を引く女がいると聞いたことがある。いかにも気の弱そうな女のやることだが、あの女ならばやりそうだ。

 酔っぱらっているのも、自分に注目を集めたいだけじゃないかと疑っていたが、やっぱりその手の女だったか。番だからといって、いい相手とは限らない。シュアンは運が悪すぎる。

「それはないよ。シュアンが少し遅かったら、本当に亡くなっていたそうだよ。そうなっていたら、シュアンがどうなっていたかも分からない」
「う、そ…」
「おそらく、死ぬことに躊躇がないんだよ…生きる意味がないというか」

 ペーパーナイフで死ぬなんて、余程力を入れて、強い意志がないと出来ない。死にたかった以外の理由はないだろう。

「息子さんを引き取れれば違ったんだろうけど、渡すはずないよな、どんな待遇になるか分からないと思われているだろうし」

 番優先となって、子どもを蔑ろにするならまだいい方で、子どもがいるから、番が優先してくれないと、虐待を繰り返したり、殺すということもあり、子どもを渡すことはまともな親であれば行わない。

 お金目当てに渡すことはあるそうだが、そんな親はまともではない。

「少し落ち着いて来たと言っていたんだけどね、一体何があったのか…心の傷は見えない分、何がきっかけになっているか分からない」
「そうなの…」
「死ぬところを見せられたようなものだ、休暇も無理はないと私は思うよ」
「そうですね…」

 ノラの胸の中に私のせいじゃないという気持ちが膨らんでいった。
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