【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ

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もう二度と

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「大丈夫ですか」
「これ、折れていますよ。すぐに連絡を」
「えっ、待って、えっ」

 さすがに折れていると言われて、ノラも焦った。

「折れている?ノラ!お前は何てことを」
「いや、私は掴んだだけで」

 ますます人目を集めることになり、あの女性が酷いことを言った挙句、手首を折ったということになってしまっている。

「すぐに帰って治療を、動かさないように参りましょう」
「待ってください!病院に連れて行きます」
「いえ、公爵様をお呼びした方が早いです」
「公爵?」
「はい、ロークロア公爵です」

 さあ行きましょうと使用人が支えると、大丈夫よ、利き手ではないからと言ったが、ミファラは皆に連れられて、馬車に乗った。その様子を呆然とリックスとノラは見ているしかなかった。

「お前は何てことしてくれたんだ!」

 買い物どころではないと邸に戻ったリックスは、ノラに激怒していた。

「怪我をさせる気なんてなかったの」
「当たりまえだろう?させる気だったら、どうかしているさ。彼女が番なんだな…」

 リックスもシュアンに番が見付かったが、夫と子どもがいて、引き離されてしまったという事情は聞いている。

 そして、ノラが番に助言に行き、少し状況が良くなったとしか聞いていなかった。それがなぜこんなことになったのか分からない。

「はい…」
「助言に行ったではなかったのか?傷付けに行ったのか?」

 幼なじみということもあり、シュアンに幸せになって欲しいと願っていることはリックスも分かっていた。

「違うわ!」

 ノラはリックスに自殺しようとしたことは話していなかった。いや、自分のせいだと思われたらと、怖くて話せなかった。

「だが、価値がないなどと言ったんだな?」
「そういう意味で言ったんじゃないわ!甘えてばっかりではなく、強くさせるために、でないとシュアンが可哀想じゃない。少し強い言い方ではあったとは思うわ、ちゃんとシュアンには謝ったの」
「彼女には謝ったのか?」
「私は正しいことを言っただけで…」

 私はおかしなことを言ったわけではない、彼女が穿った受け取り方をしただけで、私は悪くない。

「それが今日の言葉に繋がるんだな?怪我をさせたのは事実だ。謝罪に伺おう。誠心誠意、謝るんだ」
「はい…」

 ロークロア公爵邸には慌てて帰って来たシュアンが、ミファラに治癒術を施そうとしたが、ミファラは拒否した。

「この程度で治癒術を使うようなことではありません。利き手ではありませんから」

 この前は意識がなかったので、仕方ないことではあったが、ミファラにとって、治癒術のような高貴な術を自分などに、使われることがあり得ないことであった。

「だが、ずっと痛むことになる」
「構いません」
「ならば、痛み止めだけでも用意する」
「分かりました」

 湿布をして、手首を動かせないように固定し、痛み止めを服用することになった。

 シュアンは治せる力があるのにと、もどかしい気持ちにはなったが、執事に男爵家の感覚であればおかしいことではないと諭された。

 治癒術で金品を受け取ることは犯罪になるが、所属先や重症度によって優先度は変わる。ミファラにとってはいずれ治る感覚でしかないが、シュアンにとっては番が傷付いているという感覚なのだ。

 そして、ノラのことである。

 始めは怒りで一杯であったが、状況を聞くと、話し掛けたのはミファラの方で、ノラが話し掛けたわけではないそうだが、淡々と価値がないと言ったお礼を言い、周りの者が驚いていたこと。

 誰を相手にしても価値がないなどという言葉は、非常識でしかない。

 ただ、折れたのは意図的ではなく、手首を掴んだ拍子に、力が入り過ぎて、折れてしまったのだろうという見解だった。

 ミファラも特に怒ってもいない様子だったそうだ。

 夫も一緒だったようだから、おそらく謝罪に訪れるだろう。

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