89 / 103
もう二度と
30
「まず、お伺いしたいのですが、使用人の方々はミファラ様を前のようには、看ていなかったのではないでしょうか?」
「毎日、変わりはないと言っていたが?」
「ご子息ももう10歳になりますか」
「ああ、無事育っている」
あれから十年の歳月が流れていた。ミファラはシュアンに頼まれた翻訳を行い、外出は変わらずレターセットを買いに行くことくらいしかない。
アークスとは離れた部屋にいるので、顔を合わすことはほとんどない。お互い、一方的に見ることがあるくらいである。
「皆の興味がご子息に向くことは理解が出来ます。ミファラ様もほとんどお部屋で過ごされていたと、ご子息を距離を取るためだったのでしょう」
「何が言いたい?」
「呼吸困難なったのは、久し振りではない可能性があります」
「何だと…不明とは書かれていたが」
シュアンも治癒術を使うために、患者のカルテを見ることはある。侍医の書いてあることは分かっていた。だからこそ、何か治療が必要な状況、悪い病気なのではないかと緊張していたのだ。
「怪我と違って、治まってしまえば何もなかった顔が出来るなら、今回の様に見付からなかったら、ミファラ様は隠すでしょう」
「まさか…隠していたと言うのか?」
「言うと思いますか?」
「いや、言わないだろうな」
「ご本人は久し振りだと仰いましたが、調べて分かるものではありませんから、ミファラ様が久し振りだと言えば、それが事実になってしまいます」
調べる術もなければ、聞いたことを信じるしかない。
「どこが悪いんだ?」
「可能性としては心臓、肺でしょうね」
感染症ではないことから、シュアンの治癒術では治せない。治せるならば、呼吸困難で苦しむミファラを治すことが出来た。
「…そうか」
「むくみが出ておりましたから」
「酒のせいかと思っていた…」
「それもあるかもしれませんが、心臓の可能性が高いと思います。薬を服用するくらいしか方法はありません。予防するためだと言って服用させるのがいいでしょう」
「ああ、頼む」
侍医はシュアンに先触れを貰って、既に心臓の薬を用意していた。
「穏やかな表情をしていたのが気になったのです」
「穏やかな?」
「はい、妊娠中も前に診察した際も、あのような表情は見たことがありませんでした。心を置き忘れたような表情をされていた」
「…」
「ここからは私の一番残酷な診断だと思って聞いてください」
シュアンは目を見開いて侍医を見たが、聞くべきだと思った。
「ああ…」
「終わりに目途が付いたからではないかと思ったのです。ミファラ様は自分の体調に気付いていらっしゃる。それが昨日たまたま見付かってしまっただけだったのではないか、そう判断しました」
「死ぬというのか…」
何度も呼吸困難になり、自分の身体が悪くなっていることに気付いたからこそ、ようやく死ねると思っているというのか。
「終わりが見えたからこそ、あの穏やかな表情だったのではないかと思うのです。皮肉ではありますが、彼女はもう自殺を図ろうとすることはないでしょう」
侍医は妊娠するまではミファラの状況を詳しくは聞いていなかった、怪我はシュアンが治していたからだ。だが、妊娠に当たって、全てを聞かされることになり、不安定の理由を知った。
正直、生後の半年の子どもと離れ離れにされた母親ならば、無理もないと思った。出産後の母親は子どもを守ることを第一に考え、自分のことなど後回しになる、精神状態が安定するわけがない。
「覚悟をして置いてください」
「…」
「時間があまりないかもしれません。心臓は一瞬です。だからと言って、負担のかかるようなことを言うことも、危険であることは注意してください」
「毎日、変わりはないと言っていたが?」
「ご子息ももう10歳になりますか」
「ああ、無事育っている」
あれから十年の歳月が流れていた。ミファラはシュアンに頼まれた翻訳を行い、外出は変わらずレターセットを買いに行くことくらいしかない。
アークスとは離れた部屋にいるので、顔を合わすことはほとんどない。お互い、一方的に見ることがあるくらいである。
「皆の興味がご子息に向くことは理解が出来ます。ミファラ様もほとんどお部屋で過ごされていたと、ご子息を距離を取るためだったのでしょう」
「何が言いたい?」
「呼吸困難なったのは、久し振りではない可能性があります」
「何だと…不明とは書かれていたが」
シュアンも治癒術を使うために、患者のカルテを見ることはある。侍医の書いてあることは分かっていた。だからこそ、何か治療が必要な状況、悪い病気なのではないかと緊張していたのだ。
「怪我と違って、治まってしまえば何もなかった顔が出来るなら、今回の様に見付からなかったら、ミファラ様は隠すでしょう」
「まさか…隠していたと言うのか?」
「言うと思いますか?」
「いや、言わないだろうな」
「ご本人は久し振りだと仰いましたが、調べて分かるものではありませんから、ミファラ様が久し振りだと言えば、それが事実になってしまいます」
調べる術もなければ、聞いたことを信じるしかない。
「どこが悪いんだ?」
「可能性としては心臓、肺でしょうね」
感染症ではないことから、シュアンの治癒術では治せない。治せるならば、呼吸困難で苦しむミファラを治すことが出来た。
「…そうか」
「むくみが出ておりましたから」
「酒のせいかと思っていた…」
「それもあるかもしれませんが、心臓の可能性が高いと思います。薬を服用するくらいしか方法はありません。予防するためだと言って服用させるのがいいでしょう」
「ああ、頼む」
侍医はシュアンに先触れを貰って、既に心臓の薬を用意していた。
「穏やかな表情をしていたのが気になったのです」
「穏やかな?」
「はい、妊娠中も前に診察した際も、あのような表情は見たことがありませんでした。心を置き忘れたような表情をされていた」
「…」
「ここからは私の一番残酷な診断だと思って聞いてください」
シュアンは目を見開いて侍医を見たが、聞くべきだと思った。
「ああ…」
「終わりに目途が付いたからではないかと思ったのです。ミファラ様は自分の体調に気付いていらっしゃる。それが昨日たまたま見付かってしまっただけだったのではないか、そう判断しました」
「死ぬというのか…」
何度も呼吸困難になり、自分の身体が悪くなっていることに気付いたからこそ、ようやく死ねると思っているというのか。
「終わりが見えたからこそ、あの穏やかな表情だったのではないかと思うのです。皮肉ではありますが、彼女はもう自殺を図ろうとすることはないでしょう」
侍医は妊娠するまではミファラの状況を詳しくは聞いていなかった、怪我はシュアンが治していたからだ。だが、妊娠に当たって、全てを聞かされることになり、不安定の理由を知った。
正直、生後の半年の子どもと離れ離れにされた母親ならば、無理もないと思った。出産後の母親は子どもを守ることを第一に考え、自分のことなど後回しになる、精神状態が安定するわけがない。
「覚悟をして置いてください」
「…」
「時間があまりないかもしれません。心臓は一瞬です。だからと言って、負担のかかるようなことを言うことも、危険であることは注意してください」
あなたにおすすめの小説
あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
愛があれば、何をしてもいいとでも?
篠月珪霞
恋愛
「おいで」と優しく差し伸べられた手をとってしまったのが、そもそもの間違いだった。
何故、あのときの私は、それに縋ってしまったのか。
生まれ変わった今、再びあの男と対峙し、後悔と共に苦い思い出が蘇った。
「我が番よ、どうかこの手を取ってほしい」
過去とまったく同じ台詞、まったく同じ、焦がれるような表情。
まるであのときまで遡ったようだと錯覚させられるほどに。
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです